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瀬戸内海沿で暮らしを始めた備忘録

もっと、日常を残さなければ。何の使命感かはわからないけれど、岡山の港町・宇野に引越して数日、そう思うようになった。


1冊の本と、水筒に入れたコーヒーと、日記を書いているスケッチブックと、ペンを小さいバッグに入れ、家を出る。歩いているといつのまにか、海が見えてくる。このまちの気に入っているところ。

しかも海沿いを進むと、ベンチまである。いくつか並んでいるそれに腰をかけて、バッグから水筒を取り出し、本を開いた。ここ数年の癖でついマスクをしていたので、外してみる。一気に体を駆け巡る、潮の香り。瀬戸内海からやってくる風はたいていおだやかで、辿り着く潮の香りもおだやかなはずなのに、マスクを外したときにぶわっと香ったあの瞬間は、きっとずっと忘れない。

本を読みながらコーヒーを飲み、その狭間で目の前の瀬戸内海を眺める。ふと、止まっていた船の数が増えているのに気がつく。と思えば、岸に立っている釣り人の数だって増えていた。目の前の変化に気がつかない自分が、なんだかとても悔しかった。


時間の流れが、いつもの1/2に感じる。あまりにもゆっくりだからか、時の経過を疑いたくなるくらいに。それでも1分1秒は、今までと同じように与えられている。この、凪な日常こそ美しく、それでいて儚く、だからこそ価値があるということを、この地は教えてくれる予感がした。

私は宇野で過ごす毎分毎秒を、どれほど感じ、そして言葉にできるのだろうか。世界を見る目は、どのように変わるのだろうか。はたまた、変わらないことは何なのだろうか。

いろいろある日常が、いろいろあってもかけがえのないものだと、新たに始めた瀬戸内海を見つめる日常を通して、私は世界に表現してみたいと思った。


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