東京大学大学院 工学系研究科 社会基盤学専攻を外部受験して合格した話

はじめまして.2023年度現在,関西の某国立大学土木系学科B4のきよみです.このたび東京大学 工学系研究科 社会基盤学専攻(以下,社基)に進学することになりましたので,外部の大学院を受験すると決意したきっかけから,院試勉強の備忘録などをまとめていきたいと思います.かなり長い駄文をだらだらと書き連ねていくことになるかと思いますが,大学院進学に興味を持たれた方や社基への進学を目指している大学生,社会人の方々には有益な情報を提供できるかと思いますので,どうか最後までお付き合いください.


進路希望を決めるまで

大学受験生のころのお話

まずは私が東京大学と出会ったときの話から始めます.

私は関西のとある中高一貫の進学校(東大志向で有名な某共学校です)に通っていました.確か高1の頃でしょうか.高校の先生から,志望大学や志望分野について考えていくようにと言われ,当時特に目指したい分野を見つけられていなかった私は困りました.何となく理系・何となく一人暮らししたい程度にしか考えていなかったのですが,理系の学部学科の中に進みたい分野を見つけられていなかったのです.

そんなとき,高校でいくつかの大学のパンフレットを無料で取り寄せられると案内され,記憶にある範囲では東京大学と京都大学,大阪大学のパンフレットを取り寄せます.そこで,東京大学工学部のページをぱらぱらとめくっているときに,都市工学科と社会基盤学科を見つけました.

他の理系の分野(医薬系とか理学系,工学系の中でも機械とか電気)にまったくそそられなかった私にとって,建築とは異なる視点で人間の生活空間・領域をプランニングする学科である都市工と社基がまさに進むべき道だと感じ,そこに進むため受験勉強を進めていくことになりました.

大学入学後

大学受験の結果としては,
センター試験837/900,東大理一15点足りず不合格
でした.

よって,本命の東京大学に進学することは叶わず,後期試験で首席合格した某国立大の土木系学科に進学します.

しかし,進学先の学科では交通系を専門とする先生が定年退職・他大に異動でいなくなり,また学科自体が防災やインフラ構造物の維持管理を主眼とした構成となっていたため,私が大学進学後に学びたいと考えていた内容と少しずれていたように感じました.また,本命の大学とのレベル差が大きく,数学や物理などの基礎教養的な科目の進度が東大や他大よりも遅く課題や試験も明らかに簡単で,大学での学びについて満足できていない状況でした.

これらを踏まえて,大学院進学時に外部の大学院に進みたいという大雑把な進路の希望を持つようになりました.せっかくですから,学部入試時代に目指していた東京大学の大学院工学系研究科にある,社会基盤学専攻あるいは都市工学専攻を受験することを目標に,学部の講義に真剣に取り組んでいきました.

転機:社基とのつながりが生まれる

とは言いつつも,大学院入試は学部入試と異なり,各専攻によって入試形式が異なり,筆記試験においても出題科目,内容が異なります.詳しくは次章で述べますが,専攻によって院試の形式が異なり,また出題内容は学部の講義内容に依存するため,外部から受験しようとすると内部生と比べて持っている情報量の差から不利となります.よって,何らかの形で情報を入手する伝手を確保する必要があります.

私に社基とのつながりが生まれたのはB3の4月でした.B3前期前半に交通工学という講義があったのですが,この講義は大きく分けて三部構成でした.
第一部:交通調査・離散選択モデル 担当:東大の助教(オンライン)
第二部:交通量配分        担当:自学科の准教授(数理最適化)
第三部:交通流理論        担当:自学科の准教授(空間統計)
という構成で,第一部の講義の期間に私用で東京に行くことがあったため,第一部の担当教員に,本郷キャンパスから配信している講義を目の前で受けさせてもらえないかどうかダメもとでお願いしました.

この方は,私の学部の大先輩でもあったため快くOKしてくださり,またその後に東大社基やその方が所属する研究室(空間情報情報グループ/地域情報研究室)の説明,現役学生との交流の機会を設けてくださりました.これをきっかけとして,伝手づくりに邁進していきます.Twitterのフォロワーさんの中に社基出身の社会人の方が複数人いらっしゃり,各研究室の雰囲気や社基での学びについていろいろと教えてくださいました.中でも,研究室の後輩にうちの大学の先輩がいる方がいらっしゃったのでその先輩を紹介してくださり,外部受験の注意点やコツ,勉強の進め方などを教えていただきました.

進路希望決定:研究室訪問

こうして,外部の大学院受験へのモチベーションが高いままB3の3月となりました.社会基盤学専攻主催の大学院の説明会や研究室の訪問期間が設定されるのがこの時期です.3月下旬に研究室訪問に行くこととなりました.

私が見学に行ったのは,
都市と交通グループ    交通・都市・国土学研究室
空間情報グループ     関本研究室
マネジメントグループ   マネジメント研究室
国際プロジェクトグループ 次世代インフラシステム研究室
都市と交通グループ    大口研究室
です.

このように絞ったのは,前述の交通工学において離散選択モデルに魅せられたことと,地域コミュニティを対象として数理モデルを用いた研究を行いたいと考えたためです.研究室訪問時の学生さんや先生方の対応,研究テーマなどを考えて,都市と交通グループ 交通・都市・国土学研究室を第一志望とすることになりました.

