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易経入門

『易経入門~孔子がギリシア悲劇を読んだら』

本書、「ギリシア悲劇」の登場人物に古代中国の経典「易経」の助言を与えてみたらという発想のもとに記されおり、「ギリシア悲劇」「易経」という東西を代表する古典を共に愉しめるというなんともまあ、贅沢な内容の本でした。

易経は儒教の経典でありながら、占術のテキストとしても長年使用され、現代にいたり、ユングやヘッセも魅了した中国の生み出した森羅万象の法則を説く哲学大系といってよいでしょう。

一方、ギリシア悲劇ですが、古代ギリシアで上演された演劇で、のちのヨーロッパの文学、演劇、芸術全般に多大な影響を与えた作品群のことです。

本書ではそのギリシア悲劇の三大悲劇詩人のひとり、ソフォクレスの作品が取り上げられおり、その作中に東洋の賢者が訪れ、登場人物たちに易の法則を語ってゆくというスタイルで「易経」「ギリシア悲劇」の持つ魅力を伝えてくれます。

このスタイルが功を奏し、「易経」「ギリシア悲劇」の持つ難解さを感じさせず、運命と対峙した時の人間の行い、そして、その選択がどのような結果をもたらしたのか、東西それぞれの視点が記されており、あっという間に読み終えてしまいました。

本書で取り上げられたギリシア悲劇は「オイディプス王」「コロノスのオイディプス」「アンティゴネ」「トラキスの女たち」「アイアス」「ピロクテス」「エレクトラ」の7作品。

易経からは「天風姤」「沢水困」「風水渙」「山地剥」「雷山小過」「火山旅」「離為火」の7つの卦が紹介されておりました。

易は全部で64の卦から成り、7つだけでは少し物足りない気もしましたが、現存しているソフォクレスの作品が7作品のみということからもやむ得ないのでしょう。

しかし、このドラマにあてはめて、易を語るという切り口、斬新でした。

難解といわれ、いくつもの注釈書がだされている易経関連の本はいろいろと目を通してきたのですが、この方法は思いつかず、易の面白さを伝えるにはなかなかの方法であるなーと感じた次第です。

そして、なにより、ソフォクレス、ギリシア悲劇の面白さよ、です。

ソフォクレス、生涯100を超える作品を書いたと言われますが、現存するのが上記、7作品のみというのが本当に悔やまれます。

古今東西を通じて、変わらぬ人間の持つ悲哀、無常がドラマチックに描かれており、ギリシア悲劇がシェイクスピア、ハリウッド映画の源流であることを再認識いたしました。

さて、本書を手に取ったきっかけですが、最近、易をまた、学びなおそうと思い、易占を立てることを再開したことによります。

以前、知人より、筮竹や算木(易をたてるための必要な道具)を譲り受けたことを機に、数年間を易の勉強に費やしたのですが、ほとんど、なにもつかめず、現在に至っておりました。

このままじゃいかんと一念発起し、再開したのですが、易に対する心もちは以前とは少し変化しております。

以前は、易を哲学として捉えるのか、占術として捉えるのか自分の中で葛藤があったのですが、ここ最近はどちらでもいいいじゃないのかという、受容、寛容の精神が芽生えてきました。

この葛藤は世間一般でいういわゆる「占い」といったものに対する強い忌避感が自分の中にあり、易の中にもその忌避感を見出していたことによる事と、一方で易の持つ宇宙観、哲学大系に惹かれ、魅力を感じていたことからによるのですが、最近は「もう、どちらでもよい」「わかろうとせず、まるごと受け入れる」という姿勢に切り替わってまいりました。

これは宗教、芸術に触れる際においても同様のスタンスなのですが、真偽や良し悪しをジャッジすることなく、まずは受け入れる、耳を傾けるという姿勢を社会生活を通じ、磨いてきたからであるともいえます。

狭量な自分は以前、これがなかなかできなかったように思えます。

また、最近ではいわゆる「科学的な手法」により算出されたとされるデータや数値を第一とし、直観や経験則を無視し、現実を見過ごしてしまう、コロナ禍での一連の出来事を見るにつけ、わかりやすく、万人が理解できる指標の限界も感じてまいりました。

これは「科学」が悪いのではなく、「科学」を盲信し、かえって非科学的行動をとるヒトの悲劇をここ数年、見せつけられたことも大きいです。

今こそ、容易に理解できない、混沌がありつつ、壮大な大系、哲学に触れ、自己をさらに成長させていきたいとい思いがふつふつと湧いてきたのです。

そして、易はその対象として、ぴったりでした。

ああ、でもそんなことをいっていたら、本書です。

エウリピデスやアイスキュロスのその他のギリシア悲劇、ギリシア喜劇も読みたくなってしまいました。

いずれにせよ、易を使い、ドラマ、物語を読み解いてゆく手法、今後、自分でも研究していければと思っております。

本書、読み物として面白いだけでなく、本当に易経の入門書としても平易で入りやすいです。

易に興味のある方、ギリシア悲劇に興味のある方、そして、最近の現代科学を利用した壮大な詐欺に立腹されている方、本書、自信をもってお勧めさせていただきます。

「知は、行いを通してもたらされるものでなければならぬ」ソフォクレス






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