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最近の記事

2019年 この三冊

①『月』辺見庸 『もの食う人びと』の辺見庸が2016年に相模原の障害者施設で起きた殺傷事件に切り込んだ長篇小説。現実の凄惨なる事件に対して、虚構の力が目を背けずに、どのような言葉を持てるかを示した力作だった。人を傷つけもするし、怒らせもする、それによって逮捕されたり、人が殺されたりもする。そのような表現することの怖さを読みながら感じた。 ②『ハイデガーの思想』木田元 今年は新書をたくさん手に取って、斎藤環の『思春期ポストモダン』や小熊英二『社会を変えるには』、柄谷行人『世界

    • 2020年 この三冊

      ①『ペスト』アルベール・カミュ(新潮文庫) 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、カミュの「ペスト」が広く読まれたということに滑稽なものを感じないことはない。しかし、この小説がたくさんの人に読まれるのは良いことだと思う。 「ペスト」は三人称の文体が持つ自在さが存分に駆使された長編小説だ。ある時は一人の人物のごく近くに寄り添い、あるところでは刻刻と変容する街を広く見渡す。 コロナ渦を生き抜く知恵が見つかるかは知れないが、その丹念な文体には読みながら痺れる。そして、痺れたのちに疑

      • 2021年 この三冊

        ①『心を病んだらいけないの? うつ病社会の処方箋』 斎藤環・與那覇潤 ひきこもりと向き合う精神科医とうつを体験した歴史学者による九つの対話をまとめた一冊。タイトルだけでは、いかにも憂鬱に悩む人に向けて書かれた著作に見えて、実際、表紙の隅には「心を楽にする9つのヒント!」とも書かれている。 しかし、本書はそれに留まるものではなくて、ここにあるのは今日の日本社会に切り込んでいく批評の言葉だ。 今日の日本に漂っている、生きに辛さや窮屈さ、言葉が通じないもどかしさはどこからくるのかを

        • 2022年 この三冊

          ①『すばらしい新世界』 オルダス・ハクスリー オーウェルの『1984』やブラッドベリの『華氏451』、ザミャーチン『われら』と並び称されるディストピア小説。 人類は工場生産され、生まれる前から序列や役割が決まっている。ディストピアらしく人々はさぞ窮屈な暮らしを強いられているだろうと思いきやそんなことはない。 社会は快適に整備されて安定し、娯楽にも事欠かない。人々は悩みを持たず、健康と若さを維持して暮らしている。それは、人が物を考えるということが巧妙に取り除かれた世界、ただ一つ

        2019年 この三冊

          2023年 この三冊

          ①磯野真穂『ダイエット幻想』(ちくまプリマ―新書) そのタイトルから推測される通りダイエットについて考える本。しかし、ここで問われているはダイエットとどまる話ではない。ここで終始問題とするのは主体が社会や他者といかに向き合っているのかについてだ。実際の具体的な他者ばかりではない、自らの内面に入り込んだ他者、その他者の視線や声とどう付き合っていくか、本書はそれを考える出発点となりえる一冊だ。 ②メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』(新潮文庫) 他の本で言及されたり、映画

          2023年 この三冊

          岩波文庫 日本近代短篇小説選 収録作品一覧

           明治篇1 細君/坪内逍遙 くされたまご/嵯峨の屋おむろ この子/山田美妙 舞姫/森鷗外 拈華微笑/尾崎紅葉 対髑髏/幸田露伴 こわれ指環/清水紫琴 かくれんぼ/斎藤緑雨 わかれ道/樋口一葉 龍潭譚/泉鏡花 武蔵野/国木田独歩 雨/広津柳浪  明治篇2 倫敦塔/夏目漱石 団栗/寺田寅彦 上下/大塚楠緒子 塵埃/正宗白鳥 一兵卒/田山花袋 二老婆/徳田秋声 世間師/小栗風葉 一夜/島崎藤村 深川の唄/永井荷風 村の西郷/中村星湖 雪の日/近松秋江 剃刀/志賀直哉 薔薇と巫女

          岩波文庫 日本近代短篇小説選 収録作品一覧

          多和田葉子『献灯使』読書会レジュメ(2016/7/17)

          多和田葉子『献灯使』読書会 (ページ番号は講談社の単行本に対応) ◎「献灯使」の世界 ●世界同時鎖国状態 → 外部・他者の喪失? 外国語の輸入出 = 相対化の確保? ●日本の描写 ・外来語の禁止 ・鎖国→ 沖縄が外国的になっている ・国会、警察の民営化 ・脱電力化→ 情報不足状態、ミニマムライフ ・家族制度の希薄化 ・日本語の変容 (「御婦裸淫の日」「未知案内」)(「迷惑」「ありがとう」は死語) → 管理社会化の中で民主主義が曖昧に残っている → ガラパゴス化? ディ

          多和田葉子『献灯使』読書会レジュメ(2016/7/17)

          木村敏『あいだ』読書会レジュメ(2016/7/17)

