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霧の時間

今住んでいる所へ越して来て春で二年経つが、嬉しかったことの一つは、ときおり霧の出ることだった。

霧に包まれてみると、世の中から遮断されて、でも何だか守られているような気がする。

私の大好きな須賀敦子さんは、ミラノの霧について思い出と共に語っているが、その霧が私の周りにも現れるようになって、なお一層、須賀さんの語るミラノの霧について、一緒に懐かしむような気分になって来るのだった。

そして、一人で居ても誰かと過ごしているような、かと言って過剰に関わり合っている訳ではなく、一人で居る心地良さと、誰かと安寧な心持ちで寄り添っているような、そんな霧の時間となって行く。

一人で居て、うちで何かに集中していたり、逆に何もしないでぼーっとしていたり、平和に過ごすことも多いが、時には一人で居ることに耐え難く蝕まれるような気持ちになることがある。

そんな一人の時間を辛く思うような時でも、霧が出ていると思えば、案外休まるかもしれない。霧の中なのだからしょうがない。いや、霧の中なのだから安心だ。このまま静かに霧に包まれていようと。

一人の時間は霧の時間なんだ。そう思うことにした。