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Vol.19 塩瀬隆之先生インタビュー「正解が決まっていない問いと向き合う力は生きるための力」【11/19(土)キヅキランドワークショップ開催】

これまでさまざまなキヅキセンパイを招いて開催してきたキヅキランドワークショップ。キヅキランドを通してつながりながら、みんなでそれぞれの疑問や発見をふくらませていきます。来たる11月19日(土)に開催されるキヅキランドワークショップでは、キヅキセンパイに京都大学総合博物館准教授の塩瀬隆之さんが登場します。
塩瀬先生は、工学部でロボットの研究をするなかで「人の行為とは何か」という問いを抱いて哲学の世界にも足を踏み込み、行為や技を獲得していく身体性をコンピューターやロボットにどう取り込んでいくかという研究を重ねてきました。現在は、ユーザーの多様性を踏まえ多くの人を巻き込みながら作り上げていくデザインプロセス「インクルーシブデザイン」を研究し、子どもの教育や人材育成などにも採り入れています。
キヅキランドは開発の段階から塩瀬先生にご意見を伺い、こどもたちの「キヅキの力」をのびのび広げられるような場づくりを目指してきました。
今回のキヅキランド通信では、ワークショップに向けて打ち合わせをしながら塩瀬先生に伺ったお話をお届けします。

塩瀬隆之
京都大学総合博物館准教授。1973年生まれ。京都大学工学部卒業、同大学院工学研究科修了。博士(工学)。専門はシステム工学。2012年7月より経済産業省産業技術政策課にて技術戦略担当の課長補佐に従事。2014年7月より現職。小中高校におけるキャリア教育、企業におけるイノベーター育成研修など、ワークショップを多数主宰。平成29年度(2017年度)文部科学大臣賞(科学技術分野の理解増進)受賞。日本科学未来館「“おや?“っこひろば」総合監修者。NHK Eテレ「カガクノミカタ」番組制作委員。著書に『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』、『インクルーシブデザイン:社会の課題を解決する参加型デザイン』(いずれも共著、学芸出版社)など。

正解のない場に身をおくことは人生をサバイバルする力を育むこと

——塩瀬先生には企画の最初の頃からいろいろなアドバイスやご意見を頂戴してきましたが、いよいよキヅキセンパイとしてワークショップにご登場いただけて、一同楽しみにしています。

塩瀬:今回の進行役でもある科学コミュニケーターの本田(隆行)さんがキヅキランドワークショップを何度もやってきているので、僕はもう、本田さんの手のひらで転がされていればいいかなという気持ちです(笑)。

——(笑)よろしくお願いします。これまで、本田さんの他、いろいろな方にキヅキセンパイとしてワークショップに登場いただきました。やっぱり回によってこどもたちの反応やノリが違うのが面白いです。

塩瀬:語りかけ方や導き方で、子どもたちが疑問や発見にどのようにアプローチするかが変わってくるからでしょうね。何に気づくかは「段取り」によっても違うんですよ。だから、同じものを見ても何回も見ればいつも違う発見があるし、誰と一緒に見るかでも、出合う疑問や発見は変わってくる。

——確かにそうですね。それが何度同じムービーを使ってワークショップをやっても毎回違って面白いところです。また、毎回こどもたちのキヅキはこちらの想像を超えた「そんな角度から見てるの !?」というものが多くてびっくりさせられます。
ただ、保護者の方からのアンケートには毎回、ある同じようなご意見があって、それは「正解がないのが不安」ということなんです。私たちは、こどもたちの疑問にも発見にも「正しいか正しくないか」というジャッジメントはしないようにしているので。塩瀬先生はこのような「正解のない問いかけ」が、こどもたちにとってどのような意味を持つとお考えなのでしょうか?

塩瀬:世の中には「分からないこと」のほうが多いわけでしょ。今学校では正解を導き出すことが学びの主になっているけれど、大人になって社会に出たらそうじゃない状況に身を置くことになるわけです。正解があるかどうか分からない問いの中で考えることを「苦しい」と思うより、それを「楽しめる」ほうが、人生いいじゃないですか。そういう正解のない問いと向き合う力は生きていくための力、なんじゃないかと思うわけです。

——では、答えのない問いの場に、大人はなぜ不安になるのでしょうか?

塩瀬:大人はやっぱり「分かった気になりたい」んですよね。分かった気になって安心したいから、分からないのは不安でしかないんです。だけど、そもそも教科書に書いてあることなんて一説でしかないし、間違っていることもたくさんある。それを「正解だ」と教えられてそう思い込んでいるだけなんですよ。教科書だけじゃなくて例えば食べ物も、賞味期限が書いてあったり、「安心な材料を使ってます」って書いてあるから、それを鵜呑みにして食べているだけ。情報が溢れている中、それらを疑って自分自身で確かめる力っていうのはとても大切なんですけどね。

——それは、根源的な生きる力というかサバイバルする力そのものですね。

塩瀬:そう。そして、こどもはその力を本来持っているんです。「あれ?」と疑ったり疑問に思ったり、こどもはわりといろいろなことに気づいているんですよね。

「自分と他人は見え方が違う」ということに気づくのは、自分の可能性に気づくということ

——そういう本来こどもが持っている気づく力を伸ばしていこう、というのが私たちキヅキランドの狙いでもあるわけですが……。

塩瀬:その力を伸ばすには、森の中に連れていくのが一番いいと思ってるんですよね。

——森ですか?