          『あいだ』木村敏(弘文堂思想選書/ちくま学芸文庫) 章題一覧と用語解説(引用ページ数は単行本に対応しています) ●章題 1 はじめに 2 生命の根拠への関わり 3 主体と転機  4 音楽のノエシス面とノエマ面 5 合奏の構造  6 間主体性とメタノエシス性 7 主体の二重性 8 共通感覚と構想力 9 「あいだ」の時間性 10 アレクシシミアの構想力 11 「あいだ」の生理学から対人関係論へ 12 我と汝の「あいだ」 13 もしもわたしがそこにいるならば 14 絶対的他者の未

          木村敏『あいだ』読書会レジュメ(2016/7/17)

          國分功一郎 『スピノザ 読む人の肖像』読書会レジュメ(補足)

          4章 人間の本質としての意識 ●『エチカ』第二部――身体と精神 ・思考と存在の同一性(並行論) → 同じ実体を思惟と延長、別々の属性でとらえている  ↑ カントによって否定される→ 世界は思考されるようには存在していないかもしれない ・精神の原理 人間以外の存在も精神を持っているが、人間の身体は他の存在よりもより複雑な精神を備えている。 → 人間精神は身体の変状によって身体を認識する p174 ・観念の観念 身体が変状したこと認識する ←変状によって得る観念 ←その観念

          國分功一郎 『スピノザ 読む人の肖像』読書会レジュメ(補足)

          國分功一郎 『スピノザ 読む人の肖像』読書会レジュメ(2023/10/8)3/3

          3章 総合的方法の完成 ●『エチカ』第1部 自己原因 ・その本質が存在を含むもの。その本性が存在するとしか考えられないもの。 実体 ・それ自身の内に在り且つそれ自身によって考えられるもの。その概念を構成するのに他のものの概念を必要としないもの。 ・実際に存在しているもの。『エチカ』では神であり自然。 p135 属性 ・知性が実体についてその本質を構成していると知覚するもの。 ・一般にはそのものに備わっている性質だが、スピノザのいうそれは実体に備わるリアリティそのもの。 p1

          國分功一郎 『スピノザ 読む人の肖像』読書会レジュメ(2023/10/8)3/3

          國分功一郎 『スピノザ 読む人の肖像』読書会レジュメ(2023/10/8)2/3

          2章 準備の問題 ●『知性改善論』 準備の問題 準備の無限遡行 準備→ 準備のための準備→ 準備のための準備のための準備…… 方法の三つの形象  道具・標識・道 ・道具… 知的道具としての方法 →それを作るための道具 に遡行してしまう ・標識… それに照らせば知の確実性が確認できる基準・標識 (例 明晰判明 マニュアル) →その基準・標識の真理性を確認するための別の基準・標識が必要になる 認識が真であることは、認識することの中で認識と同時に確かめられる p93 → 公

          國分功一郎 『スピノザ 読む人の肖像』読書会レジュメ(2023/10/8)2/3

          國分功一郎 『スピノザ 読む人の肖像』読書会レジュメ(2023/10/8)1/3

          (ページ番号は岩波新書『スピノザ 読み人の肖像』の参照ページ) 1章 読む人としての哲学者 ●『方法序(叙)説』×『デカルトの哲学原理』 デカルトの命題「私は考える、故に私は存在する」の修正する p40 → 隠された三段論法がある 「考えるためには存在しなければならない」という大前提が説明されていない → 「私は考えつつ存在する」 → 証明する命題から描写する命題へ修正 ●『省察』×『デカルトの哲学原理』 分析的方法と総合的方法 ・分析的方法 → 結果を分析することから

          國分功一郎 『スピノザ 読む人の肖像』読書会レジュメ(2023/10/8)1/3

          柄谷行人『定本 日本近代文学の起源』を読む(2022/12/11読書会レジュメ)

          1章「風景の発見」 7章「ジャンルの消滅」の概要 (引用ページは岩波現代文庫『定本 日本近代文学の起源』に準拠) ◎1章 風景の発見 1 漱石の『文学論』 「文学」を形式において見る。 西洋文学の発展を必然として見ない。 → ほかの道もありえたが、現在のようになったものとして西洋文学を見る。 p15 「漱石が拒絶したのは、西洋的な自己同一性(アイデンティティ)であった。彼の考えでは、そこには「とりかえ」可能な、組みかえ可能な構造がある。……」 2 近代以前の風景画 漱石

          柄谷行人『定本 日本近代文学の起源』を読む(2022/12/11読書会レジュメ)

          心をめぐる読書 おすすめの5冊

          この何年か、心をめぐる本をぽつぽつ読んでいたが、近頃、自分の中での考えごとが一段落した気がしている。 今後も心理学関連の本を読むことはあっても、読むこちらの態度は変わって来ると思う。 これまで読んで来た中で、おすすめの本を紹介していく。 斎藤環『思春期ポストモダン 成熟はいかにして可能か』(幻冬舎新書) 著者は、ラカン精神分析の解説者、ひきこもり問題の第一人者、対話型心理療法オープンダイアローグの紹介者、と様々な顔を持つ精神科医。 本書の序章では若者論が求められるメカニズム

          心をめぐる読書 おすすめの5冊