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思ったよりもメディア力がない(QRコード決済アプリのメディア力に関する考察)

こんにちは。マーケティング視点で読解力を高めるノートです。

 キャッシュレス化を促進し、決済事業において収益を確保するための目標達成に向けて、サーバー型のBCD(バーコード)読み取り認証を使用するQRコード決済が採用された理由の一つは、オンライン上でのコミュニケーションやデジタルプロモーションが容易であるためだと考えられます。

 従来の主要な支払いや認証方法(例:クレジットカード、プラスチックカード、非接触型ICカード)は物理的な媒体であり、「語らない(無言)」のものでした。
 これに対して、QRコード決済はアプリを起動してBCDを表示させる必要があり、ご利用時に必ずアプリ画面が目に入るため、B2C(事業者と顧客間)のコミュニケーションやB2B2C(事業者・ビジネスパートナー・顧客間)の広告販促プロモーションに適した「語るメディア」として利用できるという期待がありました。

 今回は、QRコード決済アプリのメディア力について考えてみたいと思います。


1.メディア力を計る指標  

 2023年03月20日の日経クロストレンドでは、ニールセンデジタルの「ニールセン モバイル ネットビュー」のデータを分析した結果を紹介しており、QRコード決済アプリのメディア力を考察する上で非常に興味深いデータでしたので、取り上げてみたいと思います。

 広告や販促プロモーションの効果は、通常、そのメディアが持つ媒体力に左右されます。媒体力を分解すると、「アプローチ可能な数」×「接触時間」に分解することができると思います。

 また、「アプローチ可能な数」は「登録者数」×「アクティブ率」に分けることができ、「接触時間」は、「立ち上げ回数」×「1回あたりの利用時間」に分解することができそうです。

2.PayPayのメディア力

PayPayの月間利用回数は他のサービスと比べ少なく、サービスに触れている時間も短い

(1)登録者数

 ここからは、ニールセンのデータを参照し、PayPayアプリのメディア力を見ていこうと思います。

 まず、登録者数についてみてみると、PayPayは利用者が3,000万人に到達するまでの速度が非常に速かったことがわかります。短期間の間に、国内の他プラットフォームと比べてそん色のない登録者数に成長しています。

(2)アクティブ率

 2022年度末のPayPayの登録者数5,664万人のうち、月1回以上の利用者数は3,033万人のため、アクティブ率は53.5%。大よそ登録者の半分がメディア接触可能者になります

(3)立ち上げ回数

 ニールセンのデータによれば、PayPayの1人当たり月間平均セッション数は14.25回となっています。利用頻度としては、2日1回、決済のためにPayPayアプリを立ち上げている、という形です。

(4)1回あたりの利用時間

 1人あたりの平均利用時間は約30分になっています。この結果から、PayPayの1人・1回あたりのアプリ接触時間は2分ということになり、Youtubeの1人・1回あたりの利用時間、11分以上と比べると、短いことことがわかります。

 この結果をみてみると、PayPayは、他のプラットフォームサービスと比較した場合、アプローチ可能な分母のポテンシャルにはそん色がないものの、アプリを立ち上げる機会が少なく、さらにアプリを立ち上げている時間が短いため、メディア接触時間の観点からみた場合、現時点では、力弱い媒体、と言えそうです。

3.コード決済アプリのメディア力の現在地

(1)事業者側の視点

 QRコード決済を運営する事業者側の視点から見れば、従前の「語らない」認証手段から、スマホ上のアプリを立ち上げさせる理由を作った上で、事業者からの情報を届け、広告やデジタル販促事業で収益をあげるための「出面(メディア)」として、是が非でも成立させたい。

(2)お客さま側の視点

 QRコード決済の利用目的は「支払い」のためであり、アプリを立ち上げる理由は、決済認証用のBCDを表示させるためです。そのため、支払い自体をスピーディーに終えることができるCXであるほうが利便性が高く、支払いが完了した後は、すみやかに画面から目を離す傾向があります。

 このように、QRコード決済は事業者側の都合が優先されている傾向があり、一方でお客さまの利用動機を考えると、事業者から提供される情報との接触頻度や接触時間を増やし、情報を効果的にメディア化させることが難しい、というサービス特性が浮き彫りになっていると言えそうです。

お客さま側の利用理由を考えると、情報接触頻度や時間を増やし、メディア化させること自体が難しい

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