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小説 【REGULATION】《7話》「5W1H」

《7話》「5W1H」

とんだ災難だ。
確かに俺は、毎日何か良い事が舞い込んで来ないかと願ってはいたが、事件に巻き込まれたいなんて願っていないし、ましてや宇宙人と一緒に暮らしたいなんて願うはずがない。
「どうしよ…」
分かりやすく青ざめる彼女に、俺は思い付く限りの提案を投げかけた。
「いやいや、あのー。ルティナ…だっけ?君は宇宙人なんだよね?だったら何かあるだろ?透明になったり、空飛んだり出来るんだから!ワープとか何とかして帰れないのか!?」
「船が無いと、星と星を渡るのは不可能だわ…」
彼女は爪を噛んだ。
「んー。じゃあ…君の星の仲間に助けを呼んでみればいいんじゃない?そうだ!君は特殊警察なんだろ?それくらい出来るだろ?」
「通信機能は確かにある。でも、今回の私は何の準備も無しに潜入して来たから、星を跨げる程の通信機能は持ち合わせていないわ…」
「だったら君がこの星に来た時みたいに、敵の船にまた潜入して帰ればいいんじゃない?」
彼女は首を振る。
「連中を追跡中に貴方に見つかったの。だからあのタイミングで完全に見失ってしまったわ。それに今回は運良く潜入出来たけど、次また潜入出来るとは限らない」
「じゃあどうすればいいんだよ…」
「……」
「……」
どれくらいだろう。
しばらく沈黙の時間が過ぎた。
俺はこの空虚な時間に耐えきれず、ひとまずシャワーを浴びる事にした。
「とりあえず俺はシャワー浴びて来るから、そこのコーヒーでも飲んでなよ」
彼女は、少し首を傾げるような仕草を見せつつもコクリと頷き、コーヒーの置いてあるテーブルの前に座り込んだ。

『シャーーー…』
再び浴室に湯気が立ち登る。
「くんくん…」
──女性の匂いがする…。
俺は久しぶり嗅いだ女性の香りに、思わず目を瞑りうっとりしていた。
──そう言えば何で女性は女性の匂いがするんだろう?
同じ人間のはずなのに男と女とでは、明らかに体臭が異なる気がする。
「……」
──おいおい。こんな時に一体俺は何を考えているんだ?
ふと我に帰った俺は、女性の香りがほのかに残る浴室で、頭からシャワーを浴びながら、現状を整理する事にした。
〝Who?〟ルティナ・サンタ・ビトニュクス。
彼女は自称宇宙人。俺たち地球人が、これまで宇宙人だと認識していた容姿をしている、透明になれたり、空を飛ぶ事の出来る便利なロボットを所持している。
〝When?〟彼女と初めて出会ったのは昨夜。宇宙人達が初めてこの地球にやって来たのは、十年か二十年程前との事。彼女がいつ地球に来たのかについては今のところ不明。
〝Where?〟彼女と出会ったのは近所のラブホテルの屋上。宇宙人型ロボット、通称トークンとやらに攫われ、屋上へとひとっ飛びした結果、そこで出会った。
〝What?〟コンビニ帰りパチンコ玉と勘違いし、偶々拾った小さな銀色の物体。それが彼女のトークンだったらしく、それを取り返す為、並びに口封じの為連行した模様。
〝Why?〟彼女の星に居る悪の組織が、良からぬ理由で地球に出入りしている可能性があるらしく、彼女自身、特殊警察と言う事もあり、その悪の組織を追ってきたとの事。
〝How?〟偶然、地球に出発する悪の組織の船?を発見した彼女は、何の準備も無しに潜入し、見事地球まで追跡する事に成功。
しかし、帰還の手立てを全く考えていなかった為、現在絶賛絶望中。

