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アイデンティティを取り戻せ

高校3年の春。模試の結果が返ってきた。
全科目で出した偏差値は40で、判定はすべてEだった。


中学までは勉強で困ったことは無かった。
試験の順位は常に学年で10番以内に入っていたし、高校への推薦がもらえる位内申点も高かった。
勉強が得意だと自信があったし、自分の中のアイデンティティの一つだったのだと思う。

しかし、高校からは違った。
あたりまえだが、同じ学力の人間が集まれば順位は下がる。
その上、中学の勉強とは密度が違った。
テスト期間に徹夜をしても、すべてのテスト範囲はカバーできなくなった。

徐々に順位は下がり、少しずつ自信が持てなくなった。
挙句は赤点を回避する事だけを考え、テストに対するモチベーションは徐々に失われていった。


高校3年になり、受験に向けて4月にはじめての模試を受けた。
結果は冒頭の通り。散々だった。

特に苦手科目はひどかった。全国偏差値34、学内偏差値は27だった。
偏差値という概念を理解した今、この数字がどれだけひどいかよくわかる。

同級生には、お前より頭悪い奴はいない、と煽られた。
親は自分の知らない所で、息子は大学に入れないかもしれない、と知り合いに漏らしていた。

この時、私は一つの選択をした。
高校3年の一年間を、ただひたすらに勉強に捧げることを決めた。

運動や人当たりが得意なわけでもない。
他に際立つ才能があるわけでもない。
ただ勉強だけは、過去に自分の自信になっていた。

あの日、その自信を取り戻すことを決めた。


それからは、ただ勉強の事だけを考えた。

単語帳は何週したか分からない。ただ、単語を書き写したノートは10冊を超えた。
文法書も何周したか分からない。大半が問題を見るだけ答えが浮かぶようになった。

理系科目は、単元毎に参考書を買って何度も読み込んだ。
問題集は、最初は何分かけても分からず答えを見ていた。
ただ、少しずつ解ける問題が増えていった。

親にお願いして予備校にも通った。録音OKな授業は欠かさず録音して、後から聞きなおして復習した。

平日は予備校の自習室で毎日5時間勉強した。休みは7時間以上を目標にした。
途中から早起きして朝やった方が効率が良いことに気づいて、5時に起きる生活に変えた。

とにかく、自分なりにできる事を全部やってみた。
筋トレしながら勉強してみたり、一問解けたら声に出して自分を褒めてみたり、と根拠もない勉強法を試してみたりもした。

最初は空回りして分からないことだらけだった勉強は、いつの間にか楽しいことになっていた。
分かることが増えていく、高校の授業ではもやがかかっているように感じた知識が、少しずつ自分の知識として定着していくのが分かった。


夏休みを終えた頃、結果が出始めた。
偏差値は58まで上がっていた。苦手科目も56くらいになった。
予備校の受講クラスのランクアップ試験に臨んで、ハイクラスの授業を受けられるようになった。

そこからはあっという間だった。
秋が終わって、私立大学の受験シーズンには受けた大学はすべて合格だった。

センター試験は高校のクラスの中でも得点が高かった。
私の点数を馬鹿にする同級生はいなかった。

本命の国立大は受けた直後に合格を確信した。結果も合格だった。


入学した大学は、東大のような日本で一番の大学などでは全然ない。
それでも、私は自信を取り戻すことができた。

高校3年の一年間は本当に苦しかったけど、大学生活でも働き始めてからも、あの時と比べたらマシ、と踏ん張ることができた。

間違いなく、人生の糧となっている。

高校3年の春に戻れるのなら、私はもう一度、同じ選択をすると思う。
あの選択は間違ってはいなかった。

#あの選択をしたから


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