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SHIP 夏の自由研究 〜Orihimeから見えた withコロナ時代の地域再発見〜

医療をキーワードに様々なバックグラウンドや目的を持った人達が交流するオンラインコミュニティ「SHIP」に4月から参加している。普段は講演会や情報交換と受け手一方だが、今回、SHIP内のメンバーで自由なテーマで研究を深める機会があった。

1, テーマが決まるまで

自由研究をするにあたって、興味関心のある分野ごとにチームに分かれた。

僕は地域チームに入ることにした。
しかし、「地域」とは大分ふわりとしたくくりだ。僕は地域づくりなどに興味があったが、他の参加メンバーからは、地域の中での多世代交流、看取り、障害者就労などの関心テーマが挙がり、なかなかまとまらなかった。
さらに、せっかく地域分野のチームだからどこかに集まりたいけれど、新型コロナウイルス流行で直接集まりにくいという問題も挙がった。

これらの問題を俯瞰して見る中で「オフラインの交流が制限されるの中で、地域の定義や価値も曖昧になっているのではないか」という仮説があがってきた。オフライン交流の代替手段として、ICT技術の進歩も著しい。

これらのアイデアをまとめて、「ICT技術を通して『地域』を再発見してしよう!」というテーマが決まった。


2, OriHimeって何だろう

地域の定義や価値を再発見するICT技術として、分身ロボットのOriHimeを使おうと言うアイデアが上がった。

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意見が出た当初はチーム内でとても盛り上がっていたが、僕は「オリヒメ」という名前も聞き覚えがなく、
「リモートで会議やイベントに参加するために分身となってくれるロボットだよ」
と言われても
「zoomと何が違うの?」
と今ひとつイメージが掴めなかった。

レンタルするにあたり、使い方も含めて詳しく調べようとしたが、開発元のオリィ研究所ホームページには使用法は載っておらず「オリヒメ」によって実現できる世界観や実例が説明してあった。

「OriHimeは、距離も障害も昨日までの常識も乗り越えるための分身ロボットです。」 オリィ研究所HPより

実例紹介の動画では、障害があり外出が難しい方が接客をしたり、家に居ながら仕事をしたりしている。
でもやっぱり、自分が使うことで何ができるかは分からないな……

僕はOriHimeの可能性がよく分からないまま、フィールドワークに進むことになった。


3, フィールドワークにて

フィールドワークの行き先は、下北沢に新しくできた複合施設「ボーナストラック」に決まった。
小田急線の複々線化事業で線路が地下に移動し、線路跡地に新しいまちのあり方を提案する余白のような空間が生まれたのだ。

地域のあり方を再発見したい僕達にとって、まさにうってつけのフィールドだった。

フィールドワーク当日は、それまでオンラインで話し合ってきたメンバーが集まった。チームメンバーの半数にも満たない4人だけだったが、今まで画面越しにしか話さなかった方達とやっと会えた興奮は大きかった。

オフラインでの交流の良さを噛みしめつつ、OriHimeの電源を入れると程なくして待機していたメンバーの1人が乗り込んだ。

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OriHimeは手のひらに乗るサイズで、遠隔操作が始まると目が光り動き出す。
魂が宿ったような感覚があり、操作する人が抜けると目の光が消えてとても寂しく感じられた。

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スマホからのOriHime操作画面
OriHimeの操作はスマホで専用アプリをダウンロードすればできるようで、名古屋から遠隔参加したメンバーはすぐに操作に慣れてお子さんと一緒に下北沢の新名所を楽しんだ。

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OriHimeを操作できる定員は1人で、その後は京都のチームメンバーに交代。ボーナストラック内のユニークなお店を回りながら、店員さんや子供とも会話を楽しんだ。

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操作画面からの風景と、OriHimeの真上からの人間の視界はほとんど同じ広さで、HDモードでは更に綺麗な画質で参加できた。

OriHimeは手のひらサイズの小さなロボットではあるが、そこに意思のある人間が乗り込むことで、1人の人間がその場にいるのとほぼ同じ感覚が生まれた。OriHimeの動きから操作者の意思を感じとり、同行者の意識が向く。zoomで会話するよりも圧倒的に存在感があり、会話にも温かみが生まれた。

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この感覚は、OriHimeを初めて見たボーナストラック内の店員さんや町の方々も同様で、驚きつつも1人の人間と接する感覚でお店やメニューの説明をしたり、手を振ったりしてコミュニケーションを楽しんでいた。

音質や映像についても、設定と通信環境を整えれば、操作者にとっても同行者にとってもかなり快適なようだ。
ICT技術で、遠隔でもその場にいる感覚がここまで再現できるのかと思い知った。


4, 皆さんの感想

OriHimeを操作した方達の感想

OriHimeも一つの個体として話すのも良いかも。OriHimeが分身 としてではなく、会話に入り、次の話題提供や進行をしてくれたり。相手の表情とか間をみながら話をするのは、慣れていないと けっこう難しかった。

持ってくれている人とか周りの人がそばにいてくれる安心感みたいなものを感じる。みんなに可愛がられている。操作はアプリダウンロード含め、シンプルで簡単でよかった。 子供もすぐ使いこなせるレベル。

ゲームみたいで面白い。足があればもっと自由に動けて良いのにな。(操作したお子さんの感想)

