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辰巳芳子のことば〜美といのちのために

『辰巳芳子のことば〜美といのちのために』辰巳芳子 2017年12月刊

新年はこのお方の著書を紐解き、襟を正すことから始めました。

御歳97歳の料理研究家、辰巳芳子先生の『辰巳芳子のことば〜美といのちのために』です。

本書、雑誌『和樂』の連載をまとめたものとなっており、辰巳先生のレシピ集ではありません。

日本の美をテーマに、辰巳先生が料理だけでなく、茶道や香道、きもの等を通じ、日本文化ついて語っております。

巻頭より「まず、美とは何か。美とはどういくことか、とういうことから、考え始めなければなりません」と辰巳先生の美に対する考察がスタートしておりました。

辰巳先生は常々、美は最も重要な「気づき」であると考えて生きてこられ、その気づきに従い、料理を創られてきたとのことでした。

辰巳先生をご存知の方は、辰巳先生が料理研究家というよりも、料理を通じて修養を重ねられてきた求道者であり、実践家であることに異論はないかと思われます。

そこらの宗教家や武道家が束になっても敵わない厳しさと慈愛を併せ持ったおばあちゃんであり、現代日本において、古き日本人の美徳を体現している稀有な存在なのです。

そして、辰巳先生の料理哲学の根底には生命に対する惜しみない愛情だけでなく、美に対するとてつもない憧れがあったことを本書を通じて知ることができました。

辰巳先生の美に対する哲学は、現代の我々、日本人が失いつつある美意識を取り戻す上で、非常に示唆に富んでおります。

辰巳先生の言葉の数々が多くの人の美に対する気づきにつながってゆくことを願ってやみません。

以下、本書より辰巳先生のお言葉のいくつか紹介させていただきます。

「美味しい」ということは、人間にとって、もっともわかりやすい美だと思います。
「美」を考えるとき、そこに「かしこさ」のようなものが必要だとおもっています。美意識は分析力によって磨きをかけてゆくものなのです。
「美」への気づきがあったとき、美しいと感じたものが力となって「いのち」を支えていくのだと思います。
私たちは「美」に対する思いに従って生きていけば、いのちそのものの原点に自然にたどり着くだろう、いのちそのもの中に「美」への憧れがあるのだ
あらゆる日本の美には風土が関わっています。日本人は風土の恵みのありがたさを、私自身を含め、まだよくわかっていないように思います。日本人は日本の美しさを食いつぶしてはいけない。なんでもない日常の中に、日本の美しさを取り込んでいくこと、それが大切です。
美に関して、いつも自分の意識に磨きをかけなければなりません。そうしなければ、自分自身が美しい人間になれないと思います。
自分たちの文化の行き詰まりというのは異文化の力を借りないと解決しない。異文化で自分のところの文化を「洗い直し」しないとね。
常に五感を磨いて、五感を十分に使い切っていく。そうすると真心を込めるピントが見えてきます。
あたりまえのことを、毎日丁寧にきちんとやることからしか、美を求める正しい感性は、育まれないのかもしれませんね。
本当になんでもないこと、日常の中に美がある。自分たちも美を創出できるということ、それは大事ですね。美を創出して生きることはね。
美しさはね、智慧が手足のどこまで及んでいるかで決まります。
「我」があってはダメね。「我」がある料理は、ちょっと食べたらおなかがいっぱいになっちゃう。やっぱり「無私」でなければダメだと思います。ものをつくる場合はすべて「無私」でないとダメなのです。
美というものは、やっぱり無私無欲でないと「美」にならないのです。
「気づき」のない人は成長しないのです。「美しさとは何か」を考え、美を求め続ける。すべての人に宿っている、かけがえのない「美への憧れ」を、傷つけないようにしなければなりません。
賢い人が必ずしも平和であるとは限らない。平和な人が賢いとも限らない。でも、両方を兼ね備えた人になれるといいわね。
「食」を守ることは「国」を守ること。
食べるものが国力の根本である、というあたりまえのことを、私たちはいちばん忘れがちですね。
人間はものより優位な立場にあるのではなく、「もの」も人間も、同じようにこの世に存在する。「もの」と向き合うことは命と向き合うことです。身近なところで「感応力」を磨き、敏感な「感応力」をもった人にならなければいけません。
「気づき」のある人間であることが、学ぶことの始まりです。
料理をすることのよいところは、常にものと向き合うことができるところです。
味を決める。それを繰り返していると、判断力、決断力が磨かれて、しかも瞬時にそれを行使できる。そういう人間になっていくんじゃないかと思うわよね。
神様は、自分自身を守ろうとする人でないと守ってくださらない。
美しさを求めて歩いていくと、本当に愛することを学びます。




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