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「AWE」という感情がもたらす効果とは?


「AWE」とはどんな感情?


「AWE」(“オウ”と発音)という感情をご存知でしょうか?満天の星空を見上げて自然の美しさや雄大さ、宇宙の壮大さに思いを馳せたり、地震や津波などの自然の脅威を目の当たりにして畏れおののいたりした時に感じる、人生観や世界観が変わるような感情を心理学ではAwe(日本語では「畏怖」と訳される)と言います。AWEはネガティブな側面もあるものの、基本的にはポジティブ感情の1つと考えられています。ここでは、このAWEを日常で感じる機会を取り入れることで、クリエイティビティやメンタルマネジメントに良い影響があることをご紹介します。

Aweという感情の特徴は、学術的には、壮大さ(vastness)と、認知的枠組みの変更の必要性(need for accommodation)を感じることだとされますが、簡単にわかりやすく言うと、自分の力などちっぽけに思えるような圧倒的なもの(先述の宇宙や大自然、あるいは偉人やカリスマなども該当します)を前にして、自分にばかり向いていた意識が変わり謙虚になったり、曖昧さを許容できるようになったりすることです。では、具体的な研究を見ていきましょう。

米カリフォルニア大学バークレー校のミシェル・N・シオタ博士とダッチャー・ケルトナー博士は、AWEを感じた時にどのような内面の変化が起きるか、実験で確かめました。

この研究では、まず、Aweを引き起こすものとして、自然や芸術が有効であることがわかりました。雄大な大自然だけでなく、荘厳な音楽や絵画などの芸術も、AWEを感じるのに有効なのですね。そして、実験の参加者はAWEを感じた結果、

自分はちっぽけな存在である」、「自分より大きな何かの存在を感じる」という感覚になり、自分自身への意識が低くなりました。(これは決してネガティブなことではないのです)

また、Aweを感じやすい性格の人は、何でも白黒をはっきりつけたがったり、明確な正解を求めたりする傾向が低いことがわかりました。つまり、曖昧さを許容できるということですね。そして、Aweを感じた後には、クリエイティブな活動(執筆や楽器演奏)をする傾向が高まるという興味深い発見がありました。


AWEはなぜクリエイティビティを高めるのか?


AWEを感じるとクリエイティブな活動をする傾向が高まると書きましたが、AWEはクリエイティビティ自体をを高めることも研究で明らかになっていますので、ご紹介します。

イタリアのサクロ・クオーレ・カトリック大学心理学部のアリス・キリコ博士らは、手軽にAweを体験する手段として、VR(Virtual Reality)を使い、VRでAweを喚起する映像を見るとクリエイティビティが高まるか、実験で確かめました。

実験では、52人の大学生を2つのグループに分け、VRのヘッドセットを装着してもらい、2分間、以下の映像をそれぞれ見てもらいました。

・1つ目のグループ:Aweを喚起する映像(高い木々などの雄大な自然映像

・2つ目のグループ:中立の映像(雌鳥が歩き回っている映像)

その後、クリエイティビティを測定するテスト(TTCT(Torrance Tests of Creative Thinking)という定番のテスト)が実施されました。このテストでは、ある絵(例:羊の絵)が提示され、その絵を子供が喜ぶような商品の絵にするには何を改良すれば良いか、思い付くアイデアを挙げるように指示されました(ユニークなアイデアを多く出すほど、クリエイティビティの評価が高くなる)。

実験の結果、Aweを喚起する映像を見たグループの方が、見ていないグループよりも、クリエイティビティのスコアが50%以上高いことが明らかになりました。

なぜ、AWEを体験すると、クリエイティビティが高まるのでしょうか?

先述のように、AWEを感じると、「自分はちっぽけな存在である」と感じることで、自分自身への意識が低くなります。これによって、自分のメンタルフレームが拡張され、型にはまらない考えができるようになり、これまで気づかなかった新しい視点を得やすくなったためである

と研究者らは考察しています。確かに、自分のことばかりに目が向いていると、クリエイティブな視点を得ることは難しくなりそうですよね。AWEは、そんな狭い視野を広げてくれる役割を果たすようです。


楽しさ vs. AWE 〜よりクリエイティブになるのは?〜


最後に、楽しい気分の時と、AWEを感じている時では、どちらの方がクリエイティビティが高まるのか、興味深い研究をご紹介します。

こちらも米カリフォルニア大学バークレー校のダッチャー・ケルトナー博士らの研究ですが、107人の大学生を2つのグループに分け、3分間、以下の映像をそれぞれ見てもらいました。

・1つ目のグループ:Aweを喚起する映像(宇宙の惑星の映像)

・2つ目のグループ:Amusementを喚起する映像(映画「トイストーリー」の映像)

その後、クリエイティビティを測定するために、「大学の心理学部の教育を良くするアイデア」を5分間、可能な限り列挙してもらいました。

その結果、Aweの映像を見たグループの方が、Amusementの映像を見たグループよりも、アイデアのオリジナリティに関する評価が約13%以上高いことが明らかになりました。(アイデア数と柔軟性は同等でした)ちなみに、どちらの映像も「幸福感」を感じる度合いは同じでした。つまり、ポジティブ感情の度合いは同等だったのに、Aweの方がAmusementよりもクリエイティブになったと考えられます。

クリエイティビティにはポジティブ感情が大事であることを、このnoteでも再三ご紹介していますが(詳しくは、「クリエイティビティと気分の深い関係」をご参照ください)、ポジティブ感情の中でも、楽しさよりもAWEの方が、クリエイティビティを高めるにはより効果的であることがこの研究で示唆されました。

AWEを日常で手軽に感じるのにオススメなのは、プラネタリウムです。以前にもこのnoteで書きましたが(詳しくは、「プラネタリウムのリラックス&クリエイティブ効果」をご参照ください)、プラネタリウムは副交感神経が高まり、リラックス効果もバッチリ得られるので、とてもオススメです。

参考文献:
・Shiota, M. N., Keltner, D., & Mossman, A. (2007). The nature of awe: Elicitors, appraisals, and effects on self-concept. Cognition and emotion, 21(5), 944-963.
・中山真孝. (2020). Awe と意味生成. 心理学評論, 63(1), 28-43.
・Chirico, A., Glaveanu, V. P., Cipresso, P., Riva, G., & Gaggioli, A. (2018). Awe enhances creative thinking: an experimental study. Creativity Research Journal, 30(2), 123-131.
・Zhang, J. W. (2017). Trait and state based experience of awe promotes creativity (Doctoral dissertation, UC Berkeley).

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