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5年後のIRの姿をマーケティング業界の発展と見比べながら考えてみる

こんにちは、Figurout 代表の中村です。
上場企業が企業価値を高めるためのIR-DX Saasを展開しているスタートアップを営んでいます。

私は現在Figuroutという会社を立ち上げ、企業価値とIRと向き合っていますが、キャリアとしてそれまではずっとマーケティングをやってきました。
今回は、IRとマーケティングの共通点と相違点に着目しながら、未来のIRがどのようなものになるのかを考えてみたいと思います。

(ちなみに、なぜマーケティングをやっていた身からIRのDXを行う会社を立ち上げたのかの起業理由はこちらからどうぞ↓↓↓)



IRとマーケティングの共通点

マーケティング業界に身を置いていた私が、「資本主義のアップデート」というテーマを契機にIR業界に転身した理由は、「IRが非常にマーケティングと似ている」と感じたからです。

似ているポイント① 投資家に株を買ってもらうという構造そのものがマーケティングである

マーケティングの説明の中でよく使われるのが、「AIDMA(アイドマ)」とか「AISAS(アイサス)」といったモデルです。
それぞれ
AIDMAは「Attention(注意)→ Interest(関心)→ Desire(欲求)→ Memory(記憶)→ Action」
AISASは「Attention(注意)→ Interest(関心)→ Search(検索)→ Action(購買)→ Share(情報共有)」

の頭文字をとったもの。
消費者が製品やサービスを購買するためのプロセスを説明したものですが、投資家も株を買うときは同じように、「企業を認知し、興味を持ち、情報収集を行い、購入検討銘柄リスト(カバレッジ)として記憶をし、タイミングを見て購入」というプロセスを取っており、マーケティングが消費者と向き合うのと同じように、IRも投資家の購買行動を分析して、それぞれの段階を効果的にするための打ち手が有効だと言えます。
また、対個人投資家のマーケティングはB2Cのマーケティング、対機関投資家のマーケティングはB2Bのマーケティングと対応しています。

似ているポイント②データと感性、左脳と右脳の両方が求められる

IRやマーケティングに限った話ではないですが、IRもマーケティングも、成果を出すためにはデータと感性の両方を駆使してアプローチすることが重要です。
感性が必要なのは、「人を動かす」業務だから。人は感情で動く生き物なので、理性で色々考えつつも最後は感情で動きます。一方、ビジネスにおいてその「人の動き」を効率的に再現性をもって影響範囲を拡大する上では、「数字で定量的に分析し、効果的な手段にリソースを投下すること」が重要です。
これらの構造は、IRもマーケティングもほとんど同じだと感じます。

似ているポイント③どちらもターゲット(投資家/消費者)とのコミュニケーションにおいて支援事業者(証券会社やIRコンサル/広告代理店)にノウハウが溜まる構造にあり、企業内の一部門である事業者側担当者との情報格差が生じやすい

3つ目も以外と重要なポイントです。
IR業界をヒアリングした中で感じたのが、「マーケティング業界で”デジタルマーケティング" が浸透しつつあるタイミングの業界構造にすごく似ている」ということでした。
1社目、新卒で入社した会社で、「前任者の退職」という粗い理由(笑)でマーケティング部門に部署移動することとなった私は、最初苦労の連続でした。

  • 専門知識が必要でわからないことだらけだが、良い勉強方法が無い。(マーケティングの教科書とかは勉強にはなるが、現場での実務には役立たない)

  • 社内でその業務をやっている部署はないので、聞き先もない。(自分が社内で一番詳しい。社内の理解を得るためには努力が必要)

  • (当時は今のようなデジマ知識を得られるようなメディアもなかったので、)知識をアップデートするための手段は代理店やコンサルなどからの情報収集が主な手段。

  • 一方、日々新しいサービスが生まれたくさんの営業提案があり、皆自分の商材を売り込むためのポジショントークを混ぜ込んでくるので、何が客観的な正解かがわからない。

「IR」という部門と業務が上場後に初めて発生し、よくわからない中で試行錯誤しながら各社工夫をしながら「IRの型」を作っていっている姿を見て、「黎明期のデジマ担当者」の自分の姿と非常にシンクロするものがありました。


