2019年 この三冊

①『月』辺見庸
『もの食う人びと』の辺見庸が2016年に相模原の障害者施設で起きた殺傷事件に切り込んだ長篇小説。現実の凄惨なる事件に対して、虚構の力が目を背けずに、どのような言葉を持てるかを示した力作だった。人を傷つけもするし、怒らせもする、それによって逮捕されたり、人が殺されたりもする。そのような表現することの怖さを読みながら感じた。

②『ハイデガーの思想』木田元
今年は新書をたくさん手に取って、斎藤環の『思春期ポストモダン』や小熊英二『社会を変えるには』、柄谷行人『世界史の実験』などなどを読んだが中でも印象深かったのは木田元によるハイデガー入門書だ。他にもハイデガー入門の本を二冊読んでいたが著作の解説や要約にとどまらず、ハイデガーの生涯を辿りながらその思想の変遷を追う本書にはミステリ小説を読むような面白さもあった。

③『資本主義リアリズム』マーク・フィッシャー
著者は2017年に自死したイギリスの批評家。本書は現代の映画や小説を取り上げながら後期資本主義がもたらす病理を分析する一冊だ。それが唯一の道であるかのように突きつけられる資本主義の道、抗おうとする素振りがそれを補強し、それを拒むものをも絡めとっていく強大なシステムである資本主義の姿、その批評の言葉は出口のない苦境に追いやられた人の喘ぐ声のようである。資本主義は手強い。提案があるとはいえ、本書が何らの解決策を示すわけでもない。しかし、ここから始まることはあるはずだと感じる。

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