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小さくても1周回った事例作りから(DX推進のポイント)

 こんにちは。マーケティングの視点で読解力を高めるためのノートです。

 本連載では、「デジタル思考とデータドリブン・マーケティング」というテーマに焦点を当て、アナログとデジタルの判断の違いやデータの特性や活用上の課題、DXを推進するために必要な考え方やステップなど、ますます求められるファクトベースの変革について考えてみたいと思います。

 ここまでの連載では、DX(デジタルトランスフォーメーション)が求められる外部環境の変化や、その変化が大きく、スピードが速いため、足踏みしていると、日ごとに提供価値が減少していく構図について説明してきました。また、DX推進を志向する企業が、取組みを開始する手前側で理解しておく必要がある課題や充足させるべき環境要件について、解説いたしました。

 デジタル思考を持った社員による事実に基づく判断や、変革のためのアクションが日常的に行われる組織文化の定着と浸透を図るため、事前に認識しておくべき課題が以下の4つあります。

  • データの種類課題:単一かつ単独のデータでは、生活者の実態を把握することが難しい。

  • データ整備課題:データを活用できるようにするための前準備には手間がかかり、途中でめげる。

  • データ活用課題:データがあるだけでは、解決策が明確になるわけではなく、自動的に問題が解決するわけでもない。

  • 組織課題:組織全体を俯瞰し、部門を超えて変革を主導する適任者(旗振り役)が不足している。

 ここからは、これまでに確認してきたDX推進の課題を踏まえ、確かな成果を導くためのポイントや考え方を紹介していきます。


1.最初の1歩目を踏み出す際の考え方

 メーカーのマーケティング活動におけるDX推進は、最終的には全社的な取り組みが求められますが、データに基づいたアクションを採る責任者を配置し、データ収集や物差しとなるマスタの整備等のアクティベーションを行い、用途目的に合わせた分析メニューや可視化ツールの導入等にかかる必要な予算を確保するなど、実行時の諸条件がきれいに整うまで立ち止まっていると、競争環境や顧客の期待値が変わってしまい、遅れを取り戻すことが難しくなってしまいます。

 社員全員が考え続け、生活者の心象や価値観の変化に対応し、期待に応えるスタイルを採り入れ、組織横断で浸透させるためには、諸条件の成立を待つことなく、事実に基づくアクションやプロセスが連なる1周を回した事例を作ることのほうが先決です。

 事前に周到な計画を立て、環境を整備してから取り組むのではなく、変化に迅速に対応できるよう、最初は小さな取り組みから始めることがおすすめです。この1周目のアクションは、デジタルツールの導入である必要はなく、アナログな施策や手段で構いません。重要なのは、メンバーがデータを起点にファクトベースの実行プロセスを設計することです。

 データを基にして業務プロセスを1周させる事例として、以下のステップが考えられます:

  • ゴールや到達地点を定量的・定性的に明確に定める。

  • 目標と現況の差異について仮説を立てる。

  • データで目標と乖離している理由を確認し、改善時の効果を試算する。

  • アクションを実行する。

  • 結果を測定し、施策の効果や改善の影響を評価する。

  • データに基づく取り組みの結果や気づきを社内の関係部門に発信する。

 このステップを踏むことで、データ起点でのアクションを通じ、組織全体にポジティブな変化をもたらすことが期待できます。

2.小さくても1周回った状態ができると理解者が増える

 DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みでは、小さな規模で、それが手弁当の取組みであっても、データに基づいた業務プロセスを確実に1周回し、その結果を公式・非公式を問わず共有・発信することが重要です。

 自チーム内での取り組みでも理解されるのは難しいことがありますが、他部門・他部署だとさらに理解を得るのは困難です。DX推進の必要性や重要性を共感してもらうために、まず、手触り感がなく、漠然としているイメージを払拭させる必要があります。

 ここで、実施した取り組みやプロセスがアナログな場合、結果の説明が曖昧模糊としてしまうため、周囲の納得感が低くなります。たとえば、結果が芳しくない時の説明として、「前月は天候不順が続いたことの影響を受けた」、「競合商品に流れてしまった可能性がある」という所感ベースの説明を受けると、それが真因なのかわかりませんし、当事者にとっても、次の施策に活かせる学びや気づきが少ないことがわかります。

 一方、データ起点で1周のサイクルを回し、成果や目標との差異を定量的に説明できれば、次のアクションがイメージしやすくなります。また、関係する部門から見た場合、1周回った取り組みの成果がデジタルに表現されるとで、自部門への影響を想像しやすくなります。このような共有や報告を通じ、手を差し伸べる賛同者や背中を押す協力者が生まれ、共感の輪が広がり始めます。

 成功に向けたアクションの第1歩は、小さくても1周回った、他に語れる、目で見てとれる事例を作ることです。そして、DXの取組みの目的やプロセス設計時の考え方とともに、施策の成果効果を、関係部門に対し、デジタルに発信・説明することが次の1歩になります。

 これにより、自部署と関係部署の間で施策やアクションの良否を判断する基準が統一され、共通の言語のもとで意見交換ができるようになります。

 マーケティング領域のDX推進は、複数の部門・部署が関与するため、自部署だけで進めても限定的な成果にとどまることがあります。
 しかし、1周回った具体的な事例の共有や意見交換を通じ、事例の成果と課題を示すデータが、自部署と他部門の間を接続する「のりしろ」となり、少しずつですが、デジタル思考の考え方やスタイルが組織全体に広がっていくきっかけとなる効果が期待できます。

3.まとめ

アイデアや構想ではなく1周回った事例や試行錯誤が、社内の理解を進め賛同者や理解者を増やす

 次回は、DX推進のポイントとして、データ活用に向けた内外作区分と優先順位の考え方ついて、ご紹介したいと思います。

 ここまで、ご一読いただきありがとうございます。マーケティング視点で読解力を高めるノートでまとめた電子書籍のコンテンツも、ご覧いただけたら、幸いです。

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