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足踏みしてると提供価値が日ごとに目減る


 こんにちは。マーケティングの視点で読解力を高めるためのノートです。
本連載では、「デジタル思考とデータドリブン・マーケティング」というテーマで、アナログとデジタルの判断の違いや、データの特性や活用上の課題、DXを推進するために必要な考え方やステップなど、ますます求められるファクトベースの変革について考えてみたいと思います。

 今回は、「DXが求められる背景事情」について、相対的な価値の減衰、という視点で説明します。


 加工食品、菓子類、飲料・酒類の1年間に発売される新商品数は5,000品前後だと言われていますが、毎年発売される新商品が売れ筋として定着するまでの道のりは険しく、多くの商品が一定期間の後、店頭の販売棚から外されてしまいます。

 商品が発売されてから終売に至るまでのサイクルを捉えた場合、当該商品の価値はどのタイミングが最大だと言えるでしょうか?私は、生活者に対し、商品とともに届ける価値の総量は、商品を発売した日を頂点とし、出した端から相対的に劣化を始め、その価値は日が経過するごとに目減っていくものだと考えています。

 足踏みをしていると、提供価値が日々減衰していく構造について、以下の3つの観点で解説いたします。

1.新商品の開発プロセスと発売までのリードタイム

 食品加工メーカーを例に取ると、マーケティング部が新商品を企画し、材料を検討した上で、商品コンセプトを整理します。その後、何度も試作を繰り返し、市場調査などの評価を経て、容器やパッケージをデザインし、商品発売を意思決定する会議体での承認を得て、製造ラインを準備し、商品を発表し、営業が卸業者や小売との商談を行い、実際に店頭に並ぶまで、少なくとも1年以上の準備期間が必要です。

 新商品の発売日が今日だとすると、自社商品の販売動向やベンチマークする競合の販売数推移等、カテゴリ内での比較、お客さまの声や市場のトレンドを予測して定めるホワイトスペース(競合商品が存在しない独自のポジション)など、新商品開発を意思決定した際の根拠や前提は1年~2年前に起きていた事象に基づくものであり、そのタイミングの最適解だった可能性があります。
 

2.生活者の期待の変化


 前回の記事で申し上げたとおり、2020年春以前と、コロナ禍が本格化した2020年春以降を比較すると、生活者のお買い物時の価値観や心象が大きく変化しています。特に食の領域は、比較的短期間で生活者が求めるものが移り変わる傾向がある他、特にコロナ禍以降は、「免疫対策」などの健康に関する志向や「在宅太り対策」など機能的な便益を重視する傾向が強まる等、1年、2年前の食に対する期待値と、今日の期待値との間には相当な距離があると想定されます。

 従って、お客さまの期待に対応するべく用意した新商品ですが、新商品開発にかかわるリードタイムを考慮すると、その新商品が発売されたタイミングですら、そのコンセプトや提供価値を求めている(期待と合致している)お客さまの絶対数が、新商品の開発を検討していた当時と比べて減少していると考えられます。

3.競合商品の販売

 自社が新商品をリリースした後、その商品がお客さまの期待に応え、売れ行きが好調になると、競合メーカーから同一カテゴリにライバルの商品が投下されることがあります。

 競合メーカーとしても、独自のマーケットリサーチに基づいて、当該商品の特徴や機能、価格など、色々な角度でセグメントを切り分け、ホワイトスペースを定義し、そのタイミングでの正解にもっとも近い情報に基づいて開発した新商品を用意し、同一カテゴリ内のシェアを奪いにきます。

 当然のことながら、競合商品は、自社が新商品の開発を決めた後に起きた市場の変化や生活者の新たな期待を取り込み、商品の特性に反映しています。そのため、いまのお客さまの期待に対して、より適合している商品だと考えられます。

 このように、自社商品の提供価値は発売後に固定的である中、周囲の環境が変わっていくため、自社の商品価値は、出した端から劣化し、相対的に落ちていくものだと考えられます。この構図は新商品に限らず、定番商品であっても例外ではなく、お客さまの期待に応え、棚を維持し続けることの難しさを感じます。

 次回は、このように変化のスピードが速く、また変化量が多い時代の処方箋を考えてみたいと思います。

 ここまで、ご一読いただきありがとうございます。マーケティング視点で読解力を高めるノートでまとめた電子書籍のコンテンツも、ご覧いただけたら、幸いです。

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