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従来型メディアの受難とSNSへのシフト

こんにちは。

マーケティング視点で読解力を高めるノートでは、小さくてもファンを増やす仕組みと仕掛けがわかると題し、デジタルネイティブ時代の情報発信を主たるテーマとし、中小企業や個人事業主がオンラインチャネルを活用する際の前提となる、情報接触態様の変化を読み解き、IDやSNS、そして口コミを科学して理解するノートをお届けしてまいります。

第1章 デジタルネイティブ時代の情報接触
第2章 知らぬままに置いてけぼりになるリスク
第3章 生活者理解のために必要ないくつかのこと
第4章 口コミが生まれる、広がる、その理由を科学
(5)従来型メディアの受難とSNSへのシフト
第5章 ファンを作るために必要なことはひとつだけ
第6章 オリジナリティとどこにもないストーリー
第7章 ファンを増やす、共感を得る仕組みと仕掛け



1.従来型メディアの利用者減少

今節では、インターネット時代に主流だった掲示板や、コミュニティサイトに書き込まれるレビューや口コミについて、情報量や正確性といった観点から読解し、あわせて、情報を手繰り寄せるデジタルネイティブ世代からの評価を確認していきたいと思います。

まず、従来型メディアと称すると、失礼に当たるかもしれませんが、ご容赦頂き、インターネット時代の口コミサイトや掲示板といった、特定の場所に口コミや商業ベースの検索情報が集積されるサービスの決算から、サービスの利用状況を読み解いてまいります。

ここでは、検索型のWEBサービスとして「ぐるなび」を取り上げ、コミュニティ型の口コミ集積サービスとして「@コスメ」の動向をご紹介致します。

まず、ぐるなびについて確認いたします。株式会社ぐるなびの2018年度3月期決算発表は非常に厳しいものになりました。

前期決算


17年度対比の営業利益が20億円マイナスになった他、19年度の通期連結業績予想では、売上高が18年度比マイナス32億円の330億円、営業利益はマイナス34億円の13億円に減少する、大幅な減収減益の見通しが立てられており、大変厳しい事業環境にあることが明らかになりました。

この決算発表の際、ぐるなびが大幅な減益の要因をどのように認識しているのか報告があります。以下の図表をご覧頂くと、飲食店の経営環境変化の影響を受ける中、内部の課題が顕在化した、という説明があります。

要因

この発表の中で、私が着目した部分は、内部要因として紹介がある以下の表現です

消費者行動の変化・飲食店の販促手段の多様化への対応強化が必要
「SNSや記事メディア等、大小様々な情報検索・販促手法の出現」

従来は、検索エンジンやぐるなび内の検索窓にキーワードを入力するとともに、場所や駅名、食べたいメニュー、価格、コース料理の内容、個室や喫煙、駅からの距離などの検索条件にチェックを入れ、レストランや飲み屋を探し、地図やクーポンを印刷して飲食店に持参するという使い方が一般的でしたし、私も数多くの飲み会の幹事を務めてまいりましたので、ぐるなびには大変お世話になり、予約時ぐるなび一択の時期が長く続きました。

しかし、デジタルネイティブ世代の主たる情報検索手段であるInstagramやTwitterの場合、場所、価格、メニュー、雰囲気などの条件は、「#」ハッシュタグで指定し、飲食店情報が一か所に集約されている、ぐるなびにアクセスすることなく、ストレートに必要とする店舗情報を手繰り寄せます。

決算発表を拝見すると、ぐるなびに、取って代わる新たな代替手段が広まったこと、そして、情報入手の方法やメディアも、時代と共に多様化していっているため、生活者の情報接触態様(スタイル)の変化をキャッチアップすることができず、その変化の大きさに対し、戸惑っている雰囲気が伝わってまいりました。

もちろん、ぐるなびの事業環境が悪化した理由は、利用者の情報入手手段がSNSにシフトしたため、という単純なものではなく、事業を取り巻く複数の環境変化や要因が絡み合ったものだと思いますが、生活者の情報接触態様の変化を掴み切れず、結果として置いてけぼりになってしまったことが、減益要因の一つとして挙げられるのではないかと思っています。


2.@コスメの利用者が減少する背景事情


続いて@コスメを運営する株式会社アイスタイルの2020年6月期第1四半期決算説明資料から、@コスメの月間ユニークユーザーの推移を確認したいと思います。

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@コスメの月間UU(ユニークユーザー)は2018年1月に1600万を超えていたようですが、足元では1290万まで減少し、2年近く下落傾向にあり、300万人以上減少していることが読み取れます。

@コスメユーザーの流出理由はどこにあるのでしょうか?私は、コスメ業界特有のプレゼントやモニターキャンペーンの仕組みにその理由の一端があるのではないかと考えています。

例えば、@コスメには「プロデュースメンバー」という制度があり、話題の新商品が当たる(プレゼント)、試せる(モニター)というメンバー限定の施策が存在します。

プロデュースメンバーになることで、新製品のモニターやプレゼントへの応募ができるようになり、当選人数は数人のものも存在しますが、対象者が多い場合は、3桁人数に現品(商品)を差し上げている施策が数多く存在します。

コスメ商品を取り扱うメーカーの立場で申し上げると、この施策は、口コミを用いたマーケティング施策でしょうから、新作のコスメを無料でプレゼントしますが、その代わりに、@コスメ上にレビューを書いてくださいね、というお願いが付帯してついてきます。

