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鏡よ鏡、私に貫禄をおくれ。

常にマスクをしている今の日本において、年齢とはより判別しにくいものになってきた。人は口元と目元の皺の具合と、全体の肌や髪の感じ、それに洋服などでざっと相手が大体何歳ぐらいだろうということを感じ取っていると思うのだが、少なくとも口元と肌の感じはマスクでかなり隠されている。オンラインMTGなどで相手の顔全体を把握することもあるが、そもそも画質はそこまでよろしくない。結果、特に殊更詐称することなくちょっと若めに見積もられることがある。ヤダァありがとうございます〜そんじゃその年齢ってことで。そんな感じに軽口を叩けるのはプライベートの店やサービス業にお金をこちらが払っているという場面ぐらいで、これがお金を稼ぐ段となるとあまり都合がよろしくない。こちとらもうすぐ35歳のド中堅である。同じことを言っても謎の説得力を醸し出す、相手に難癖をつけてやろうという本能的マウント根性を削ぐ、マジカルパワー「貫禄」。そういうやつが欲しくなるお年頃だ。

もちろん貫禄というもの、ほうれい線を見せびらかすごときで増すものではないだろう。貫禄とは漫画ワンピースで言うところの覇気であり、限られた者が獲得できる、経験や思慮や悟りに裏打ちされた何だだろうから。知らない人のために説明すると、漫画ワンピースでは覇気を獲得した人が雑魚キャラであれば発動するだけで気絶させたりしている。いや欲しすぎるだろう。

女が仕事をしていると、軽率に貫禄が欲しくなることはよくある。女は体も声も、まぁ動物本能から見て弱そうであるし、多少の武器を持っていてもちょっと暴力に出たら倒せそうだ。タクシーの運転手などにもタメ口をきかれ軽々と舐められる。悔しい。逆に「触ったら全員燃やす」ぐらいの殺気で仕事をしてしまうと今度は人望も燃える、そういう難解なゲームの先に、貫禄というものは横たわっている。

私にはこれまでの職場で知り合った何人か素晴らしい女性の先輩方がいる。どの方も仕事がバッシバシにできる上人間的にも素晴らしい方ばかりで、こんな魅力的な50代や60代になれるものだろうかと思う。中には長く仕事をご一緒した方も居て、そこに存在していた仕事の数々が楽勝で華やかなものなどではなかったことも知っている。私たちが20代の時の元旦出社日は晴れ着を着てくる謎文化があってさ、と言う時代を駆け抜けた方々である。晴れ着ですよ晴れ着。そう言うちょっとしたマネキン扱いもあった時代から令和まで、女が働くという荒れた道を踏みならしてきた彼女たちの、ちょっとの事じゃ動じないわよという落ち着きがいつだって眩しい。

色々すっ飛ばして結論を言うと、目の前のあれこれ煩雑なことを貫禄で乗り越えたいとかいう私の発想が大変浅ましい。しかし登っている山の天辺も全く見えない中で日々アップアップしているので、どうにかチートしたくなる。男性管理職のグレーヘアのような、めちゃくちゃ身体に沿って仕立てられたテイラードスーツのような、ちょっと良い時計のような、ちょっと良い飲食店に置かれているボトルキープのような、そういうわかりやすいものがあったら飛びつくダサさは承知の上で手を伸ばしてしまうだろうに。それらの「デキる男のメタファー」自体が時代遅れになりつつあるのだから、そろそろ新しい発明はないものか。

ところで日々美容やファッションのメディアを見ていると、いつだってそこにあるのは見た目のアンチエイジングなどが盛況で、もっとこう「取引先に一目置かれる貫禄ファッション&メイク」みたいなのも欲しいんですよ。ここにいる、浅ましくも手っ取り早く、取り急ぎ見た目倒しな貫禄が欲しいそんな小さな人間のために。エディターの方々いかがですか。

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