IRとマーケティングの相違点

一方、もちろんIRとマーケティングは異なる点も色々あります。

異なるポイント①IRはKPIが立てにくい

デジタルマーケティングでは、「売上」や「問い合わせ件数」、「訪問者数」「PV」といったデータが比較的取りやすく、KPIの設計が比較的容易なのに対して、IRはKPIが立てにくいことが多いです。理由は、投資家の購買行動が上場市場で行われ、証券会社と信託銀行の間でデータのやり取りが完結しているため、「誰が買ったのか」「何を見て買ったのか」などといったデータが入手できないこと。
投資家との直接接点の機会が限られるため、基本的にIRはKPIが立てにくい構造にあります。

一方、マーケティングにおいてもこれらに類似するシチュエーションはあります。(例えば、製造業の部品部門のマーケティングなどは、部品を決めるのは設計者だが発注は購買部と卸売り企業を通じて発生するので、売上と製品のプロモーションの因果が見えにくいケースなど。)
こういったケースでは、「設計CADのPDF閲覧数」を「購買可能性の高い顧客との接客数」としてKPI管理しマーケティング施策を動かすことで最適化を進めるなどの手法が有効です。

異なるポイント② 「株価」「時価総額」には妥当ラインが存在する

株価は「買いと売りの需給相場」です。買う人だけでは取引は成立せず、売買の板でのマッチングから株価は形成されます。企業側は「株価を高めたい」のですが、「自社が●●円で●●件売る」のではなく、第三者同士の売買の合意価格を高めていく、という構造です。
そのため企業が投資家対応を頑張ったからといって妥当株価よりも際限なく上がることはありませんし、手を抜いたからといって株価がゼロ円になるわけではありません。

IRへの投資と成果


IRの努力との因果関係を見出しにくく、こうした背景から「IR業務」は本質的には企業価値形成に対して重要な意味を持っているにもかかわらず、投資の成果が見えにくく、コスト部門的な捉え方をされているケースが多いと考えられます。

異なるポイント③ IRはエコシステムが特殊

IRの構造で特殊なのが、業界としてキャッシュポイントが「資金調達」になっているケースが多いという点です。特に「上場」という瞬間には数十億というお金が新たに「投資市場」から上場企業とそのプロジェクトに関わる関係者に流れ込みます。
また、上場基準を満たすためのコストは小さくなく、様々な支援事業者によって、上場を維持するための開示やSRといった業務が執り行われています。
IR支援の一部が「こうしたキャッシュポイントのための無償支援」によって賄われていることにより、「是々非々のフィードバック」が回りにくくなっています。

5年後のIRはどうなっている?
キーワードは「DX」と「民主化」

以上のような事情により、IRへの投資と成果改善のサイクルが回りにくい背景がありますが、それぞれ状況は少しずつ変わりつつあるように感じます。
背景には東証市場再編やESG文脈、新型コロナを経た働き方のDXや投資家サイドの変化などが挙げられるのでしょうか。

こうした流れを受けて、IR業務もこの先5年が変革期であることは間違いないのではないかと考えています。また、生成AIをはじめとした技術革新もこの流れを後押しするのは間違いないのではないでしょうか。

マーケティング業界のDXを見てきた視点で、今後IRがどのような形になるのか、近未来(5年後)のIRの形を予測してみました!
キーワードは業界の「DX」と「民主化」です。

<想像する5年後のIRの世界>

  • 投資家に対する情報発信とフォローの関係がデジタル&双方向ベースのものに。

  • 機関投資家とのコミュニケーションが、「数百件の面談」から、オンラインコミュニケーション(動画やテキストなど非同期コミュニケーション)とリアルタイム面談のハイブリッドへ

  • 投資家CRMで「株主名簿ー株主判明調査ー投資家接触履歴(面談や問合せ)」がシームレスに管理できるようになっている

  • 議事録は音声AIで書き起こしされ、上記CRMにタグ付けされて保存

  • AIによりどの投資家がどのタイミングで売買したかの推計データが補足可能

  • 「IR向け」の情報発信メディアができ、IR担当者の横のつながりやコミュニケーションがより活性化

  • 投資家による上場企業のレビューサイトができ、投資家コミュニケーションが上手な企業に投資家(≒資本)が集まり、「投資家を味方につける」ことの重要性がより高まる。

あくまでも想像であり、希望的観測も含まれますが、おそらくそんなに外れてはいないんじゃないでしょうか??

IRが業界の中から変革することで、より大きく、効率的になり、それは日本経済全体の大きな成長につながるのではないか、と考えています!

ぜひ、IRの意義と株式市場がより発展することで、よりよい日本の社会にしていきましょう!


Figurout CEO 中村 研太
https://figurout.co.jp/

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