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紙切れになった猫

 詩集『水栽培の猫』の編集をしてくださっている藤井さんが、カバーの色校を送ってくださった。出来上がりの色合いなどを確認するための試し刷りで、これでOKなら本印刷となる。色校は、イメージ通りだった。紙に刷られた猫の次郎が、私に向かって、「元気ですか?僕はこちらの生活にも慣れてきましたよ」と話しかけてくる。

 詩集『水栽培の猫』の中の詩、『口笛』

日に日に削がれて
紙切れになった猫で飛行機を折る
もしも、飛ばしたなら、
二度と会えない
            (『口笛』部分)

 病気になった猫は、自力で飲食できず、毎回、私の手で強制給餌して命をつないだ。口内炎が悪化して、飲み下す時の苦しそうな様子を見て私は、いっそ死んでしまった方が猫は幸せなのではと、最も辛い決断を仕掛けたこともあった。元気な時の体重の半分。ぺらぺらに痩せた次郎だった。けれども、私の目を真っ直ぐ見つめて「僕、頑張って生きますよ」と、励ましてくれた。
 
 我が家には今、弟分の銀時という猫がいる。次郎が健在であったころ、雄猫2匹は、仲が悪いわけではないけれど、きっちり棲み分けていた。銀時は一階の猫用ベッド、次郎は二階の私のベッドで寝た。次郎が亡くなった後も、銀時は決して二階には上がらなかった。私が抱いて連れて上がると、手を放した隙に一目散に逃げ出した。まるで、次郎がそこにいて、威嚇しているかのようだった。それが、どういうわけか一昨日から、自ら進んで二階に上がって、私に抱かれて寝るようになった
 ああ、そうか。
 次郎は私の部屋を出て、詩集にお引っ越ししたのか。ほっと安心すると同時に、どうしようもなく哀しい。紙切れになった私の猫。

詩集『水栽培の猫』思潮社 5月予定

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