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企業側の視点から語る法務採用の傾向と対策

今回も前回に続いて採用の話。

企業法務で採用活動をして、採用する側の会社視点で、学んだことを率直に書いてく。生々しい話もあるが、ご容赦いただきたい。

職務経歴から見る法務応募者

募集の応募者にもある程度の傾向が見える。

以下は、1部上場のIT企業において、企業法務経験が数年ある人で年収400~550万円程度(みこみ残業代込)のレンジで募集した時の傾向である。

企業法務経験者
メインターゲットとなる「1~2社で2~3年経験(若手)」という、程よい法務経験者は案外見つからない。見つかっても、他社との争奪戦になるため、高めの報酬を提示できなければ、獲得は困難である。

「1~2社で2~3年経験」を超えてくると、年齢も報酬も上がってくるため、600万円未満で取るのは更に難易度が上がる。経歴のどこかで年収を落としてしまったり、ずっとプレイヤーで昇給して来なかった人等であれば、経歴に比して希望年収が低い人もいるが、30代後半以上にはなってくるだろう。

逆に「1~2社で2~3年経験」未満の方はある程度いる。1社目で経験が乏しいままでの転職だったり、数社を1年毎に転職していて腰を据えられないタイプの転職である。若手も割と多いが、法務経験と忍耐のなさ両方が懸念点になる。しっかりした考えを持ってのことなのか、面接で深掘りして見極めなくてはならず、採用の難易度は高い。

パラリーガル経験のみ
司法試験の受験をしながら、弁護士事務所でパラリーガルをやり続けていた企業法務未経験者。司法試験を断念したタイミングで、企業法務へ方向転換を試みる方。

大学院卒で、数年司法試験の勉強していると、企業勤めの経験がないまま、あっという間に30歳になってしまうという厳しい世界。パラリーガルの経験すらもしてなければ、企業法務への道もかなりハードルが高くなるだろう。

パラリーガルの裁量や業務範囲は、弁護士事務所によって全然違うので、良い経験を積んでいる人もいれば、事務作業メインで、あまり良い経験を積めていないんじゃないか、と思える人もいる。いずれにせよ、責任感を持って主体的に法務業務をしてきた経験は乏しいと思われるため、採用する場合は慎重にならざるを得ない。

しかし、パラリーガル経験者は、弁護士事務所から低賃金で雇われていて、希望年収も企業勤めの人に比べてかなり抑えめな事が多い。年齢は少し高めになるだろうが、一人目の法務専任者等でなければ十分に活躍できる人材が獲得できるだろう。

外国人
中国の方からの応募もちらほらあったが、どなたも本国で結構な経歴を積まれていて、中には弁護士の資格を持っている方もいた。そして、日本での就業経験もあって、日本語も問題なく使いこなせる極めて優秀そうな方ばかりである。経歴と比較しても、明らかに希望年収が抑え目な人が多い。

これは、日本の外国人受け入れ態勢の問題でもあるかもしれないが、日本人ばかり集まってる会社で日本人向けにサービスを提供している会社であれば、日本語でのコミュニケーションしか発生しない。しかも、法務であればなおさら、平均的な日本人を上回る日本語力が要求される。少なくとも、日本語力が低ければ、日本人でも同様に不採用になるだろう。応募者としては、そういう会社は、そもそもグローバル化進んでいない会社として、選択肢から外すのが良いだろう。

法務は言葉を操る仕事である以上、少しのニュアンスの違いが問題になりやすい。日本語をしゃべっているのに、何言ってるか分からない日本人の言葉を、読み解いていく作業も多い。だから、最低でもネイティブ級は求められるだろうし、面接等で、ニュアンスの伝わりづらさを感じると通せない。それは、我々が海外で法務やろうとしても同様だろうし、法務の外国人採用は難しい。

個人的には、チームメンバーの多様性としても外国人採用には前向きだし、面接は積極的にしてきたし、二次に進められそうな人(別観点で不採用にした。)もいた。

その他
他は多種多様だが、小さい会社で幅広な総務をやっている中で法務業務もかじってきた人、というのも一定数いる。そんな中で、法務としてやっていきたいと志すようになった方。ユーティリティプレイヤーを求めている会社等では同じようなポジションでの引き合いはありそうだし、安定したチームへの補充要員としては、歓迎されそうなタイプである。

選考基準や魅力づけ

書類選考
書類選考の段階でも、ターゲットにすぽっと入る人というのは限られているので、経歴・希望年収・年齢を見て、可能性がありそうな場合は面接をする。母数が減ってくると、明らかになさそうだな、と思っても面接することはあったが、このパターンで2次に上げることはなかったので、やめた方が良い。ただ「年齢がネックだな」という場合は、面接すべきである。

平均年齢が30代の会社だと、40歳以上は敬遠されそうだが、重要なのは年齢ではない。中年が持っているイメージのあるマイナス要素「頭固い」「バイタリティがない」「フットワーク重い」「枯れてる」「年功序列を重んじる」等を感じさせない人であれば問題ない。この辺りは会ってみないと分からない。経歴自体にマイナスがなければ会ってみるのが良いだろう。