塩瀬:そう。なんでかって言うと、家の中で目にするものは目的を持って作られたものばかりで、一つ一つに目的、つまりは正解があるわけです。どういうふうに使うのが正解、というような。そういうものに囲まれていると、考え方も一対一の正解を求めるようになってしまう。でも、森にはそういうふうに作られたものはないですから。土があって、木々が生え、さまざまな虫がいて、鳥が鳴いている。いろいろなものが雑多にあるわけです。じっとそこに身を置いていると、段々に鳥の声が聞き分けられるようになったり、木々にも違いがあることに気がついていく。

——なるほど。森をさまよって見つけたそういう違いにたった一つの正解はないですし、見方によっていろいろな考え方もできます。

塩瀬:キヅキランドも、そういう答えが用意されていない雑多なものがいっぱいあって、それがいいと思うんですよ。

——はい、まさにキヅキランドは「人為的に作った動画の森」だと自負しております!

塩瀬:あ、うまいこと言った(笑)。キヅキランドは一見すると「何を伝えたいのかよう分からん」というふうに見えるかもしれないけれど、適当に雑多にしているわけではなく、動画の選び方や構成の仕方ひとつひとつに、「教えるのではなくこどもたちが自分自身のキヅキを引き出せる場を作ろう。それぞれの発見にひとつずつ答えを導かないようにしよう」というポリシーが感じられますよね。

——そう感じていただけてうれしいです。キヅキランドを使ってワークショップをやっていると、同じムービーを見ていてもこどもたちの数だけ見方や考え方があることを目の当たりにして、圧倒されます。自分と他の人は同じものを見ても違うふうに見える、それぞれの見方があるんだ、と言うことをこどもたち自身も無意識に気がついているのではないかと思います。

塩瀬:その「自分と他人は同じものを見ていても見えるものが違う」というのは単に一人一人に個性があるっていう話ではなくて、それは一人ひとりの可能性そのものだということなんです。
自分の目の前にあるものって自分の見た側しか見えない。でもそのものには、今自分から見えないだけで、横もあるし裏側もある。360度全方向から見れば360通りに見えるはずなんだけど、1人で見てるとその事実を忘れてしまう。でももし359人の友達と一緒に見て、他の人がどう見えるかを知ることで、360通りの見え方が分かる。それって、自分の可能性を知るということなんです。「自分にも見方を変えれば見えたはずだ」っていう。だから、自分と他人との見方の違いを知るということは、自分の可能性を知るということなんです。

——なるほど。他者との違いは自分の可能性でもある。そういうことにも気づく時間を持ってほしいと思いますが、大人はこどもたちにどう寄り添ってあげればいいでしょうか。

塩瀬:こどもって、一つのことにのめり込んで、いろんなことに気がつき自分で考える力があるんです。たとえば好きなアニメを何度も繰り返して見て細かいところまで見ているでしょう? そうやってその子が興味を持って取り組んでいる様子を見守ってほしいな、と思いますね。
日本科学未来館の「“おや?”っこひろば」には、アクティビティが5つあって入れ替え制で45分なんですよ。そうすると親は5つ全部を体験させたい。だから時計を見て「はい次やろう」ってなっちゃう。「いろんな体験をさせたい」という親心もわからなくはないんですが、でもその子があるアクティビティに夢中になっているのなら、それひとつで45分使ってもいいんじゃないかと思うんです。だから、親御さんは時計じゃなくてこどもの目の輝きを見て、おしまいなのか待つべきなのか判断してほしいですね。

——ワークショップでも「こどもが飽きちゃうので動画をもっとたくさん用意してほしい」という要望があったりもします。

塩瀬:「刺激がないとこどもが飽きちゃう」というのは大人の見解なんですよ。さっきも言ったように、こどもはひとつのものにドボンってのめり込んでいろんなことに気がついて考える力を持っているんです。1個の動画を1人で10回見れば10回違うキヅキが得られるし、10人で見れば10通りのキヅキが手に入る。1個の素材からでもたくさん学べる場なんですよね。それって、日本的な文化で言うと「道」、華道とか茶道とか、剣道とか柔道とかと一緒なんですよ。1つのことをとことん突き詰めることであらゆることが学べるはずです。

——次回のワークショップでは、じっくり時間をかけてこどもたちに疑問や発見をふくらませてもらいましょう。こどもたちのキヅキの力を引き出すために、どうぞよろしくお願いいたします!

塩瀬:僕も楽しませてもらおうと思っています。どうぞよろしくお願いします。

Illustration: Haruka Aramaki


ワークショップの詳細、応募はこちらから!
https://kizuki-ws2022nov.peatix.com/


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