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【舞台】マディソン郡の橋

一瞬で自分を変えてしまうのが恋。
変わらない気持ちにさせてくれるのが愛。

東京・シアタークリエで3月21日まで公演中の『マディソン郡の橋』を観劇しました。

くやしいくらいに切なくて愛しくて、クリエの劇場にいるはずなのに、マディソンの農場の陽気な空気を感じているような柔らかな気持ちにさせてくれるミュージカルが初演を迎えました。

<あらすじ>舞台は緑豊かなアイオワ州のウィンターセット。農場を営む夫と、息子、娘と四人暮らしのフランチェスカは農家の妻として、家族のために過ごしてきた。ある日、娘・キャロラインが育てた仔牛の品評会に出向くため、夫と子どもたちは四日間家をあけることなる。一人留守番のフランチェスカ。何事もなく過ごすと思われたが、家族を送り出した日の午後、カメラマンのロバートがフランチェスカの家の前に車で訪れてきた。ロバートはこの地特有の橋を撮影するためにやってきたのだ。そこで初めての地に訪れるロバートにフランチェスカは街を案内することなり、短い時間を共にしながら昔話などに花を咲かせ、二人の距離は次第に近づいていき・・・。

一言で言えば、不倫・ラブストーリーミュージカル

雑に言ってしまえばですけど。

前の自分だったら「何がいけないの?」と思ってしまいそう。たとえ夫がいようとも、後に出会った相手に真実の愛を見つけてしまったのだとしたら。いや、夫のことだって本物の愛を誓ったはず。でも、人の心は移りゆくものだから、と。

一見、夫を、家族を裏切ってしまう身勝手な行為だと思われてしまっても、フランチェスカとロバートの二人が惹かれあっていく様子がごく自然で、いつからお互いがお互いへの好意に気づいていて、惹かれていったのかわからないほど音を立てず静かに愛を募らせていった二人の恋は、やっぱり不倫という言葉では片付けたくはないなあと思いました。

二人は家族がいない四日間で、全く見知らぬ人であったところから一生の愛を誓う関係にまでなってしまうのだけど、それがまた少し不思議で。四日で・・・もっと言えば一日目で他人の車で道案内をして自分の家で食事を共にし、一旦別れたと思ったら二日目で恋が芽生えてしまうわけです。
そんなことがあり得る・・・の・・・?
でも、実際に恋は芽生えた。きっと波長が合ったのか、それかお互いに欠けていた「何か」を見つけることが出来たのかもしれません。

フランチェスカはイタリア・ナポリから来たいわゆる「ウォー・ブライド(戦争花嫁)」でした。若くして故郷を離れ、荒れゆく時代の中で隔絶されたアイオワ州マディソン郡のウィンターセットでの平凡で幸せの生活を営みながらも、どこかで故郷に帰りたい気持ちを残したまま、誰にも話せずにいた。そんなときにロバートと出会い、彼が故郷・ナポリを知っている人で、彼の心優しい人柄と一緒に故郷を思い出させてくれたことがある意味運命的だったのかなあと思いました。

そしてロバートも、転々と街を移り自分のやりたいカメラマンとしての仕事に情熱を注ぎながら、どこか落ち着ける居場所を求めていた。そこで現れたフランチェスカもまた明るく天真爛漫な部分があり、家族を支え愛する姿に安らぎを感じ、愛してしまうのも納得いくことでした。

また冒頭で「前の自分だったら、そんな恋(不倫)も許していた」と書きました。前の自分とは、中学・高校生のときやもっと昔、小学生のときだったら目の前の好きな気持ちだけが全てであり、それ以外の理由で恋愛は語れないし、好きという気持ちに間違いはないと思っていた自分。

だけど、少しずつ周りが見えるようになってきて、家族という存在の大きさを考えるようになってきた今の自分は、フランチェスカとロバートの恋に手放しで応援できない気持ちで舞台を観ていました。

そしてロバートが家族が家に戻る四日目。
「一緒に町を出よう」と二人で落ち合う約束をします。

ああ・・・やはり来てしまいました。二人が共にこれからの時間を過ごすのなら、これしかないとわかっていたのに、幸せな四日間のあとに突き付けられる現実はとても痛く悩ましいものでした。

