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Consensus2021 決済手段としての暗号資産

コンセンサス3日目と最終日のまとめ投稿。主なトピックはCBDCを含む決済手段としての暗号資産。また今後の成長が期待されるDeFi、DAOの今と課題を業界識者が語った。

CBDC発展の鍵はプライバシーと安全性の兼ね合い

中国を皮切りに世界の9割弱の中央銀行が何かしらの研究をすすめているCBDC。市場参加者によって求めるものも違う為、それぞれの国によって着地点は異なる可能性がある。

透明性か安全性か
市場参加者、規制当局にとって共通の懸念点は透明性と安全性のバランスである。機関投資家はKYCやAML遵守(安全性)を求めている。しかし大口の機関投資家は取引の公開(透明性)についてはフロントラン(投資動向を先回りされる)等のリスクからそれほど求めていない。一方で、規制当局は透明性を担保したい。ブロックチェーン業界は透明性を歓迎する一方で、KYCやAMLといった審査よりも自由な参加を求める声もあり、このバランスが肝となりそう。
CBDCにはマネーロンダリングや違法取引を防止する効果があると同時に、個人の日常の購買行動が公開されプライバシー侵害のマイナス面も指摘されている。

トップダウンかボトムアップか
CBDCにおける中国のプレゼンスは高く、世界で最も開発が進んでいると思われる。CircleのJeremy氏は、中国は国内資本へのコントロールを取り戻す一環として開発を進めてきたと指摘した。TencentのようなIT企業がオンライン決済事業において目覚ましい発展を遂げているが、将来的には彼等への規制強化もあると目されている。
米国では先行者である中国に追いつくべく研究・開発が進んでいるが、民間によるボトムアップ型であり、国家レベルでは研究フェーズにとどまっていると述べた。Jeremy氏は中国への対抗策としてよりも、消費者のUX向上を目的とした研究開発支援が望ましいと述べた。

決済手段としての暗号資産

メタマスク利用者が5百万を超過したと報道された時、新興国で利用が広がっていることが話題になった。先進国での興味本位での利用に対して、新興国では既存金融システムにアクセスのなかった層への浸透(金融包摂:ファイナンシャル・インクルージョン)が思ったよりも早く進んでいるのかもしれない。

決済手段としての暗号資産
JPモルガンのChristie氏は、暗号資産を決済手段として使用している個人は興味本位レベルでの使用にとどまっており、実需ではないとした上で、安全性と使いやすさの改善が必要とした。また法人レベルでは、銀行間送金などの取引期間短縮(現行の数日から当日決済が可能)といったメリットの認知が進んでいる。

金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)がすすむ
従前、ウォレットは若い男性を中心に利用者が増えてきたが、より上の年齢層、かつ女性にシフトしつつある。Dash社のRyan氏は45%のユーザーが女性であると述べた。彼はベネズエラを例に挙げ、特に新興国においてこの傾向が見えるとした。ベネズエラではしばしば停電になる為、電子機器を使用した電子決済が普及していないにも関わらず、暗号資産決済が一足飛びに普及しているそうだ。

DeFi発展の課題

暗号資産が個人投資家から機関投資家に裾野を広げようとしているように、DeFiにおいてもその流れが来ると見られている。DeFiがTradFi(既存金融)に置きかわるという考えもあるが、まずはUXの改善が優先課題であろう。

DeFiはTradFiになりかわるのか?
Alchemix FinanceのSchoopy氏はDeFiの浸透率は30~40%で高止まりすると予想している。デジタルネイティブの時代となってもリテラシーの度合い等によって、UXの簡便化をサービス提供する中間業者への需要はなくならいとした。またBanklessのDavid氏は、DeFiによって個人データのユーザー主権が進むが、現実には第三者機関への所有権委託という形をとることを予想した。このようにDeFiがTradFiを置きかえることはないと考えられている。しかし、市場シェアの低下を背景にTradFi企業がDeFi領域に一部進出するとパネリストは予想している。

DeFiに機関投資家を誘致するには
機関投資家が参入するためには、カストディアンの整備とAMLリスクの排除が重要である。このうちカストディアン業務については市場参入者も増えつつあり、問題視されていない。DeFiの中では参加登録が簡便でKYC等のプロセスがないものもある。尚、フロントラン(投資動向を先回り)されるリスクを避ける為、透明性についてはそれほど歓迎しないと述べる者もいた。
UX/UIの向上が個人投資家向けだけでなく、機関投資家向けでも必要とされる。BinanceのSamsul氏は、一部のDeFiは既存金融プロトコルと親和性高く設計されていて、多額の資金にも対応できるようになっていると述べた。

