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2024年2月に読んだ本




『かわいそ笑』 梨


【雑感】

信じたくない現実が近づいてくる。こちらが目を背けているのを知っているかのように、顔を覗き込んでくる。第三者だと思っていた自分が、いつの間にか当事者になっているというようなことが、ネットの世界では屢々ある。被害者、加害者が誰なのか分からぬまま、悪意も善意も匿名性の渦に消えていく。伝承の豊富さを見れば、現代の遠野はインターネットなのかもしれない。これを読み終えた次の日の夜、いつもの寝室の暗闇が急に恐ろしくなって飛び起きてしまった。この本とは全く関係ないことだろうとは思うけど。




『君はそれを認めたくないんだろう』 山下賢二


【雑感】

珍しくタイトル買いをした。作者のことは何も知らない。ただ何となく信用できるような気がしたのだ。作者は京都にある書店の店主。その実体験と元来の性質から培われた人生観は、押し付けがましさを一切感じさせずに、我々に様々な示唆を与えてくれる。彼が世の中に向ける眼差しは優しく、それでいて鋭い。『ほっこりという盲目』の章など、最高に好み。詩と散文が丁寧に詰められた本作は、運動会の日のお重に入った豪華なお弁当のよう。良いエッセイを読むと、自分も書きたくなってくるのは何故だろう。




『マイ仏教』 みうらじゅん


【雑感】

本著は仏教とみうらじゅんという、二大よく分からないもののルーツを知れるお得な一冊。仏像好きの少年が人生の過程で導き出したマイ涅槃の境地へと友達の家気分でお邪魔できる。仏教というテーマを極めてカジュアルに書き表せるのは、氏の独特の着眼点、センスに加えて、人生において本当に仏教が身近な存在であったことが大きいのだろう。完全に乗りこなしている。仏教の教えに基づいたライフハックや、駄洒落めいた言葉の数々で我々ビギナーにも気を配りながら、仏教の明日をサングラスの奥から冷静に見つめているのだ。




『鬱の本』 点滅社編集部


【雑感】

様々な寄り添い方がある。寄り添わない寄り添い方もある。弱る心に何が正解かは分からない。ただ一つ言えるのは、この本が読む人にとって暗闇を照らす光になりますようにという、ただひたすらな願いによって形づくられているということ。見開き二ページのエッセイが、静かに淡々と続いていく。どこから読んでも構わない。温かな毛布に包まっているような安心感を感じる。一人じゃないと伝えたい想いを強く感じる。鬱というものをきっかけに、沢山の人と繋がる不思議。この本の住人に、あなたを咎める人は誰もいない。


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