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トルボット 写真の発明、写真の起源

赤々舎から2016年に刊行されたウィリアム・ヘンリー・フォックス・トルボット著「自然の鉛筆」について。
この作品集のオリジナルは19世紀、著者によって発明されたカロタイプによる写真技術の宣伝の為に出版された物の復刊版だ。
同時期に発明されたダゲレオタイプとは違い、ネガポジ方法による複製が可能だったカロタイプは出版物として広める事ができた。
トルボット自身は写真のことを「フォトジェニック・ドローイング(自然の鉛筆)」と命名しており光により描かれる絵として目の前の現象を捉えていたことが窺える。
日本語で言うなら戦前にアマチュア集団によって刊行されていた「光画」が同じような意味になるだろう。
今日、我々が使っている「写真」という言葉は「真を写す」ことに利用価値を見出したジャーナリズム的な意味の名残が強いと感じる。

トルボット「開いた扉」

トルボットはこの自然の鉛筆を用いて光の下で絵を描くことに熱中した。
この世界最古の写真集をめくると、驚くことに全く古びていない被写体の数々に目を奪われる。
建築物、風景、静物、複写、テクスチャー、フォトグラム、日常風景、光と影、などが研究対象であるかのように(実際そうだが)生真面目にフレーミングされている。
その行為は写真の基本そのものだ。
私のような基本からあまり進歩しない人間はあっという間にトルボットの写真に親近感が湧いてしまう。
テクノロジーの性能を率直に発揮する為に撮られた写真は思念に囚われることなく静かに定着されている。
写っていることに感動するような、写っていること自体が一つの革命であるといった印象はニエプスのヘリオグラフィ(太陽の絵)にも感じる写真の原風景なのかも知れない。

ニエプスの窓

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