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料理と寂しさ

料理の寂しい表現。この寂しさとは、その料理の味の良し悪ではなく、育まれた土地の歴史や伝統がその料理から立ち上る香りに混じり、じわりと見せる表情の事です。
日本の料理では、高野豆腐や切り干し大根、ロシアのボルシチやポルトガルのコジード・ア・ポルトゲーザ(Cozido a Portuguesa
その料理の地域性や歴史の寂しさです。

フランス・アルザスのシュークルート(ザワークラウト)
塩漬け発酵キャベツの料理ですが 立ち上がるすっぱい発酵臭が郷愁を誘います。
ある日私は数名の友人とアルザスの中心街ストラスブールのクリスマスマーケットに買い物に行きました。ストラスブールはアルザス地方の中心街。大聖堂の周辺は沢山の観光局客や買い物客だにぎわっていました。買い物を終えたあと、私たちは事前に予約をとっておいたアルザス伝統料理店へ食事に行きました。注文した<シュークルート・アルザシアン>や<ベッケオフ>は共にすばらしくおいしく、楽しい食事の時間を過ごしました。

支払いの前に、私はトイレに立ちました。

堀の深い美しい顔のたくましい年配ウエイトレスは、親指を背後に指差した。

“便所はあっちだよ!”

“それから・・チップはいらないよ!”

私はいそいそと 背中を丸めて便所に向かった。

掃除が行き届いた清潔な便所の中は、上質のシュークルートの香りが染み付いていた。

ドア越しには大聖堂。

鐘の音色。

シュークルートは暖かい、でも寂しい。料理は言葉には出来ない表情を持つ。

だから料理は寂しい。


<補足>
シュークルート・アルザシアンChoucroute Alsacienne=カンタル種キャベツを塩漬け発酵。ベーコンやソーセージ・ジャガイモなどとオーブンで蒸し煮にしたアルザス地方伝統料理。 正確にはシュークルート・ガル二・ア・ラルザシアン。店や家庭により違いはあるが、基本的に補足スパイスとしてキャラウェー、ジュニパーベりーと粒胡椒を使う。肉の変わりに 鱒やサンドル(淡水 スズキ科)と合えあせる場合もある。私が19歳の時 しばらく働いたLe Celf のシュークルートは非常に繊細な味がし、当時ベスト・シュークルートに選ばれた。レストラン シュバル・ブランのサーモンとスモークサーモン、シュークルートのパイ包み焼きは有名で、自分の料理の参考にさせて頂いた。ドイツではハインツ・ビンクラーのシュークルートのポタージュに、ブルート・ブルスト(豚血のソーセージ)を添えるという非常にシンプルで斬新なアイデアに驚いた。

*ベッケオフ(ベッカオフ)Baeckeoffe牛テールや豚肩、羊に肩などに塩コショウし、 玉ねぎ・アルザスワインとアルザス地方の土鍋にいれ、5mmほどにスライスしたポテトで覆う。蓋をして、練り粉で蓋の隙間をおおい 中火でじっくり火を入れる。本来は、パン屋さんの釜の残り火を使って調理していた。Baeckeoffeとはドイツ語で”切ったオーブンを意味します。肉入りのポンム・ブーランジェリーのような料理。

コジード ア・ポルトゥゲーザCozido a Portuguesa=ポルトガル風 煮込み。
鶏肉. 豚肉. 豚足や豚耳.ほほ肉.牛や鳩を塩漬け後、モルセーラ血の腸詰 
ファリニェイラ小麦粉の腸詰. ショリソ. ちりめんキャベツ. かぶ.にんじん.玉ねぎ.ジャガイモなどと茹で煮込んだ料理。色々な食材が使われるシンプルなポルトガル郷土料理。レストランではかなりのボリュームで提供される。
 




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