20230307

20230307
 渋谷から田園都市線で二子玉川に向かう。用賀の駅から地下トンネルを抜けて外の光が車内の窓から入り明るくなると同時にちょっとした解放感を味わえる。この体験はいつになっても高揚感がある。恐らく、日本で一番有名な小説の書き出しである川端康成の『雪国』の冒頭――国境の長いトンネルを抜けると、そこは雪国であった。――が、わたしたちの心をいつの時代も捉え続けるのは共通した感覚を誰もがもっているからではないか。ただ、今は季節は春であり、都心での車窓から覗く景色は川端の書いたそれとは随分と違うわけだが。二子玉川駅はその名の通り、駅構内から川の上に架かる鉄橋と二つに分かれる川が先頭の車両からはよく見える。まだ、さすがに咲いてはいなかったが、ソメイヨシノの並ぶ川辺と干上がった河原の上で何人かの人影も見えた。水辺にはよく動物が集まるイメージだが、やはり人間も動物なのだなと改めて思う。文明だって全て川沿いで発祥したのだから当然と言えばそうである。でも、そうしたことを都会に住んでいるとついつい忘れてしまう。そんなことを考えながら、駅の向いにある高島屋四階の「OXYMORON(オクシモロン)」というカフェで評判の和風キーマカレーを食べた。コロナ禍の感染予防でそうなったのか、定かではないが注文はQRコードでオンライン注文するというかたちだった。ファミレスなどでタブレット注文する感じだろうか。白米の上に重ねられたそぼろと野菜の具材がペースト状になるほど炒めてカレーの水気を飛ばしたルーの上に表面を覆いつくすくらい大量の刻みネギと、真ん中に半熟卵がのせられた見た目はシンプルなドライカレーだ。中辛でもそこまで辛さはなく、まろやかな口当たりだった。ドリンクにラッシーを頼んだ。こちらもスッキリとした飲みごたえだ。蔦屋家電で購ったグアダルーペ・ネッテルの短編集『赤い魚の夫婦』(宇野和美訳、現代書館)を読んだ。これがめっぽう面白くて一篇読んでから会計した。外は薄雲の広がる空模様だったが、とてもゆっくりと過ごせたので満足だった。

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