KKV Neighborhood #173 Disc Review - 2023.6.28
Night Tapes『Perfect Kindness』review by Kent Mizushima (to'morrow records)

ここ数年の音楽の話題の中心地サウスロンドン。ShameやSorryのようなポストパンクやオルタナティブ・ロックをはじめ、King KruleやCosmo Pykeなどジャズやソウルに影響を受けたアーティストが常に反響を呼び、”サウスロンドン拠点”という肩書きだけで、つい知らないアーティストでも再生ボダンを押してしまう人も多いのではないだろうか。そんなあなたに今日知ってほしいアーティストがサウスロンドンのイメージには全く結びつかないジャンルである”ドリームポップ”をチョイスし、先日『Perfect Kindness』という作品をリリースしたNight Tapesという3人組だ。

Night Tapesは元々サウスロンドンのハウスメイトとして一緒に生活をしていたIiris Vesik、Max Doohan、Sam Richardsが自宅でジャムセッションをしていた流れでスタートしたプロジェクト。2019年にデビューシングル「Forever」をリリースし、2020年にはデビューEP『Download Spirit』をリリース。大きく注目されたわけではなかったが、この時から既存のドリームポップとは一味違うノイズ混じりのサウンドを下地に敷いたIirisの天使とも悪魔とも捉えることができるヴォーカルが耳に残る音楽を作り出していた。

Night Tapesが覚醒したのが、本作『Perfect Kindness』にも収録されている2022年にシングルとしてリリースされた「Humans」という楽曲。以前よりもIiris Vesikのヴォーカルが前面に押し出されたことが明らかで、その歌声は月まで届くかのように遠くまで響き渡る。その月夜に照らされ、天まで昇っていくかのような歌声の土台としてサポートする浮遊感抜群のサイケデリックなサウンドはTame Impalaを彷彿させるベースを中心に様々な楽器が鳴っていて、まるで月夜のカーニバルを催しているかのようだ。

2ndシングルとして先行配信された「Selene」も音の中を泳いでいるような気分にさせてくてるドリームポップであることには違いないが、悪魔チックなIiris歌声がミステリアスで怪しさも持ち合わせたアダルトな夜を作り出している。またNight Tapesはドリームポップの中でも特エレポップに近いやり方でプロダクションをしているバンドで、シンセで生み出す浮遊感だけではなく、時にスネアやベースラインに強弱をつけて楽曲にメリハリをつけているのだが、「Selene」に関してはmixingにNathan Boddy（James Blake, Mura Masa）やマスタリングにMatt Colton（Flying Lotus、Flume、Brian Eno）を迎えていることも影響してなのか、他の楽曲よりも間奏でのノイズやアンビエントとサイケデリックを交差するようなシンセのサウンドが音の空間を包み込んでいる。『Perfect Kindness』は作品の中でも楽曲によってセルフミキシングやエンジニアが変わっているので、その辺りの違いも作品を楽しむ要素の一つであろう。

ノイズミュージックからの影響を色濃く感じ、まるで深海の中を泳いでいるかのように闇の中を歩行しているかのようなタイトル曲「Perfect Kindness」ではラストにブルージーなアコースティックギターが入っているのが面白いし、2曲目に収録されている「Inigo」ではドリームポップでは珍しくパーカッションのサウンドが使用され、まさに真夜中のカーニバルのような空気感を作り出している。Night Tapesは楽器選びのところから個性を発揮し、それが数えきれないほど存在するドリームポップやサイケポップといったバンドの中で違いを生み出している。

Iiris Vesikの歌声を一番の武器にNight Tapesはこれからも独自のドリームポップで僕たちをナイトフェスティバルに連れ出してくれることだろう。

Night Tapes『Perfect Kindness』
Release Date：2023.6.16
Label：Nettwerk Music Group

Tracklist：
1. Selene
2. Inigo
3. Humans (Elevated Mix)
4. Moonrise
5. Perfect Kindness
6. Silent Song

Stream the EP
Night Tapes：Instagram