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部門を超え俯瞰できる立場で変革を主導する主体者の不在(組織課題)

 こんにちは。マーケティングの視点で読解力を高めるためのノートです。

 本連載では、「デジタル思考とデータドリブン・マーケティング」というテーマに焦点を当て、アナログとデジタルの判断の違いやデータの特性や活用上の課題、DXを推進するために必要な考え方やステップなど、ますます求められるファクトベースの変革について考えてみたいと思います。

 日本におけるDXは、2018年に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」をまとめたことがきっかけで広まり始めたと言われています。

 2018年以降、新聞やメディア上で「DX」という言葉が頻繁に使われるようになり、各社が実施するWEBセミナーやカンファレンスの主要なテーマにもなりました。しかし、バズワードとして取り上げられたことで、DXとIT化が混同される場合もあります。

 この過程で、多くの法人では経営者や経営層からのトップダウンの指示により「DX化」の取り組みが始まりました。「とりあえず、わが社でも何らかのDXを検討してみよう」、「何かDXに取り組めるものは無いか」、「まずはやってほしい、具体的な方法は任せる」といった形で、さまざまなDX化プロジェクトが展開されましたが、成果に結びつく取り組みは少ないようで、多くの企業がDXが成功したと言い切れるまでの変革を起こせていないのが、現在地だと思います。

 今回は、DXの取り組みを始めたものの、なぜビジネスモデルの変革や競争上の優位性を確立できないのか、その理由を組織課題の視点から考察してみたいと思います。


1.予算化のハードル

 データ起点で事実に基づく意思決定や判断を行うためには、複数のデータを収集する必要があります。そして、データを使いこなせるようにアクティベーション(価値化)することが必要です。さらに、用途目的に合わせてデータを集計し、分析・可視化する環境を整え、デジタル思考で事例を作るための実証など、DX推進のための一連の取組みには、かなりの費用がかかることがわかります。

 また、社員がデジタル思考でファクトを読み解くリテラシーを身につけるため、DX人材の登用や育成の過程で、データの意味解釈や読み解きができるスキルを持つ外部の専門家への伴走依頼が必要になるケースがあります。

 これらの費用は、DX推進に関する予算がまだ確保されていない初期の段階では、1つの部署が負担するには非常に高額であり、予算化自体が難しいことが分かります。

2.一つの部門で完結するものではない

 メーカーのマーケティング活動において、マーケティングは全社の戦略方針や共通の事業目標を達成するために、複数の部門や組織を横断した取り組みであるため、DX推進も自然に他の部門との連携や協力が必要になります。そのため、起案する組織の一部門や一部署だけでDXを進めようとしても、上手くいく可能性は低いと考えられます。

 具体的には、マーケティング活動におけるデータ活用を推進するための環境を全社的に整え、データを使いこなすための物差しを標準化/共通化することが必要です。また、意思決定や判断の際に、常にデータを起点に考えることを当たり前とする文化やスタイルとして、部門や部署を超えて全社に浸透させる必要があります。

3.データ活用の必要性を説くポジション

 マーケティング領域のDX推進において、どの組織レイヤーに旗振り役を設置するかは重要な検討課題です。

 たとえば、マーケティング部内にDX推進チームを設けた場合、組織横断の取り組みを進める力が低下する可能性があります。各部署や部門はそれぞれ独自の目標を持ち、目標達成のために最適化された戦略を追求します。DX推進チームという並列に置かれた横の部署からの要請よりも、縦系の自部署、自部門の目標を優先する傾向があり、協力や理解を取り付けづらくなる等、組織間の分断を引き起こすことがあります。

 マーケティング自体、会社の戦略と事業目標に基づいて全社的な協力が必要な活動であるため、DX推進の責任者は、部門を超えた全社的な権限を持つポジションに置く必要があります。全役員や部門長への指示や目標管理を行う権限を持ち、データ活用やデジタル思考の重要性を全社に浸透させる役割を担う、DX推進の旗振り役です。

 たとえば、各組織の取締役や執行役員の上位に、データを起点としたマーケティング活動を推進する役割を持つCMO(マーケティング最高責任者:Chief Marketing Officer)を設け、必要な権限を委譲する方法が考えられます。全社の事業目標達成に向けて部署や部門を動かすことができるポジションが明確化されることで、取り組み推進時の組織や部署間のコンフリクト発生を抑止する効果が期待できます。

4.データ活用のリテラシー

 DXは、デジタル思考で事実に基づいて変革を行う、顧客価値の提供に向けたアクションやプロセスを指し、その目標は、ビジネス構造を変革し競争上の優位性を確立することです。また、DX推進は全社的に部署や部門を超えて共通の目標を達成するための組織横断的な取り組みです。

 たとえば、マーケティング領域においてDXを推進する役割の責任者は、戦略の策定・実行に関わる知識と経験に加えて、この先では、データ活用やデジタル、IT領域の基本的な知識を持ち、この領域のトレンドを一定のレベルで理解する、いわゆる土地勘が求められます。

 データアナリティクスやデータエンジニアリングの実務的な専門知識が必要なわけではありません。重要なのは、どのようなITやデジタル技術、サービスが存在するかを理解し、自社の課題に適切な手段を読み解き、実行を指示する役割を果たすことです。このような主体者がいない限り、マーケティング領域におけるDXの推進は、到底覚束ないと言えます。

5.組織課題解決の方向性

 DXに着手する理由が存在し、経営者や経営層もその必要性を十分認識しており、競合企業や他の業種業態における事例も見聞きしているにも関わらず、多くの企業でDXが上手く進んでいないのは、私が助言を求められたメーカーのマーケティング部の方のお話を総合すると、部門を超え俯瞰できる立場で、確かな視点を持って変革を主導する主体者の不在、という理由に求められます。

 マーケティング領域でのDX推進は、業務プロセスやビジネスモデルをデジタル思考で変革し、組織や部門を横断する取り組みが必要です。そのためには、外部のパートナーの知見を利用したり、実証や事例作りのために予算化したり、データ活用のための環境を整えるための先行投資も必要です。

 また、データ起点の取り組みの重要性を全社的な視点で理解し、全組織や部門を巻き込んで全社的な取り組みとして推進するためには、データやデジタルを使いこなす力を備えた責任者が配置され、共通の目標のもとで、全組織部門を巻き込みながら全社的な取組みとして、推進する必要があります。

 このような新たなチャレンジを、組織全体を俯瞰するポジションにおいて、組織横断で推進する責任者役の適任者が少ない(少なくとも、プロパー社員の中からは見つけることが難しい)ことが、DX推進の難しさの一因です。掛け声だけで、適切な取り組みに繋がらず、成果が上がらないのは、このような主体者の不在が原因だと考えられます。

 組織全体の共通の目標に向けて、変革に対する「志」と「強い意志」、「データを使いこなす力」を持つ推進責任者を配置し、組織をリードすることが重要であり、これができない限り、部門間の協力や組織横断的な取り組みがスムーズに進むことはなく、DXの成功確率は低下すると考えられます。

 次回は、ここまで確認してきたDX推進上の課題を踏まえ、小さくても1周回った確実な成果を導くためのポイントをご紹介いたします。

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