落とし物を拾った時の話

雨の日スマホを拾った。
びしょびしょのスマホを拾い上げ、水滴を振り落とす。

どうしたもんかいのー。

スマホに気付いたのを後悔しつつも、どうするか迷う。
ちょっと急いでいたこともあるのだが。

道を挟んだ向こう側のコンビニにでも渡そうかと足を動かす。
けれど、店員さんに渡したところでとまた悩む。
交番に届けるのが普通だよな…。

考えること2分ぐらい。足は交番へと向かう。
交番まで500ⅿ。そんなに遠くない。

歩いている道中、電話が鳴らないかとドギマギしていた。
こういう時の電話はとらないといけないはず。
知らない人の電話から、知らない人の話声を聞くのは緊張するだろうし、
別に悪いことされていないのに「すみません」とか連呼されると気を使ってしまう。
結果、電話が鳴らなかったので安心した。

交番に着くと、お巡りさんは昼食中。
おじさんのタッパーにはピラフがぎゅうぎゅう。
ほんとどうでもいいところに目がいってしまう。

「どうかされましたか」とおじさん。
スマホを拾ったんですけど。と僕。

「それはご苦労様です」とおじさん。
こちらこそご苦労様です。と僕。

スマホを渡し、カウンター越しにおじさんと話す。
水滴をちゃんと拭いとけばよかったなと後悔する。

交番の中はソワソワする。別に悪いことしてないのに。

着々と話が進むと、紙を持ったお姉さんがカウンターに来る。
おじさんが、この機種はなんかねと。このカバーはなんかね、透明のカバーでいいかねと。スマホの特徴をお姉さんに話していく。お姉さんは着々と紙にスマホの特徴を書いていく。
自分の個人情報も書き終えたところで、お姉さんが僕に話しかける。

「3か月過ぎたら拾われた方のものになりますけど…。スマートフォンですので、個人情報の観点からこちらで処分させていただきますね」

そうですよね(他人の携帯もらっても困るだけだよな)。と僕。
続けてお姉さんが言う。

「一応、拾われた方にはお礼などをもらう権利がありますが、どうされますか?交通費等も含めてなんですけれども」

大丈夫です(いや、ぜひ頂きますだなんて言えないでしょ。ん。世の中には落とし物を交番に届けるだけで生計を立てている人もいるのか?)と僕。

「あと、持ち主に拾い主の個人情報を開示するのはいかがなさいますか」とお姉さん。
えっと、普通はどっちがいいんですかね。と僕。

「半々ですかね」とお姉さん。
そーですよね。じゃお伝えしなくて大丈夫です。と僕。
自分も落とし物をしたことがあるのだが、拾われた方にお礼ができないのは歯がゆい気持ちになる。けれど、拾った立場になると教えたくないよなーと思う。

一通り手続きが終わると釈放される。
急いでいたのに15分ぐらい時間を奪われた。
いいことしたなぁと素直に思えない僕にちょっとため息。

カウンターからおじさんとお姉さんにご苦労様ですと再び言われる。
僕はこくりとお辞儀をしながら交番をでる。

変な体験したなーと交番を出ながらふと思う。
○○大学の学生ですとだけ持ち主にお伝えください。
ってお姉さんに言っとけばよかったなと。
変なところで後悔する。捨て台詞で後悔することが多い僕。
けれど、ちょっとだけ心が軽くなった。

ていう何気ない日常の話。

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