資格
企業法務の転職においての「資格」の位置づけを気にする方も多いだろう。

まず、弁護士資格がある人しか採用しないパターンはあるだろうが、現状、それだけで応募できる企業が極端に狭まるという事もないだろう。そもそも法務人材の母数はそんなに多くないのである。

傾向として、司法試験を断念した人の多くは「行政書士試験」を受験し、合格しているように思える。私も合格している試験だが、司法試験を志した人にとっては、サクッと取れるのかもしれない。行政書士試験に合格しているからといって、企業法務の転職に特別有利になるというものではないし、経験の方が重要である。ただ「この人は、ある程度の法律の難関試験の勉強をして合格するぐらいの根性はあるんだな」という判断にはなる。ちなみに、「司法書士」の資格あるのに企業法務目指す人はごく少数に思える。

企業法務で最もポピュラーなのは「ビジネス実務法務検定」だろう。2級までは、法務担当者ならさくっと取れて当たり前なので、何もない人は是非取っておきたい。私も含め、弁護士資格ない勢は、長期的にはビジネス実務法務検定1級(少なくとも準1級)も目指したいところである。

法務をやっている人は、勉強家や資格ゲッターが多いので何もないと、比較的マイナスに見える。資格欄が物足りないが、難関資格まで取る余裕がない人は、ビジネス実務法務検定2級とセットで、知財検定2級や法学検定中級等(詳しくないが)も取っておくのも良いかもしれない。

余談だが、ビジネス実務法務3級だけを資格欄に書いてある人は、むしろマイナスイメージになった。仮に2級に落ちて諦めたとすると、法務適正があるとは思えないし、3級だけ受けて2級受けていないとすると中途半端すぎる。「勉強しないでも取れるところだけ取った」みたいな適当感がにじみ出る。

採用面接
経歴に書いてあることの確認、深掘りをして、能力のある程度の見積もりができれば、あとはマッチングするか否かだけである。

もっと狭く言えば、最も接する機会の多い人間(直属の上司・チームメンバー)との相性だ。最も接する機会の多い人間が面接官の場合は、自分との相性になるのでそんなに難しいものではない。コミュニケーションが取りやすいかどうかに集約される。

多くの応募者にとって面接はよそ行きであり、対策をしているので流暢にハキハキ喋るものである。普段と自分と違うキャラクターを作っている場合も多い。なので、彼らの素を引き出したい。

だから面接官として心がける事は、あまり面接っぽい雰囲気にしない事である。最初は自分の自己紹介からして、そこで警戒を解いてもらえるように、ぶっちゃけトークや冗談も交える。堅苦しい一問一答式にならないよう、普通の会話みたいになるよう心掛ける。聞くべきことをリスト化したヒアリングシートは作るが、それに縛られすぎないようにする。

非常に難しくも感じるが、自分と相性の良い相手であれば、自然と良い空気が作られるものである。固い空気のままだったってことは、ご縁がなかったということなのだ。

30分も話して(大抵の場合、最初の5分~10分ぐらいで決まるが)、2次に上げたいかどうかが固まれば、あとは好きになってもらうために頑張らないといけない。余程人気企業でもなければ、応募したからといって、最初から「是非とも入社したい」と思ってくれている人なんていうのは、ごく稀だ。

面接の後半は、定型的な質問に割くより自社の魅力と課題等の情報を包み隠さず伝えてアピールすることと、質問を受け付ける時間に多めに費やすのが得策である。最終的にお互いの情報をしっかり開示して、合う合わないを判断しないと採用したとてミスマッチが発生し、相互に不幸になる。応募者がマッチしないと思った場合には辞退してもらわないとならない。なので、お互いに良い事ばかり言ってもしょうがない。抱える課題・弱点を率直に伝える必要はあるし、こういう人は自社(自チーム)に合う・合わないという情報は特に積極的に開示するのだ。

転職希望者へ

最後に、面接において自分の将来像(キャリアパス)や転職軸を語れる応募者が少ないように思えた。ハッタリ(※心にもない事はダメ。自分で信じられるような未来を)でも良いから、ちゃんと語れるようにした方が印象が良い。でも良いから、ちゃんと語れるようにした方が印象が良い。私の転職活動のときは「最先端のテクノロジーに関与して、法律を変えることに携わりたい」とか「世の中を変えていくのはIT企業しか有りえない。IT企業しか今は見ていない」とかかましてた。

企業側にする質問も1つや2つじゃなくて、沢山用意していた方が良い。会社の良いことも悪いことも聞き出して、マッチングするか判断する必要があるし、その面接官がどういう人かの情報も引き出した方が良い。

あまり質問させてくれない会社もあるだろうが、自分が本当に会社を判断する基準として役立ちそうな5~6の質問は必要だろう。私は、「あなたが思う御社の好きな所と、課題に感じているところは?」とか言って、面接官が「ほほぅ」という反応しながら率直に答えてくれたのをよく覚えている。現在所属している会社の面接での話である。

この辺りは、会社ごとにそこまで変える必要もない上、準備しておくだけで、頭一つ抜けやすくなるところ。良いハッタリが言えるということは、ちゃんと考えて、対策してきているという事でもあるのだ。最終面接の面接官は、こういった所を気にしがちである。

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