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猪木vs.アリみたいな恋愛。

恋なんて、本気でやってどうするの?

久々に恋愛ドラマを観ています。逃げ恥以来かな。
恋愛感情に振り回されたり、恋人に割く時間を惜しんだりする主人公のスタンスが自分に似通っていると感じ、これは一見の価値ありかな、と。
来週が最終回だそうで、この辺で雑感を書き散らしておきます。

本作に傑出した面白さはないけれど、逆に言えばそれだけ陳腐な恋愛物語を十ものエピソードに分割して構成できるプロの脚本家はスゴイ。
恋のライバルでかき乱す、仕事のトラブルでかき乱す、友人関係の不和でかき乱す、隠された過去でかき乱す、やっかいな身内でかき乱す……あの手この手でよくもまあ膨らませるものです。



細かく見ていきましょう。
まず気になるのはなにより――

ありえない♪


この出だしで始まる挿入歌。SixTONES の『わたし』という曲だそうです。


どうでもいいけどコレ、びっくりするんですよ。
ドラマの最中にいきなり、

ありえない♪


と大音量で流れ、私の心臓をキュンとさせます。恋愛ドラマのくせに音量でキュンとさせてきます。
かと思えば、数分後にあいみょんの歌が流れてきて、全く親和性のない二曲の垂れ流しに、

ありえない……


と呟いた視聴者は私だけではないはず。


音楽のミスマッチくらいなら全然いいのですが、本作はタイトルと内容までミスマッチです。

私はてっきり、かたくなに恋愛不要論を説く女性主人公が押しに押されて最終回付近でようやく「本気」になる話かと思っていました。が、ふたを開けてみると初めの数話で主人公があっさり恋に落ちやがります。

ありえない……

 
タイトル詐称だ。
一応、始まりは「気軽な恋」だの「お試しの恋」だのほざいているのですが、そもそも真面目な性格の主人公がそうした恋愛に踏み切る動機が『処女を捨てるため』。あげくエッチの回数を重ねているうちにあっという間に「本気」になってしまいます。

仕事のデキるカッコイイ女性として恋愛不要論を披露していた最初期の主人公を返しておくれ……。これではちょろい処女がイケメンにもっていかれただけの話になってしまうではないか……。

ただ、

恋なんて、本気でやってどうするの?


この問いに対する答えがひとつ、きちんと提示されましたね。

そんなこと知るか気持ちイイし楽しいからヤッてんだよ!


これです。
もう主人公にこれを言わせられるようになった時点でドラマ終了でも良かった。三話目くらいだったかな。


■いまいちテーマとかみ合ってない

恋愛に合理性を求めたり、恋愛に消極的だったりする昨今の若者に焦点を当てたかったのでしょうけれど、いまいち掴み切れていませんでしたね。

タイトルにある「恋なんて・・・」という表現は、一種の強がりを匂わせます。これは本作の主人公を表すタイトルにはなっていますが、視聴者(ターゲット)として想定している若者の感覚とはズレていたのではないでしょうか。
実際に「恋なんて」と考えている若者はたぶんいないのです。恋愛は良いものだ、それはわかっている。ただシンプルに「優先度が低い」だけのこと……。

この見解が真だとすれば、主人公が処女で男性経験を求めていたとか、恋愛体質の母親を反面教師にした結果恋愛不要論を説くようになったとか、そういった設定は丸ごと要らなかった。
「ごく普通の円満家庭で育ち、異性との交際経験もいくらかある。しかし恋愛も結婚も別に求めてない」
そういう主人公で描かないと、このテーマをやる意味がありません。そういう主人公でドラマになるかはわかりませんが。

同じタイトルで飯豊まりえと岡山天音のカップルを中心に構成し直したほうが面白いのではないでしょうか。
岡山天音があの感じで「恋なんて本気でやってどうするんでしょうか」とか言ってるところにパパ活女の飯豊まりえがやってきて謎の宅飲みからの恋愛スタート、でいいじゃん。そのほうが面白いじゃん。


■もっとインファイトしないと

本作が恋愛ものとして致命的なのは、主人公カップルがずっとアウトボクシングみたいな恋愛をしてしまうところです。
二人が互いの欠点や弱点を直接えぐり合う場面がとにかく少ない。〈すれ違い〉はあっても〈衝突〉がない。せっかく衝突に繋げられそうな要素があっても、恋人ではなく友人に指摘させてしまっている場面すらある。
もっと主人公カップルに台詞の掛け合いをやらせろよ。インファイトしろよお前ら。

みっともなく恋愛できない主人公とひたすらクールな彼氏くんのキャラがブレなさ過ぎて、逆にドラマ全体が醒めてしまっている。こんなカップルの恋愛にどうやって熱を入れてのめり込めるんだ。猪木vs.アリの世紀の凡戦か。猪木もアリも本気でやってるんだろうけれど、視聴者が観たかったものじゃないということがそのまま本作の恋愛模様にも言えます。
やはり飯豊まりえと岡山天音のカップルを掘り下げた方が絶対面白い。


ただ、口では「本気」と言いながらインファイトできない、アウトボクシングしかできない若者像はある意味リアルなのかもしれません。
一見まともな恋愛をしつつも、腹の底では「こんなこと本気でやってどうするんだ」と思っている主人公を描くドラマだったら、エンタメにはならないけど文学的な香りがしたでしょうね。


来週の最終回……

観るぞ。

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