現品をプレゼントされた人は、必須ではないにせよ、@コスメ上で、当該商品のレビューを書きこむわけですが、前節でご説明した通り、無料で手に入れた商品、しかも、そのレビュー内容を見て、モニターを決めているのかもしれない(実際はそのような選び方をしていないと明言されています)、という思いも頭の中をよぎるでしょうから、商品の特徴や使用感について、真の評価を書き入れられるか、私は疑問に思いますし、一定量のバイアスがかかっているものと想定できます。

従って、@コスメのレビューを拝見すると、「@コスメからのプレゼントで~」という書き出しから始まるレビューが相当数に上ります。もちろん、レビューを参照する利用者に誤解を与えないよう、使用した商品の出自が表現されており、レビュワーが現品を購入した品なのか、モニター・プレゼントされた商品のレビューなのか、切り分けられるようにはなっています。

一つの商品に対し「これはプレゼントです」、「モニターです」というレビューの比率が高まった結果、@コスメの口コミは、「サクラやモニターが書いている」、「ヨイショの口コミが多い」という印象を与えるようになり、利用する方は、モニター・プレゼント商品を使った人の口コミなのか、現品購入者のレビューなのか、について、自ら見分け、取捨選択をする必要が生じています。

このように、レビューの正確性や、真偽のほど、真贋を確認しない限り、求めている口コミ情報にストレートに辿り着けない、という状況は利用者にストレスを与えますし、これは正しい情報か、そうではないか、判断するために頭の中を働かせる必要があるため、考えるコストが高くつく、口コミサービスになっているのではないかと思慮しています。

3.従来型メディアからSNSへのシフト

本節のまとめとし、インターネット時代に重宝された口コミサイトや掲示板といった、特定の場所に口コミや商業ベースの検索情報が集積される、従来型のメディアの利用者が減少している理由を整理したいと思います。

従来型コミュニティのUUが減少しつつある構造を簡単に整理しましたので、以下の図表をご覧ください。

構造

まず、前項でご紹介した通り、メーカーサイドで認知度向上やトライアルとリピートユーザー獲得を企図したモニターやプレゼント施策を用いたマーケティング活動が存在しています。

@コスメの例で申し上げると、メーカーから現品を預かり、使用感をレビュー欄に書き込むユーザーの情報には、一定のバイアスがかかり、肯定的な意見が集積しやすい、という特徴があります。

その結果、購買の意思決定に繋がる参考情報を収集したいとサイトを訪れたユーザーは、レビューや口コミをみた時に、「これはステマ?」、「モニターの書き込み?」、「書かれている内容は実態を表している?」と、あれこれ考えないといけません。

この確認を繰り返しているうちに、真偽を確認するために考える時間や、正しいと思える口コミやレビューをフィルターにかけ、抽出するという労力に対して、ストレスを感じるようになり、いずれ、「このサイトはめんどくさい」という感情を抱くようになります。

そして、「真偽を確認する必要がない」、「ストレートに知りたい情報を手繰り寄せることができる」、という特徴をもった、SNSを利用する頻度が高まり、ぐるなびや、@コスメといった、従来型メディアの存在感は相対的に薄まっていっていく構造を、私は「従来型メディアの憂鬱」と説明しています。

本デジタルネイティブ世帯の情報接触態様が変化したことによって発生した、「口コミを集積する従来型メディアの憂鬱」について、整理いたしましたので、以下の図表をご覧ください。

憂鬱

まず起点になるのは、従来型口コミメディアは、メーカーサイドのマーケティング活動(広告、宣伝、販促)を通じて提供される現品やポイント、謝礼といった経済的な対価や報酬によって、口コミの信用や信ぴょう性が低下している、という実態があります。

この結果、デジタルネイティブ世代にとって、真偽確認コストが高くつくため、よりストレートに必要な情報を入手できる手段の活用を模索するようになりました。

時を同じくして、デジタルネイティブ時代に一般化が進んだ、TwitterやInstagramでは、「#」ハッシュタグを用いて手繰り寄せる情報の発信元は信頼できる友人や知人、憧れている著名人であり、真偽を確認する必要が相対的に少ない他、特にInstgramは動画や画像を用いた投稿で情報量も多く、直感的に理解ができます。

以上の理由から、特に、「グルメ・外食」、「旅行」、「レシピ」等のジャンルにおける情報収集において、従来型メディア(テキストベース)の活用頻度は、徐々に低下していくトレンドに入ったと思われます。

SNSに投稿される口コミ情報は、自由意志で、内発的な動機から発信される率直な意見や感想の集合であり、ストレートにゴール(情報収集)まで到達することに加え、情報探索にかける時間は短くて済み、ビジュアル重視で手触り感を得やすい、という特徴が存在するため、デジタルネイティブ世代が情報収集に使うメディアは、従来型メディアからSNSへ、さらにシフトしていくことでしょう。

第4章(5)従来型メディアの受難とSNSへのシフト、では、従来型メディアの利用者、ユニークユーザーが低減している背景を、メーカーのマーケティング活動が起点となる、レビューの正確性の疑問点から、従来型メディアの憂鬱としてご紹介いたしました。

第5章(1)工夫次第で情報を届けられる時代の到来、として、デジタルネイティブ時代に情報を発信する際に、重視すべき観点である「共感」について理解するとともに、情報を届ける上で、大事なお客様像について読み解いてみたいと思います。

 ここまで、ご一読いただきありがとうございます。マーケティング視点で読解力を高めるノートでまとめた電子書籍のコンテンツも、ご覧いただけたら、幸いです。

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