2020年 この三冊
①『ペスト』アルベール・カミュ(新潮文庫)
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、カミュの「ペスト」が広く読まれたということに滑稽なものを感じないことはない。しかし、この小説がたくさんの人に読まれるのは良いことだと思う。
「ペスト」は三人称の文体が持つ自在さが存分に駆使された長編小説だ。ある時は一人の人物のごく近くに寄り添い、あるところでは刻刻と変容する街を広く見渡す。
コロナ渦を生き抜く知恵が見つかるかは知れないが、その丹念な文体には読みながら痺れる。そして、痺れたのちに疑