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忘れるようになっている

ふと見るとベランダに何か落ちてる。

気になるから拾ってみたら向かいの駐車場タイムズのレシートだ。
誰かがポイしたのが風に巻き上げられ、地上48メートル上空にあるベランダへ。
ポイした人はもちろん、もう忘れてる。

ベランダ、めちゃくちゃ熱い。暑い。まだ朝早いのに、灼熱で、危険な暑さだ。なぜか思い出した。1981(昭和56)年、ぼくは旭化成ヘーベル新人営業マンだった。担当商社の蝶理さんがいまのこのオフィスすぐ裏、というのも何かのご縁だろう。その商社マンが愛妻家で、いつも「奥さんネタ」から商談が始まった。

「うちの嫁はんがさぁ、昨日、ぼくの靴天日干し(てんびぼし)しよってん。靴パッサパサになってしもて・・・。嫁はんが『水かけたら元戻るで』言うからほんまにかけた」
「戻ったんですか?」
「カップヌードルちゃうで。戻るはずあらへん。嫁はん、それ見て『アホやー』言うて笑いよんねん」

一同大笑い、で楽しくミーティングが始まったのだが、2022年8月13日の今日、くだんの奥さんにお目にかかれたとし、「昔、ご主人の靴を天日干しして、おじゃんにしたことありますよね?」と聞いたとしても「さあ・・・」。
覚えてないだろう。
肝心の商社マンご本人も、覚えてないはず。ぼくの10歳年上だったと記憶しているが、記憶力の劣化とか老化とかが原因じゃない。

人間は、忘れるようにできている。

なぜか。

覚えていても、ロクなことはないから。

「じゃ、言葉は? 計算は? 忘れたら困るじゃん」
言葉も計算も(釣り銭を計算する九九レベルだけど)、日々使ってる。つまり、過去じゃないから、「忘れない」とは意味が違う。

人間は哀しいかな、脳を発達させてしまった。脳は人間が「生身の身体」だということを「なし」にして、無限を目指す。たまったもんじゃない。
だから「忘れる」システムを、取り入れた。自己防衛本能。

『莊子』より

でも、人間、覚えていることも、もちろん、ある。

お盆だ。

この世を先に卒業した誰彼の名前と顔を思い出しながら、彼らと過ごした楽しい時間を思い出すことにしよう。

写真は昨日、あまりの暑さに、冷たいものをいただくため一瞬おじゃました新今宮の星野リゾートホテル OMO7大阪。助かりました。ありがとう!

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