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OriHimeと同行した方達の感想

OriHimeの動きに愛嬌があり、自然とその動きを注視していた。 同じ街歩きを、いつものZoomでしたとしたら、ここまで向こうの反応に気を配らなかったのでは無いか?(「声」だけで会話していたのでは?)と思った

僕は今回はOriHimeの遠隔操作をせず、ボーナストラック内を同行したメンバーだったが、OriHimeの存在感の大きさに何よりも驚いた。
画面越しに顔を見るよりも、実体として声と動きを発信する方がリアリティーを持ってコミュニケーションが取れた。また、大人と子供で捉え方が異なる様子も興味深かった。大人は操作者の存在を意識して操作者側の状況(住む場所など)を意識するが、子供は意思を持ったロボットとして認識し違和感なくOriHimeと仲良くなっていた。

また、今回フィールドワーク後にメンバーの1人が、職場にて寝たきりの利用者さんに操作して頂き、久しぶりにオンラインでの外出を楽しんだ感想を頂いた。

高齢の方でしたが、ipadからOriHimeを通した景色を見て頂くだけだったので、特に操作の不自由さはなく体験して頂けました。
「久しぶりに外の景色が見れて良かった」「これでずっと行けていない山の景色とかも見れればいいな」とお話も頂けました。
支援側としては、高齢者が対象となると、デジタル慣れしていない方への使用方法の指導が必要となる。上肢機能が低下している方に対しては、十分な環境設定と練習が必要と感じました。

OriHImeの中には眼の動きだけでも操作できるタイプもあるが、使用経験のある知人によると操作に慣れるまでは訓練がいるようだ。

さらに、今回のフィールドワークの報告スライドを引用して学校の先生方に説明し、OriHimeを使って入院中の娘さんが学校に行くという希望を実現できたSHIPメンバーの方もいた。

浪花さんから頂いたご感想。

一言で書くと「素晴らしい」です。
こういうのがあったらいいなぁ、と思うモノが体現されていました。

zoomなどに代表されるTV会議でも同様の事は果たせますが、「分身」という名のごとく、ロボットと云う実態のあるモノがそこにある事で、現場での存在感はまったく異ります。
また OriHimeを操作する側(以下、パイロット)は、手を上げたり、頷いたり、右を見たり、上をみたり、意思表示をロボットを通して伝える事ができ、その場に参加している感覚を味わう事ができます。
これもまたzoomとは異なる点です。

今回、入院の為、学校に通えない娘のリナに変わり、私が小学校にOriHimeを持ちこみ、病室からOriHimeパイロットとなったリナが授業を受ける事ができました。
学校では先生はもちろん、生徒達も興味津々。
校長や教頭も様子を見に来てくれ、こういうテクノロジーを使用する事に対する理解を深めて頂けたと思います。
また、休み時間は生徒達に、OriHime が取り囲まれ質問攻めにあい、声で返事ができないリナにとっては、対応が大変だったと思います。(咽頭分離で声帯も失ったため声がだせません)
大人だったら、「はい」or「いいえ」の選択質問ができるんですけどね笑
授業終了後、リナに感想を聞いたところ「楽しかった」との事。
家と病室はiPadのFacetimeの機能を使いやりとりする事がありますが、OriHimeのほうが楽しかったようです。

家族間の場合、お互いの顔が見えたほうがいいので、一概にはいえませんが、zoomのようなモノとOriHimeを組み合わせたり、うまく使い分ければいいのかなと思います。

将来的にはVRやARのような物と組み合わせる事で、パイロットは遠隔でありながら、より現場に没入できる状況になるのだろうなぁと予想しました。

分身ロボットOriHimeのようなテクノロジーが一般化し、入院中の子供達や、なんらかの理由で体が動かせなくなった方々が、当たり前のように勉強したり働いたりできる環境が整う事を願いたいです。


5, これからの地域のあり方と関係性の築き方

OriHimeとともに地域を歩き、OriHimeを通して外に出られた方達の感想を聞いて考えた。ここからは少し、僕の仮説を述べたいと思う。

これからは、現場に行かなくてもコミュニティに参加できる地域が生まれる。

元来、地域をベースにしたコミュニティは近接性を強みにメンバーの繋がりを強化し、地域独自の風景や雰囲気を守ってきた。しかし、OriHimeはオフラインで集まった集団の中でも1人の人間として存在感をしっかりと放っている。
現場に居なくても、コミュニティの一員として地域の文化や繋がりに溶け込むことは可能だと考えられた。


さらに、OriHimeの存在感に衝撃を受け気づいたことがある。

人間のコミュニケーションにおいて最も大事な要素は、実体の追求かもしれない。

新型コロナウイルス蔓延によりオンライン飲み会が流行したが、僕はどこか物足りなさを感じ、オフラインの交流が生み出すエネルギーには敵わないと感じていた。
しかし、分身ロボットを通して1人の人間がその場にいる感覚を強く感じ、オンラインであっても実体が伴うことで十分リアルなコミュニケーションができる姿を目の当たりにし、その既製観念は崩れてしまった。
そして、オフラインの交流がエネルギーを生み出す仕組みを因数分解すると、実体によるリアリティーさがかなり重要な役割を果たしていることに気がついた。

オフラインの交流が制限される時代において、ICT技術によるオンライン交流は急速に進化している。OriHimeは障害のある人だけでなく、様々な理由で気軽に会えない人達を繋ぐ可能性を持っている。
まだ進化の途上であるが、だからこそ、人のコミュニケーションの本質にも迫ることができると思う。


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