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「武田塾新聞」をコクハツ! こたつ記事を書く前に、実直な取材と念入りな分析を(熊本大学新聞社の理念と活動)

(まえがき)
 本記事は1年前の広報ブログ記事「武田塾新聞」を真面目に「コクハツ」することを通じ、熊本大学新聞社の活動理念と編集方針をお伝えするために執筆されたものです。特定の企業団体を誹謗中傷する目的ではないことをご承知置きください。
 本記事を読んだ上で興味を持ってくださった学生の皆さんはお気軽にご連絡ください。(デジタル版編集部)

「武田塾新聞」から半導体産業とTSMC進出を考える
 熊本大学新聞は2023年4月10日付で、情報融合学環と工学部半導体デバイス工学課程を総力特集した。春休み前から企画を練り、熊大の新教育組織設置準備室や、文学部、工学部の教員と取材を重ねた。記事には直接反映できなかったが、熊本県庁にも取材した。まさに「総力」をあげた記事だ。
 それから2週間ほどたった4月25日に、「武田塾新聞」が「【熊大が熱い!話題の新学部】情報融合学環を徹底解説!」の見出しで情報融合学環の紹介記事を掲載した。さらに4月30日には工学部半導体デバイス工学課程の記事も掲載された。

 
 まずは、見出しを比較してみよう。
 一見して分かる通り、大見出しが完全に一致。中見出し、小見出しも内容が酷似している。

「熊本大学新聞」2023年4月10日付(左)と、「武田塾新聞」2023年4月25日付(右)の比較


「武田塾新聞」はジャーナリズムを掲げる「新聞」とは異なり、株式会社A.verが運営する「武田塾」熊本校の広報ブログだ。しかし、学生新聞の見出しを流用することからもわかるように、その内容はまさにこたつ記事。目を覆わんばかりの内容だ。

皆さんは、「TSMC」を聞いたことありますか?
数年前より熊本県内のニュースや新聞でも取り上げられている台湾の半導体メーカーのことです!

「武田塾新聞」2023年4月25日付 https://www.takeda.tv/kumamoto/blog/post-251631 より 

 いきなり間違ったことを書いている。TSMCは半導体メーカーではなく、半導体受託生産メーカー(ファウンドリ)、つまり半導体メーカーの下請けだ。したがって、Gartnerをはじめとする市場調査会社はTSMCを「半導体メーカー」ランキングには含めていない。2023年の世界半導体売上高では、Intelが3年ぶりにSamsung Electronicsを上回った。TSMCはそれをさらに上回る売上高を記録したと推定されるが、ランキングには表れていない。
 そもそも半導体デバイスとは、ダイオードやトランジスタといった、電気の流れを制御するモノのことだ。なぜそのようなモノを作るのかと言えば、電気を使って高速に計算をしたり、データの書き込みや読み出しをしたりすることができるからだ。そこで、そうした半導体デバイスを「集積」し、パソコンやスマホのプロセッサといった有用な機能を実現する。それを「設計」し「商品化」するのが半導体メーカーだ。
 TSMCは、そうした「設計」も「商品化」も一切やっていない。それをやっているのは、パソコンのプロセッサで今でもトップシェアを誇るIntel、その牙城を切り崩すAMD、メモリの王者Samsung、AIチップで急速に台頭するNVIDIAとそこに高速メモリを供給するSK Hynix、モバイル通信技術に長けスマホのプロセッサも供給するQualcomm、iPhoneブランドでプロセッサも自社開発するApple、老舗のTexas Instrumentsなどなど。
 そして、日本が最も苦手としているのがこの分野だ。かろうじて、破綻の危機から復活し車載チップを生産するルネサス、NANDフラッシュメモリを開発した東芝メモリを引き継ぐキオクシア、イメージセンサ市場でトップを守るソニーセミコンダクタソリューションズが残っているが、売り上げトップのキオクシアですらランキングのトップ10から陥落して久しい。
 こうした状況は、TSMCが日本にいくら工場を建てたからといって好転するものではない。TSMC熊本工場を使い倒せる半導体メーカーが、目下のところソニーくらいしかないことが最大の問題だ。そして、「武田塾新聞」の名ばかり記者をはじめとして、この問題を分かろうともしない人々が多いようだ。海外のメーカーが設計した半導体を、海外のメーカーが日本の労働力を使って製造するというのは、日本の半導体産業にとってそれほどポジティブなニュースなのだろうか。
 台湾にはTSMCに半導体製造を発注する有力な半導体メーカーが存在する。その筆頭が、2023年はトップ10から外れたMediaTekだ。それ以外にも、Novatek、Realtekなど、存在感のある半導体メーカーがある。こうしたメーカーは製造工場を持たず、TSMCなどに委託生産を行う「ファブレス」という業態をとる。残念ながら、こうした台湾のファブレス半導体メーカーに匹敵する企業は日本に存在しない。最近業績を伸ばしてきたソシオネクストが、2023年に国内半導体メーカーランキングで11位にランクされたくらいだ。
 
 4月号3面の「TSMC誘致特集」でインタビューに応じた、半導体研究教育センターの青柳昌宏教授(組織名・肩書きは当時のもの)はこう語っている。

設計技術が一番重要です。三次元積層のデバイス設計技術やツールをどんどん開発して、資産を蓄積していけば、それはTSMCをはじめ世界中のファウンドリに発注できるようになりますから、ファブレスとして産業の中心になる可能性がある。三次元積層の設計に特化したファブレスはまだありません。

熊本大学新聞 第219号(2023年4月10日付)3面

 この発言の野心と重みを、きっと半導体デバイス工学課程にも合格者を輩出したであろう武田塾の方々は胸に刻んではいかがだろうか。「授業をしない」を合言葉に、要領よく試験を突破するだけで、学生が半導体産業の再起にかける教員の熱いメッセージを受け取り損ねることだけはあってほしくない。

「熊本大学新聞」第219号(2023年4月10日付)


 情報融合学環新設とTSMC誘致に関して総力特集した熊本大学新聞第219号(2023年4月号)は以下のページから無料で閲覧可能です。紙面版も残部がありますのでお気軽にご相談ください。

参考記事

・【熊大が熱い!話題の新学部】情報融合学環を徹底解説!「武田塾新聞」

(参照2024/3/17)
・2023年の世界半導体売上高ランキング、Intelが3年ぶりにトップ

(参照2024/3/17)

・本当は半導体売上高で第1位? AIチップ急成長で快進撃が止まらないNVIDIA

(参照2024/3/17)

ファブレスのソシオネクストに内外から注目!~2nmでArmと共同開発契約

(参照2024/3/17)

(2024年3月17日)

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