『君たちはどう生きるか』メモ ※ネタバレ注意

《Documenting》20230714
『君たちはどう生きるか』メモ

※ネタバレ注意。未見の方は読まない方がいいです。






●ストーリー
・塔の中は一族の者それぞれの内面世界。大叔父は石(知識/自己完結した論理の象徴)と契約して積み木を積んでいる。義母も息子とそりが合わず産場にこもろうとする。
・登場時の主人公は頭を割って嘘をつくような「弱さ」があった。塔の中で成長し(インコ=敵=肥大化した自我をいなして)、アオサギと友達になり、義母を受け入れる。
・だが成長のきっかけが見えづらいので、塔に入る前に『君たちはどう生きるか』を読んだ時点でもう成長していたのでは?という疑問も。吉野源三郎『君たちは〜』のもっとも大きなテーマは、世界を自分中心に見るか、自分も世界の一部であり・自分と同じように感じ考え生きる他者がたくさんいることに気づくかということだったと思う(コペルニクス的転回)。宮﨑の主人公も同様のコペルニクス的転回を遂げたか。
・男の子版『千と千尋の神隠し』と言ってもいいようなビルドゥングスロマンだが、にぎやかな湯屋と違って塔の中に祝祭感があまりないのは、自閉した世界であることが明示的すぎるからか。つまり説明的で説教臭い。
・キリコは一族の者ではないので、若い頃の姿に変わった? 塔の中にとどまった=亡くなった?
・母と抱き合うシーンは映画史に残る変態的場面。

●時代設定の疑問
 なぜ舞台を戦中・戦後に設定した? 戦中を日本が自閉した世界、戦後を国際社会で生きる世界と仮定して、その変化を主人公の成長譚に託した? あるいはその逆で、主人公の変化を外側から示すために戦中/戦後という時代を舞台にした?

●『毛虫のボロ』
 駿は『ボロ』を作っているときに本作の企画書を書いたという。『ボロ』はジブリの制作部門休止後に新たにスタッフを集め、ジブリ初のフル3DCG作品として構想された。NHKのドキュメンタリー(例の川上量生が怒られた回)では、若いCGクリエイターたちを前に駿が世界の見方をいちから教える様子が記録されている(その後いろいろあったみたいでスタッフはだいぶ入れ替わり、完成作も手書きにちょっと3DCGが交じるくらいのものになっているが)。
 この『ボロ』を作っているときに思いついたというから、駿は若いCGクリエイターたちと接して思うところあり、このような男の子のビルドゥングスロマンを構想したのかな?

●アニメーション
・微妙なところ
重いカバンを渡された力車のおじさんの体が傾かない
アヴァン〜学校くらいまで、動きがコマ落としのように早く滑らかだが躍動感ない(コマ打ちがうまくいってない、ということ?)
・いいところ
庭を飛ぶアオサギの飛翔 アオサギがレリーフから出てくるところ
魚の腹から湧き出すはらわた
膨らんだわらわらの質感
扉に押し寄せる無数のインコが、それぞれ体を動かして押しあっているとろ(驚異的!)
落下する階段と、それを伝っていく主人公
・作監は本田雄、制作会社として最初にクレジットされているのはカラーで、次はMAPPA。増殖する有機物や眠っている女の顔など今敏映画を思わせるところがあったが、スタッフが重なっているから当然?

●音響
 とにかく素晴らしい。義母の寝室を歩くときの床のきしみなどは、空間と心理と劇が音響によって表現されている。IMAXなど良い環境で観るべき。

●構成
 パートの流れをメモ(中盤以降、場所が行ったり来たりする上に、世界観が似ているので、記憶があやふや)。
・火災(東京、1944年 ※「戦争」を日中戦争とすると、1940年?)
・疎開(翌年、義母と会う アオサギを見かける 塔の存在を知る 学校で喧嘩・石で頭を割る 義母を追ってキリコと塔の中へ)
・キリコの島(墓 若いキリコに助けられる 魚を釣る・さばく わさわさの旅立ち ペリカン「ここは地獄」 インコの家で母と出会う)
・扉の回廊(塔の外をのぞく 義母の産場に入る)
・大叔父の部屋
・インコの国(食堂 インコの国王 母を奪還)
・大叔父の部屋(石が壊れる)
・扉の回廊(母と抱き合う 義母を母さんと呼ぶ)
・塔の外

●総評
 とにかく『風立ちぬ』の後にこんな大ファンタジーを作ってくれてありがとうという気持ち。次は『トトロ』や『パンダコパンダ』みたいなのを今のスタッフと作ってほしい。

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