世界で一番大切な家族と一生に一度の恋、確かな愛。

どちらか一つだけを手にする究極の選択

同じくらい大事なもの。一方を選べば、もう一方は永遠に失われる。もう決めるなんて辛すぎて無理よ・・・。正直見ていて、とりあえず自分に置き換えて考えることはやめました・・・。

フランチェスカの選択とその後の彼女と家族の人生、ロバートの人生。時が流れていく様子に四日間の面影はありませんでした。それが切なく感じられたりもしたけれど、極めつけは人生の最後の手紙のやり取り。ここまで言うと、フランチェスカがどんな選択をしたのかわかりますよね。

ロバートはフランチェスカからの連絡をずっと待っていたけれど、二人が再び出会うことはありませんでした。(街で一度会ったようにもとれるシーンがありましたが、会話を交わすなどのやりとりはありませんでした。)

だけど、数十年の時が経て、自身の最期を悟りフランチェスカへ手紙を送ったロバート。それを一人家の前の椅子に腰かけて読むフランチェスカ。このやりとりにあの四日間が何物にも代えがたい忘れられない素敵な恋の時間だったことを証明してくれました。

短い時間での出来事が永遠を左右するほどの、人生を変えられてしまうほどの愛が芽生えるきっかけとなってしまった。それがたとえ一番良い幸せの形かはわからないけれど、人生を終える瞬間に思い出すことがこの四日間だとしたら、こんなにロマンチックなことはないですね。


日本初演のミュージカル『マディソン郡の橋』。
東京公演がまだ終わらないうちに、3月28日からはじまる大阪公演を前にして再演を期待したくなる好作品でした。

主演のお二人もとても素敵で

ロバートがとても朗らかで、一音一音の言葉を丁寧にゆっくり伝える姿が半端なくかわいいくて、フランチェスカとおちゃらける場面もふわふわした雰囲気が愛しかったです。これは山口祐一郎さんの仕業・・・?

歌声はやっぱり帝王ーーー!全然帝王感は必要ないけれど。声にフェロモンででるんじゃ?いや、きっとでてる。台詞の時点でフェロモンでちゃってる。ロバートは感情の起伏が少ない人だけど、歌として感情を歌っていると愛しさも切なさも充分に伝わってきて、ミュージカルの良さがよく表れていました。

フランチェスカ役の涼風真世さんは今までは『エリザベート』のゾフィー役(オーストラリア皇太后・エリザベートの義母)の笑わない厳しい母の印象が強かったので、冒頭から陽だまりのような笑顔や表情豊かな天真爛漫さに驚いてしまいました。そして夫であるバドに抱き付かれたときに「きゃ~」とか「わぁ~!」とかって反応しているフランチェスカも抜群に可愛く、子どもたちからも愛される姿は家族に必要不可欠な母親として表れていました。

それでいて、ロバートを見つめる眼差しや、仕草、声、どれもが女性・女性・女性で何十年も母親をやってきても、恋する相手を目の前にしたら一人の女性として立っていて、見せる表情の違いを見事に演じていて素晴らしかったです。

大阪公演、今からでもチケット購入できると思うのでお時間があれば是非。実はギリギリまで見るかどうか迷っていた作品ではあったのだけど、結果こんなに思いを巡らされることになったので、迷ったら見るべし、です。


脚本:マーシャ・ノーマン
音楽/詞:ジェイソン・ロバート・ブラウン
原作:ロバート・ジェームス・ウォラー
演出:荻田浩一
出演:山口祐一郎(ロバート)、涼風真世(フランチェスカ)、彩乃かなみ(マリアン)、石川新太(マイケル)、島田 彩(キャロライン)、加賀谷一肇‏(others)、戸井勝海(チャーリー)、伊東弘美(マージ)、石川禅(バド)
製作:東宝
上映時間:180分(休憩時間20分を含む)
公式サイト:ミュージカル『マディソン郡の橋』


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