マガジンのカバー画像

新作映画2024

26
2024年の新作ベスト選考に関わる作品をまとめています。新作の定義は、今年も2022/2023/2024年製作の作品で自分が未見の作品です。
運営しているクリエイター

#アメリカ映画

ゼルナー兄弟『Sasquatch Sunset』ウホウホなサスカッチたちの春夏秋冬

ゼルナー兄弟共作長編二作目、兄デヴィッドは単独監督作も含めると長編七作目。サンダンス映画祭でプレミア上映された際は多くの観客が途中退場したらしい。ロッキー山脈一帯で目撃されるUMAサスカッチの一団の春夏秋冬を追った一作。台詞はウホウホ音のみ。真っ昼間から森のど真ん中でセックスしてる冒頭から中盤までは、セックスにウンコにゲロにチンコに云々という下品なコメディで、正直自分の好みとは正反対だったが、エピソード単位ではしょーもなすぎて笑えるものも多かった。特に、初めて道路見て盛り上が

ローズ・グラス『Love Lies Bleeding』セックスとドラッグと筋肉と

ローズ・グラス長編二作目。1989年、ジムのマネージャーであるルーは、ボディビル大会を目指してニューメキシコを通りかかった放浪者ジャッキーと出会い恋に落ちる。ルーは自身の後ろ暗い過去と最低な男家族に悩まされており、その根源たる有害男性性を内面化していた。彼女の父親が郊外の砂漠で射撃場を経営しつつ、メキシコへの武器密輸で財を成しており、FBIにも目をつけられていたのだ。ルーが生身での勝負に拘るジャッキーにステロイドを勧め、彼女が薬物中毒になっていくのは、本作品のボディホラー的な

ジャン=ステファーヌ・ソヴェール『Asphalt City』危険な有色人種と思い悩む白人救世主

2023年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。ジャン=ステファーヌ・ソヴェール長編四作目。カンヌでのプレミア上映時は『Black Flies』という題名だったが、いつの間にか変更されていた。物語は新人救命救急士オリーが、ペアを組んだベテラン救命救急士ジーンと共に様々な現場を体験する、というもの。いきなり銃撃戦があった公園に行かされて呆然とするオリーは、その後も様々な現場で様々な患者と向き合っていく。凶暴な犬に噛まれたチンピラ集団、過酷な食肉工場で倒れた男、ランドリーで倒れたホーム

ローラ・ポイトラス『美と殺戮のすべて』それは姉の見た世界、私の歩んだ記憶

大傑作。2022年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品、金獅子受賞作。1965年に自殺した姉バーバラに捧げられた映画であり、原題も診断書に書かれた"彼女が見た世界"を指す言葉から取られている。それはある意味で、後に妹ナンが歩んだ人生そのものであり、すべてが姉の"物語"に帰着しているようにも見える。ナンは冒頭で、物語と記憶の違いを語っており、生の記憶を残すために写真を撮っているとしていたが、姉の人生については"姉の物語"としていることが、まさに本作品のすべてを表しているのではな

マイケル・マン『フェラーリ』崩壊寸前なエンツォ・フェラーリのある年

2023年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。マイケル・マン長編12作目。1957年夏、エンツォ・フェラーリは二つの危機に瀕していた。一つ目は家庭。前年に最愛の息子ディーノが若くして亡くなり、妻ラウラとの関係性は完全に破綻していた。二つ目は仕事。創業して10年のフェラーリ社は赤字が溜まって完全に傾いていた。全てを完全にコントロールしていたいエンツォの指の隙間から、全てが木っ端微塵となって零れ落ちていく。物語はマセラッティのドライバーであるジャン・ベーラがモデナに到着したとこ