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「んー…」
──やはり不可解な点がいくつかある。
まず一つに、何故彼女は地球人の俺らと同じ言語を喋っているのだろうか?
厳密に言えば俺と同じ〝日本語〟を使っている。
地球とは別のどこか遠い星で、全く同じ言語が誕生し、それが浸透するなんて事が果たしてあり得るのだろうか?
二つ。彼女ら宇宙人はどうやってこの地球を見つけ、どうやってやって来たのだろうか?
少なくとも地球人は、様々な分野においてこれだけ進歩して来たにも関わらず、その技術を持ってしても、宇宙に生息するその他生命体については、未だに発見出来ていない。
つまり、我々地球人が発見出来ない程の途方も無い、まさに天文学的数字の距離ほど離れた星から来た事になる。
となれば、一体どのくらいの年月をかけ、どれ程の燃料を費やしやって来たのだろうか?
果たして、そこまでしてこの星に来るメリットが何かあるのだろうか?宇宙人は何を望んでいるのだろうか?
三つ。彼女は何故この地球に来た途端、力を失ったのだろうか?
地球の酸素量?気圧?重力?そこら辺の物理や科学的何かが関係しているのだろうか?
「──ふぅ…」
俺はゆっくりと息を吐いた。
良く考えれば地球外生命体については、人類史上、誰一人として解明出来ていない、未だ謎多き領域だ。
平凡なサラリーマンの俺が小さな頭で考えた所で、理解出来るはずが無い。
──少し頭を休ませよう。

『──キュッ』
俺は蛇口を閉め、浴室の外にあるタオルと下着、スエットを手に取り、トイレの蓋の上に置いた。
体を拭き上げ、下着を身につけ、ドライヤーで髪の毛を乾かす。
俺はこう見えて案外、髪の毛は長い。
左右と後ろは短く刈り上げているものの、前髪は口元まで届く程ある。
普段の俺は、髪の毛はジェルで固めている。
それ故、俺のプライベートを知らない奴らは、
ジェルをつけていない俺には気づかないし、例え気づかれたとしてもかなり驚かれる。
なぜ髪の毛を伸ばしているのかについては、正直俺もあまり深く考えた事は無い。
強いて言えば、髪を切りに行くのが面倒だと言う点、あとはお金も掛かると言った所だろうか。
刈り上げている箇所くらいなら、愛用のバリカンで、定期的に自分で刈れば良いだけの話。
ただ…、こうして乾かすのに時間がかかる点は、難点なのかも知れない。
髪の毛を乾かし終えた俺は、スエットを身に纏い、タオルを首にかけ、彼女のいるリビングへと向かった。
『ガチャ…』
俺はリビングの扉を開けた。
「スー…スー…」
「おいおい…」
そこにはテーブルに顔を伏せる彼女が居た。
どうやら寝てしまっている様だ。
「せっかく準備したんだから一口くらい飲めよな」
彼女は俺が準備したコーヒーに手を付けず、眠りについていた。
余程疲れていたのだろうか?
俺は自分の毛布をそっと彼女にかけた。
「……」
毛布をかける際、彼女の寝顔をが見えた。
改めて見ると、やはり綺麗な顔立ちをしている。
「──ゴクッ…」
俺は唾を飲み込んだ。
五年間彼女の居ない俺。つまり、五年間女性が立ち入って居ない一人暮らしの俺の部屋に、突如として現れた黒髪美少女。
そして、その黒髪美少女と今まさに一つの部屋に二人っきり…。
加えて彼女は無防備にも寝落ちしている…。
「……」
俺は瞬時に様々な可能性を思考した。
「──いかん。いかん。俺は何を考えているんだ」
人間に理性とやらが備わっていて良かった。
ぶんぶんと首を横に振り、邪念を払った俺は、冷蔵庫から半分程入ったニリットルの水を取り出し、全て飲み干した。
〝水をがぶ飲みする〟これが二日酔いには一番だ。
空いたペットボトルを、彼女を起こさないよう静かに潰しゴミ袋に入れ、俺はそのままベットに入った。
──寝よう。昨日は呑み過ぎてソファで寝ていたんだ。疲れも溜まってるだろう。おまけに二日酔いだ。
俺は深呼吸をしてベットに横たわり、そのまま目を閉じた。

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