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小説【REGULATION】《2話》「その女性」

《2話》「その女性」
俺はあまりの衝撃に、そのパチンコ玉?
生き物?何だかよく分からないが、その得体の知れない〝何か〟を投げ捨てた。
『──カン、カン、カン…』
投げ捨てた〝何か〟は本物のパチンコ玉の様に跳ねながら転がって行き、道路脇の電信柱にぶつかり静止した。
「──な、な、な、何なんだよぉ…!!」
俺は驚いた勢いで腰を抜かし、路上に座り込んでいた。
大通りではない裏路地とは言え、それなりに人通りがあるこの帰り道。
道ゆく人々に冷たい目線を浴びながらも、俺はしばらく動けなかった。
三十秒程経過し、尻餅を付いた状態で呼吸を整え、頭の中も整えた俺は、先程投げ捨てた〝何か〟を確かめに行く事にした。
恐る恐る電信柱に近づく。
「──あった…」
やはりその銀色の〝何か〟は電信柱の下に転がっていた。
『──ドックン、ドックン…』
「やべぇ…」
周囲の音が聞こえない。何ならキーンと耳鳴りまでして来た。余程集中しているのだろうか、自分の鼓動が、次第に大きくなる音だけが頭の中に響き渡る。
『──ドックン、ドックン…』
極度の緊張状態により、指先が冷たくなり、喉がひきつり、上手く唾を飲み込むことができない。
そして整えたはずの呼吸が、また乱れ始めている。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
俺は銀色の〝何か〟を掴むと、勢いよく拾い上げた。
「──おらぁ!!…ん?」
俺は自分の目を疑った。
先程目にした、大きな目玉や足の様な物は無く、それはただのパチンコ玉だった。
拍子抜けもいいところだ。
確かに強いて言えば、そのパチンコ玉は少し大きく、軽いような気もした。
が、気のせいだと自分に言い聞かせ、拾ったパチンコ玉を胸ポケットにしまい、深く息を吐き、ゆっくり振り返った。
「──っっっっ!!?」
俺は一日で二度も驚きで、全身に血がめぐる感覚が、痛みを帯びる程感じるのは初めてだ。
振り返ったそこには三人の子供?いや、違う。
身長は小学校低学年(百二十センチ)程、しかしその身は全身鈍く光る銀色をしている。
人間の様にニ本の足で立ち、大きな頭に深海のような深い青色をした、大きな目。
そう。それは紛れもない、俺が知っている宇宙人そのものだった。
「うぁぁぁぁぁあーー!!」
俺は再び腰を抜かした。
それもそのはず。振り返った俺は三体の宇宙人に、完全に包囲されていたのだ。
──どうする。どうする俺。
この場を切り抜ける方法を、頭が引きちぎれる勢いで考えていたその時。
宇宙人の後ろに居酒屋帰りだろうか、五、六人のサラリーマンが通りかかるのが見えた。
「た、助けて下さい!!」
俺は全身全霊で声を張り上げた。
「──ギャハハハハっ…」
「──それでよぉ…」
──聞こえていない?
いや、そんなはずはない。
俺と彼らとの距離はそう離れてはいない。
距離にして十メートルと言った所だ。
聞こえないはずがない。
「おい!酔っ払い!!助けてくれ!!」
やはり、聞こえていない。
「──!?」
俺はサラリーマン達の顔が、薄っすら緑がかっている事に気がついた。
いや、正確には後ろのビルも、看板も…。
──そうか。宇宙人の仕業か。
妙に察しの良い俺は、俺と宇宙人の周りが緑がかったバリアの様な物で、覆われている事に気がついた。
だから外部への声が遮断されているのだ。
例え運良く、宇宙人を振り切れたとしてもこのバリアがある限り、恐らく脱出も不可能だろう。
絶体絶命とはまさにこの事か。
俺は思い切って宇宙人に話しかけてみた。
「あ、あのー…。見逃してもらえたりー…しませんよね…?」
三体の宇宙人達はシンクロしているように
眉間に皺を寄せた。
「「ダマレ」」
「しゃ、喋れるのおぉー!!?」
宇宙人達が、揃って両手を広げたその瞬間。
俺と宇宙人が入っている、バリアの様な円形状のものがふわふわと浮かび上がり、そして勢いよく空へと上昇した。
地面がどんどん遠くなる。
先程コンビニで購入した、お酒やつまみが路上に落ちたままだ。
──あぁ…。このまま宇宙船にでも連れ攫われるんだ。そして実験や解剖、そんな悲惨な目に会うのだろう。最後にあのお酒を呑みたかった…。
この時の俺は、何故か冷静に未来を見据え、そしてある程度受け入れていた。
『フュ〜〜ン…』
「ん?」
俺と宇宙人達を囲んだ円形のバリアが減速し始めた。
そのままゆっくりと、一定の高度を保ち飛行している。どうやら宇宙船ではなく、ビルの屋上に着地する様だ。
俺を乗せた円形のバリアは、マンションの屋上へ着地し、宇宙人達は上げていた両手を下ろした。
すると同時に、円形のバリアもすっと消えてた。
「見つかってしまったのなら仕方ないわ…」
「──!?」
後ろから何者かの声がした。
振り返るとそこには、確かに人影がある。
暗くて良く見えないが、人間?
いや、良く考えれば先程の声は間違いなく日本語だった。恐らく人間だ。
「貴方は…?」
夜空に浮かぶ雲がゆっくりと流れ、隠れていた月が徐々に顔を出す。
同時に辺りも明るく照らされた。
一日で、こう何度も自分の目を疑うのは初めてだ。
月明かりにより辺りが照らされ、先程声をかけて来た人物の姿をはっきりと捉えた。
「──やっぱり…」
そこには薄暗い屋上に一人で凛と立つ、長い黒髪の綺麗な女性の姿があった。

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