ビットコインは現在最も受け入れられているDAOの形

コミュニティの管理・運営を肩代わりするのがDAO(自律分散型組織)である。しかし現在のDAOの多くは中央集権的な側面が残っており、改善が必要である。喫緊の課題は持続可能な管理・運営方針の決定(ガバナンス)と思われる。

DAO。今はまだCentralized Autonomous Organization?
Staker DAOのJonas氏とGnosisのAuryn氏はKYCやAMLの観点からコミュニティ立上げ当初は中央集権的な承認システムを容認すべきだとした。ガバナンス等の管理・運営方針の知見がたまったところで非中央集権型にシフトすることが望まれる。また、いずれは最初から非中央集権型のDAOが多くなることが期待される。もっとも進んだDAOとして、ビットコインが挙げられていた。
課題として、コミュニティ設立の際の人的資源と運営していく上での動機づけがある。動機づけには金銭のみならず、参加し続けたいと思わせる仕組みづくりが挙げられた。

暗号資産、インフレよりもデフレに気を付けて

Consensus初日に登壇したBridgeWaterのDalio氏はインフレによって暗号資産に資産が流入すると指摘したが、一方でArk InvestのCathie氏はデフレの時こそリスク回避として暗号資産へ資産が流入すると述べた。

直近の市況について
Cathie氏は直近の暗号資産市場価格下落の背景として、ESGを理由に機関投資家の買いが当面見込めないことと、中国の規制報道を理由に挙げた。前者はイーロンマスク氏のツイートに端を発していると見られている。テスラの大口投資家であるブラックロックや欧州大手投資家から牽制が入ったのではないかと彼女は推測している。また、中国の規制報道については、資本市場のコントロールを国にとり戻す意図があったのではないかと推測されている。

気を付けるべきはインフレではなくデフレ
直近のコロナインフレで消費者は耐久、非耐久含む消費財に需要が集中してきた。ワクチン接種が進めばこの資金の流れが物からサービスにシフトするとCathie氏は見ている。しかし技術革新とその普及によってサービス単価が下がり売上が減少した結果、経済が停滞、デフレになる可能性がある。デフレの影響は発展途上国で色濃く出ると彼女は言う。暗号資産への資金流入が国家レベルで起きる可能性があるとした。

Binance議事録

BinanceセッションはBinance.comとBinanceアメリカに分かれて行われた。新興国において、暗号資産を現在買っているアーリーアダプターには、自国通貨への不信感があると述べられた。

付加価値の追求としてのUX
Binanceアメリカ社長のBrian氏はTradFiで見られたように暗号資産取引所の手数料は限りなく0に近づいていくとして、売上を維持する為には、顧客に対して付加価値を提供することが重要だと述べた。将来的にはBinance経済圏で全てが完結するモデルを目指している。プラットフォーム上での優遇措置を受けられるBNBトークンはその為のツールである。引き続きユーザーフレンドリーなUIを心がけ、アクティブユーザー数をKPI(Key Performance Indicator)と位置付けている。

暗号資産アーリーアダプター
どの国にもその国なりの愛国心のあり方があるとBinanceのCZ氏は述べた。しかしその国の経済力と通貨に乖離がある時、国への愛着とその法定通貨への愛着も乖離する。CZ氏は顕著な例として中国を挙げ、この10年間で急激な経済成長を遂げるも、人民元への愛着は育っていないと述べた。新興国によくみられる、自国通貨への不信感が暗号資産へのアーリーアダプターを産み出していると述べた。先進国においては、多国籍文化に触れる機会が多い人間がアーリーアダプターになる傾向があると述べた。

規制当局と戦うのではなく共存を
Binanceの成功要因は、セキュリティを維持しつつ顧客に自由な取引を提供してきたことであるとCZ氏は述べた。暗号資産は今後成長が見込まれ、アマゾンが巨大なECサイトになったのと同様に成長することが見込まれる。その成長を助ける為にも、規制当局と戦うのではなく協力していく必要があると述べた。

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