見出し画像

長い歴史を持つ大学へ提言:貴重資料アーカイブス館建設と戦前の雰囲気を残す建築物の保全と活用

以下の拙文に、私が、2018年3月に信州大学繊維学部を定年退官にあたり、私がやり残した二つの事業:「貴重資料アーカイブス館建設」と「戦前の雰囲気を残す建築物の保全と活用」を、後輩の教員の皆様に、是非とも引き続き運動して実現して頂きたいとの希望を書きました。全国の多くの大学関係者の皆さんにも、きっと、示唆に富むものと信じますので、ここにご披露させて頂きます。
 
 

(はじめに):私が誇りに思う信州大学繊維学部の歴史


 
信州大学繊維学部は、明治43年(1910年)に創立されて以来108年(113年)がたちました。しかしながら、前身の上田蚕糸専門学校は、あまり知られていませんが、現在の東京工業大学、一橋大学などと同じレベルの旧制の帝国単科大学として創立されたものであります。私は、このことを、大正年間に出された旧千曲会報[1]を読んで知りました。この中に、明治43年制定の文部省直轄諸学校官制の表が載っており、上田蚕糸専門学校と同列に、東京高等工業学校(現在の東京工業大学)、東京高等商業学校(現在の一橋大学)、東京高等師範学校(現在の筑波大学)、東京外国語学校(現在の東京外国語大学)、秋田鉱山専門学校(現在の秋田大学国際資源学部)などが載っています。東大や京大は旧制の帝国総合大学(imperial university)ですが、このように、本繊維学部の前身は、旧制の帝国単科大学(imperial college)でした。このことは、もっと、本学部の教職員をはじめ学生諸君に知ってもらい大いに誇りに思ってもらいたいと常々思っております。
 
そのことに関しまして、私の定年にあたりまして、以下の2点を、皆様にぜひご理解の上、運動を継続してもらいと思っています。
 

1.    運動を継続してもらいたい第1点:貴重資料のアーカイブス館建設


 
第1点は、貴重資料を保管するアーカイブス館の建設です。繊維学部には、図書館が管理をしていますが、1世紀を越える中で、大変貴重な書籍や屏風、絵画などがたくさん残っています。例えば日本に4冊しか残っていないといわれる、文久年間に発行された日本最初の英和辞典などがあります。私は、繊維学部図書館長を2期6年勤めている間、これらの貴重な蔵書が、雨漏りのする老朽化した建物中に置かれている現状に大変心を痛めておりました。研究用の建物には予算が付きどんどん建てられていくのですが、貴重資料をきちんと保管するアーカイブス館には、予算が付かず放置されている間に、これらが煙滅していくのではないかと心配しております。千曲会理事の石坂さんと私の連名で、繊維学部アーカイブス館を、機能高分子棟西側の空地に、ぜひ建設してもらいたいと書面や公聴会で濱田学長に述べてきました。私は、これらを実現する前に定年が来てしまいましたので、残られている繊維学部の教員の方々と同窓生の皆様方に、引き続き、建設に向けて運動を行ってもらいたいと思っています。
 

2.    運動を継続してもらいたい第2点:戦前の雰囲気を残す建築物の保全と活用


 
 
第2点は旧千曲会館の有効利用です。旧千曲会館のあたりの美しい風景は、戦前の雰囲気を残す唯一の場所でありますが、旧千曲会館が一時、留学生が帰国する時に捨てていった沢山の家電製品などのごみに埋め尽くされ、荒れ放題の痛ましい状況になっておりました。私は、これを何とか国や上田市の貴重な登録財産に指定してもらい有効に残せないかと随筆[2]にまとめて発表しました。これを読んだ寺本先生が、千曲会報にこれを転載してくれ、卒業生に訴えてくれました。それを読んだ卒業生同窓会が中心となり、昨今、旧千曲会館が上田市の登録文化財に指定され、その市からのお金と同窓会からの寄付により、修復されております。今年7月ごろに、修復が完了するとのことですが、その後の繊維学部での利用形態はまだよく決まっていないそうです。
 
 そこで私のアイデアを述べます。旧千曲会館の2階には、100年を超える繊維学部の歴史的な資料を展示します。貴重資料アーカイブスの中の資料を3グループくらいに分けて、順番に6か月ごとくらいに資料を入れ替えて2階に展示します。1階は、日銭が稼げるよう、入館料を取るシステムにするか、あるいは、スターバックスのような喫茶店にテナントとして入ってもらうようにすることです。突拍子もない発想のように思えるかもしれませんが、昨年学会で訪れた弘前大学では、学内に立派な資料館があり、さらに学内の歴史的建造物に学外の喫茶店が入って営業しており、前例があります。また、弘前城の前には、登録文化財である陸軍師団長の官舎として建設された木造の建物が、現在スターバックスの喫茶店となっています。そこで旧千曲会館の有効利用は、弘前に学べと思います。弘前も上田も戦災で焼けておらず、よく似た状況にあり、参考になります。
 

(おわりに)


 
 以上の二点:「貴重資料アーカイブス館建設」と「戦前の雰囲気を残す建築物の保全と活用」について、皆様にぜひご理解の上、運動を継続して実現してもらいと思っています。定年を迎えた私からのお願いです。
 最後にもう一度、長い間大変お世話に成りました信州大学の教職員皆様及び同窓会の千曲会の皆様心より、御礼申し上げます。本当にありがとうございました。皆様のご健康とご活躍を、そして信州大学繊維学部の今後の益々のご発展を、心から祈念しております。
 
 
参考資料
1.         信州大学機関リポジトリ: https://soar-ir.repo.nii.ac.jp/records/15244
ここに示されているpdfファイルをダウンロードして、頁14,15をご覧ください。そこに、文部省直轄諸學校官制(明治四十三年三月二十六日勅令第六十六號改正)が載っています。
 
2.         https://note.com/ko52517/n/nef6eca63e94c

 
 
 
平成30年(2018年)5月13日 2018年千曲会報_定年のご挨拶
令和5年(2023年)11月13日 加筆
 
 
*なお、冒頭の大学のイラストは、下記のURLからフリー画像を使用させて頂きました。
https://www.ac-illust.com/main/search_result.php?word=%E5%9B%BD%E7%AB%8B%E5%A4%A7%E5%AD%A6


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?