『そして、バトンは渡された』を読んで

瀬尾まいこさんの作品は初めてで、信頼している本屋大賞を獲った作品だからと手に取った。
最初は、作品の設定こそおもしろそうだけど特に何が起こるでもない日常の話に期待を持ちすぎたなと思いながら読んでいて。
主人公優子の生い立ちが大体明らかになってきた前半の終わりくらいから、
まるでページをめくる手が止まらなくなった。そして気づいたら涙も止まらなくなっていた。

「両親」とのやり取りも何気ない日常の会話のようで、二人の関係が凝縮されているように感じた。
思わず吹き出してしまうやり取りも、相手を思いやる気持ちが感じられるセリフも、全て尊く感じた。

昔から、「親は二人揃っているべきだ」論が少し苦手だ。
親が二人揃っていても不幸な人生を歩む子供はいるし、シングルマザーの母親と二人三脚で生きてきて、母親のことをとても大事にしている心優しい人も周りにたくさんいる。
なおさら、そこに「血が繋がっていない」という要素が加わると世間の目は厳しくなるだろう。
ところがそんな世論を吹き飛ばしてしまうくらい、血が繋がっていなくても、親が二人揃っていなくても家族がお互いを大切に思う気持ちさえあれば、子供はすくすく育つものだと確信できるような物語だった。

森宮さんの、娘を持つことの良さを語るセリフが好きだ。
「自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって。親になるって、未来が二倍以上になることだよって。明日が二つにできるなんて、すごいと思わない?」
私には子どもはいないので、まだこのセリフには完全に共感はできない。
ただ、今でさえ自分自身の明日が楽しみな私が、子どもを持ったらさらにそれが二倍になるなんて、信じられないくらい楽しそうなことではないか。

結局、世間の「こうあるべき」という評価に惑わされず、周りの人を大事にしながら自分の幸せを追求できた人だけが、人生に満足して死ねるんだろうなと改めて思い知らされた作品だった。また読みたいな。

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