水木しげるが呼んでいる
ここ最近は、水木しげるにまみれて生きています。
とある用事で横浜に行ってきました。駅を降り立った瞬間に、こんなポスターが!
水木しげる展だと!! しかも、目的地の隣のビル! 時間もあることだし、これは絶対行かねば!
待てよ? 百鬼夜行展って、前に見に行ったやつでは?
と思って調べてみたらやっぱり、2年前に六本木で開催されていた展覧会でした。なぁんだ、前に見たやつか。
でも、2年たって忘れてる部分もあるだろうし、もう一度行ってみるか。
展覧会の内容は、水木しげるがどのように妖怪画を描いていたか、その創作の秘密に迫るというもの。
基本的には2年前の六本木と同じ内容なんだけど、「水木しげる原画展」だと思って見てれば、2回目でもぜんぜん楽しめる!
ミュージアムショップではお土産に、前から読みたかったマンガ「のんのんばあとオレ」を買って帰りました。少年時代の水木しげるの妖怪についていろいろと教えた拝み屋のおばあさん「のんのんばあ」。水木しげるの、のんのんばあにまつわる少年時代の思い出を記した漫画です。
さらに、久しぶりにとある録画DVDを引っ張り出しました。数年前にNHKで放送された「100分de名著」の水木しげる特集。佐野史郎をはじめとする水木しげるの愛好家たちが、100分間その魅力を語りつくすというもの。
漫画を読んで、ビデオを見て、水木しげるの世界にどっぷりと浸っていました。
こんなに深い魅力を持つ人物はそうそういないです。
なんでなんだろうなぁ、と考えていました。
それってやっぱり、水木しげるのむこうには、「目に見えない世界」や「妖怪文化」があって、水木しげるを通してぼくらは異界や妖怪に触れることができるからではないかしら。
本人も「目に見えない世界を、マンガで表したいんだ」とマンガに描いています。異界や妖怪を、我々一般人にもわかりやすい形で見せてくれる、橋渡しとしての存在が水木しげるなのです。
でも、それってちょっと意地悪な言い方をすれば、異界とか妖怪とかが魅力的なのであって、水木しげる自身の固有の魅力ではない、という風にも言えます。
でも、それでいいんじゃないか、と思うのです。
なんだろう、水木しげるの作品って「我の強さ」を感じないんですよ。
「俺の才能を味わえ!」「俺の作ったマンガを読め!」「俺はスゴイだろ! 誉めよ讃えよ!」みたいな我の強さ。なんだか最近、こういう「我の強い作品」が増えてきたなぁ、とも思います。
そういう我の強さを水木作品からは感じない。それはやっぱり、水木しげるの漫画は「俺の才能を味わえ!」「俺はこんなに詳しいぞ!」というよりも、妖怪や異界の魅力を伝えることに重きを置いているからだと思います。
もしかしたら水木しげるは、自分の頭の中でひねり出すものよりも、自分の外側に広がる妖怪や幽霊の世界の方がよっぽど面白い、という風に考えていたのかもしれません。
水木しげるは「300年は生きてみないと妖怪のことはわからん」という言葉を残しています。それほどまでに妖怪の世界は広く深い。妖怪の魅力の前には自分の「我」など取るに足らない、そんな風に思っていたのではないか。
展覧会では水木しげるの創作の手法として、昔の妖怪画を使ったり、仮面だの人形だののコレクションの中から妖怪のイメージに合うデザインを探したり、というものが紹介されていました。それは水木しげるが自身のオリジナリティにはそれほどこだわっていなかった、ということなのかもしれません。
そもそも、「ゲゲゲの鬼太郎」自体が、戦前の紙芝居「ハカバキタロー」を彼なりにアレンジしたもの。
やはり彼は、自分のオリジナリティにこだわりがなく、おもしろいものは世の中にいっぱい転がっているじゃないか、という風に考えていたように思えるのです。
水木しげるの奥深さは、自分の「我」を押し出すのではなく、自分の外にある「オモチロイもの」を見つけ出して、それを巧みに自分の作品に落とし込んで、その魅力を読者に伝えていくいわば「水先案内人」だったことにあるのではないでしょうか。でも、妖怪の魅力に対して徹底的に向き合ったことが、彼自身の魅力を深めていった。
オモチロイネ!
さて、横浜で水木しげる展を見た日の夜、奇妙な夢を見ました。
夢の中でピンチに陥った僕を、「漫画家の老人」が助けてくれる、という夢。
目が覚めて覚えているのはその老人が「93歳だった」ということだけ。
もしや、と思って計算してみると、水木しげるは1922年3月の生まれで、亡くなったのが2015年の11月。
享年93歳。
ホントに、目が覚めて「93歳? あれ?」と思って計算してみるまで、水木しげるの享年が93歳だなんて具体的な数字は知らなかった。
……水木しげるが呼んでるのかな?
最近、「妖怪感度」が上がってきたような気がしてるしなぁ。
オモチロイネ!
近いうちに、調布に足を延ばしてみようかと思っています。
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