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自分を「非力」の位置に置かない


みんな気を抜くとやってしまうかもしれないことの一つに、「同情を誘う」というものがあります。

こういう表現をすると「いやいや、自分はそんなあからさまなことはしない」と思うかもしれませんが、友人や家族の前で愚痴をこぼすことのある人は結構いると思います。あるいは、noteやXといったSNSでも。

「普段自分が思ったことや感じたことを、誰かに知ってほしい」と思うのは普通のことですよね。
それが前向きなことならばいいのですが、そうでない場合の多くは、「自分の考えが、ほかの多くの人にとっても正しいはず」「自分は絶対に間違っていないはず」「私がこんなに困っていることに共感してほしい」といった保身の要素をもっていることがあります。

他人の同情を誘いたがること……それは「私は非力だ」という、自分の信念を主張する行為に他なりません。
みんな、なぜ自分を非力ということにしておきたいのか?そうすると“得をする”ということに、深いところで納得しているからです。

何が“得”なのかというと、自分が非力であると設定することで、「他人の共感や同情をエネルギーに変えられる」ということが得なのです。
こうなると、いずれ(自分ではそんなつもりはなくても、気が付いたら)そのエネルギーの取入れ方に依存してしまいます。
「エネルギーヴァンパイア」という言葉がありますが、上記はこれの一種です。厄介なのは、本人は無意識に「エネルギーヴァンパイア」をやってしまっていることが往々にしてあるのです。

例えば、ある日Aさんが会社で上司に怒られたとします。その悲しみをSNSに書き込むと、呟きをみているAさんの周りの人が慰めてくれました。その結果、Aさんはこう思うかもしれません。
「みんな、優しい言葉をかけてくれて嬉しい。味方してくれる人がいてよかった。」
Aさんは力を取り戻せたような気がしました。

これは一見、温かいエピソードのように思われます。
ですが、こうなればまた会社で上司に怒られたとき、仕事のミスをしたとき、家族と揉めたとき、好きな人に振られたとき、他人に陰口を言われたとき、Aさんは悲しみをSNSに書き込むようになるかもしれません。
でも、最初のように反応をくれる人が現れなくなる日がきたとき……Aさんは拠り所を失います。
こうなるともう、Aさんは本来あるはずの力を失っています。

「本来あるはずの力」とは、自分で自分のエネルギーを補充する力です。あるいは自然の中へ行ったり、好きなことをして自分で自分を満たしてあげることです。

でも、「共感や同情を集める」ことによってエネルギーを得るやり方ばかりになると、それ以外でのエネルギー補充ができなくなってしまいます。なぜなら、Aさんは「非力」(という設定)だからです。非力な人間には自力で回復し復活する力などありません。
そしてさらに極まってくると、自分が自力で再起できないのを「誰も自分に関心をもってくれないから」「誰も私を助けようとしてくれないから」と、自分以外のせいにし始めます。そうすると以前より強力に同情を集められるかもしれませんから、集めた同情によってエネルギーも回復できます。

先ほどの例のように、「最初のように反応をくれる人が現れなくなる」のは、Aさんの周囲の人が「Aさんに構うとなんか疲れる」と薄々思い始めるからです。
誰かを励ましたりフォローしたりするのは、それをするだけでもエネルギーを使います。はじめは目をかけていても、やがて「Aさんにエネルギーを割く」ことが損だとわかり始め、そのうちAさんから距離をとるようになるのです。

この例は少し極端かもしれませんが、「似たようなことやってしまってるかも!」と気づく方もいらっしゃるかもしれません。
心当たりがある方は、「必要以上に相手からエネルギーを奪わない」ように気を付けてみてください。

よくある話でいえば、「夫が仕事から帰ってきても、家事を全然手伝ってくれない」ということがありますよね。
こういうとき、夫に家事の手伝いをお願いするなら“できるだけ相手のエネルギーを奪わないやり方で”依頼してみてください。
まず前提として、夫も仕事中にたくさんのエネルギーを使っており、消耗していることを念頭に置いておく必要があります。そんなときに、「あれやっといてって言ったでしょ!!」とかきつく指図すると揉めます。人間みな、エネルギーが十分にないと、自分以外に寛容に接する余裕がありません(お互い様ですが)。
あるいは反抗したい気持ちをかみ殺して、黙って手伝ってくれる夫もいるかもしれませんが、このとき妻は、無意識に夫から相当量のエネルギーを奪っていることに気づいてください。続けていると気づかぬうちに歪みが大きくなっていき、修復不可なところまで関係が壊れてしまうかもしれません。気づくなら早いうちです。

人間は生きているだけでもストレスが溜まるものですから、日常的にこういうことをやってしまっていても無理はありません。
もし自分のこういう習慣に気づいてしまったとしても、自分を責める必要はありませんから、優しくしてあげてください(自分を責めても、自己否定でさらに力を失ってしまうだけです)。
「わかっていても周りにつらく当たってしまう」とか、「わかっていても重たい人間になってしまう」とかいう方もいると思います。この状態から脱却するには、やはり奥深くに根付いている無価値感や自己否定感を癒してあげるのがよいのですが、多くの場合はそのプロセスに時間がかかってしまいます。
まずは手近なところから、そういう人はできる範囲で、他の誰かより「自分の時間を優先してあげる時間」をとれると、きっとよくなります。よく寝て、おいしいもの食べて、自分の時間をとってあげるとよろしいかと思います。

と……いう感じで、今日は「非力」という設定についてや、エネルギーのお話をしました。
今日もお疲れ様でした。自分に優しく、ゆっくりお休みくださいね。