学部での研究室もこの時期に決定し,数理モデル・数理最適化を中心に扱う研究室に所属することになりました.指導教員も社基出身の方で,めちゃくちゃ恵まれた研究室配属になったと思います.卒論のテーマも離散選択モデルとなりました.

院試に向けた流れ

さてここから本題に入りまして大学院入試の話に入ります.まず概論として,社基の院試では英語・専門科目・口頭試問が合計1300点満点で点数化されて合否判定がなされます.修士課程においては,研究室単位での志望ではなく,研究グループ単位での志望となり,第10希望まで選ぶことができます.研究グループは以下の通りです.

  • 都市と交通

  • 空間情報

  • マネジメント

  • 景観

  • 水圏環境

  • 基盤技術と設計A

  • 基盤技術と設計B

  • 基盤技術と設計C

  • 国際プロジェクト

  • 都市・防災

各グループの詳細は,専攻HPに記載がありますのでそちらをご覧ください.私は交通・都市・国土学研究室を第一志望とするため,都市と交通グループを第一希望とすることになりました.

次節以降では,各試験科目について詳しく見ていきます.

英語:TOEFL受験

社基の英語は,TOEFL iBTを受験しそのスコアを提出することで点数化されます.英語の配点は300点満点でTOEFL iBTのスコア120点満点を2.5倍して点数化されているとみられます.(スコア76で開示では190点でした.)
目安としてはTOEFL iBTのスコアは80点必要と言われていますが,ボーダーとしてはもう少し低いものとみられます

注意点としては,決まられた期日よりも前に受験してスコアを提出しておく必要があります.6月中の受験であれば間に合うかと思いますが,専門科目の対策に時間をかけることが望ましいため,可能な限り早めに受験しておくことをお勧めします.

私は5月に受験しました.対策としては,単語帳と参考書,問題集を回した程度でしょうか.スコアの詳細は以下の通りです.

  • Reading 26

  • Listening 14

  • Speaking 15

  • Writing 21

ReadingとWritingが対策しやすいと思いますので,ここで高得点を狙い,ListeningとSpeakingは20点を目標にしてもらえればと思います.


専門科目:社会基盤学

専門科目は社会基盤学のみで,試験時間は180分,700点満点で実施されます.分野としては次の6つが出題されます.

  • 構造・設計

  • 材料・地盤

  • 水圏環境

  • 交通・空間情報

  • 都市・景観

  • 国際プロジェクト・マネジメント

私はこの中で,材料・地盤と交通・空間情報を選択しました.

各分野の特徴としては,

  • 水圏環境:基本的な水理学から微小振幅波理論まで出題

  • 交通・空間情報:離散選択モデル,交通量配分,交通流理論,測量学,GIS,リモートセンシングから出題.過去問演習が対策になる.

  • 都市・景観:ほとんど小論文.対策しにくい.

  • 国際プロジェクト・マネジメント:同上

となっています.基本的には,材料・地盤を選択した上で,残り1つを志望する研究グループにあわせて選択するのが望ましいかと思います.

180分の試験でほぼほぼ答案を書き続けることになります.私の場合は,A3サイズ4枚の答案用紙の表面をすべて使い,裏面まで答案を書きました.時間に余裕のある試験ではありませんから,問われている内容に関してすぐに何を答えるべきか分かる状態まで対策するのが望ましいです.

過去問に関しては,2010年までの十数年分を3周~5周行いました.最終的には,各問題の解答を暗記し,頻出の内容についてノートを作成しておくとよいかと思います.

試験結果は575/700でした.出典を示すことができないのですが,400点前半あれば,英語や口頭試問の成績が良い場合,合格できているようです.

注意点としては,試験問題が英語で書かれている点です.ですが,専門用語については日本語訳が示されますので,そこまでしんどくはありません.2010年代の日本語版と英語版の問題を用いて,問題文の表現から何を問うているか分かるように慣れておけば問題ないです.

口頭試問

口頭試問はほとんど適性等を見ている面接です.志望動機について2分ほど話した後,志望理由書をもとに深掘りの質問がなされます.志望理由については,論理的に矛盾のないように組み立てておきましょう.基本的には,自分の第一志望の分野の教員と他の分野の教員が面接官です.私の場合は,都市と交通グループの先生と,地盤系の先生が試験官でした.得点は259/300でした.

合格発表

合格発表は約2週間後に行われます.合格者の番号と配属先のグループが発表されます.私が受けた年は,76人が受験し60人が合格でした.前の年までのオンライン試験時代よりも合格者を絞っていますので,定員に関係なく合格基準に達しているかどうかで判定されているかと思われます.

私は,本命の都市と交通グループに配属となりました.

追記(2024/01/28):
研究室配属が決まり,第1志望の研究室に内定しました.外部受験であっても、試験の成績が良ければ,有名で人気の研究室に入ることもできるようです.

まとめ

ここまで,社基の院試の合格体験記を書いてきましたがいかがでしたでしょうか.東大の院試について,他分野ではnoteがすぐ見つかるのですが,社基については見つからなかったため,今回本記事を書き上げました.これから受験を考えている皆さまの参考になれば幸いです.


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