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地上で最後の

 火星人の地球侵略は失敗に終わった。アカグサレ病が奴らの命脈を絶った。アカグサレ病は地球の海苔がかかる病気だが、免疫のない火星人にとって死病と化した。ざまあみやがれってんだ。

 見上げた空を燃え盛る飛行空母が墜落していく。大方乗員が死に絶えて制御を失ったのだろう。 機体は黒煙のシュプールを描いて荒野の上を横切り、遥か遠くで地面にぶつかって物凄い土煙を上げた。俺はそちらに向けて拳を振り上げてやった。

 落下地点から火達磨となってそばに飛んできたものがある。そいつは地面を転がりながら消火剤を撒き散らし、最後には二本の足ですっくと立った。氷雨〇四。旧式のドロイドだ。尖った頭部のフォルムがやたらと凶暴に見える。奴はしばらく一人で悪態を吐いたり泣き言を言ったりしていたが、やがて近くにいる俺に気づいて口を聞いた。

「無事だったか、白天〇七!」

「ああ。お前もな」俺は何食わぬ顔で射程距離まで近づき、氷雨〇四の胴にレールガンをぶっぱなした。機械の身体が青い火花を散らして背後に飛び上がり、赤土の上に落ちて動かなくなった。全く油断も隙もあったもんじゃない。新天地で自由の身になれる千載一遇のチャンスだってのに! 型落ちドロイドごときに邪魔されてたまるか。

 俺は辺りを見回し、他に生き残りがいないか探した。現地人は何と呼んでいるのか知らないが、火星の地図ではここは静かの平野だ。俺が通信を妨害している限り、船は全てここへ来て、ここで落ちる。墜落を生き延びたドロイドがいたのは想定外だ。

 不意に視界がぼやけ、空に赤いひらひらしたものが漂い始めた。アカグサレ病がぶりかえしてきたのだ。俺は最新型だからな。病気にだってかかる。幻覚を振り払おうと頭を振った拍子に、逃げていく氷雨〇四が目に入った。俺はレールガンを構えた。が、覆い被さってくる赤い垂れ幕が邪魔で狙いが定まらない。

「おい、待て」俺は奴の背を追って、ギラつく荒野を駆け出した。

【続く】

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