君と、二度目の二人旅

Googleフォトが、数年前の今日の写真、を紹介してきた。

君と二人旅したときの写真。もう、そんなに経つんだ。あのとき私は結婚したばかりで、君は東京に向かう前だった。
二人とも偶然、何もしていない空白期間が重なって、せっかくだから私たちは二人で旅行することにした。旅行どころか、二人で出かけるなんて久しぶり。異性のきょうだいなんて、そんなものなのかもしれない。

ちょっと照れくさく、ちょっと面倒くさかった。
だって君はわがままだから。末っ子だからかな、小さい時からそうでしょう?
私はおねえちゃんだから、ひっぱらなくちゃという気負いもあるし。

小さい頃、祖父母の家に行くために、二人だけで新幹線に乗った。あれが、君とのはじめての二人旅。
そのとき、私は気負いすぎて、新幹線に乗るやいなや、車内を君の手をつないで、ぐんぐん空席まで進んだ。
無表情でこわかったと今でも笑われる。君を景色が見える窓側の席に座らせてあげないと、と必死だったんだよ。

今回、二度目の君との旅は、少し笑う余裕を持って、新幹線に乗る。私も君も、新幹線なんか一人で何度も乗っているし、席の予約だって君も私も自分でできる。

だけど、やっぱり私は窓側の席を君に譲る。ほんとうは窓側の席が好き。一人で乗るときは絶対そこを取るのに、未だに君と二人のときは、窓側を優遇してあげたくなっちゃう。いらない気遣いかもしれないけど。

1日目はテーマパークに行った。最初のアトラクションで酔った私に、君が冷たい飲み物を買ってきてくれる。そして、他のアトラクションも楽しみにしていたはずなのに、無理しなくていいと言った。全然わがままじゃなくなっていて、びっくりした。

でもそのあと、ポップコーンの売り場に私を並ばせたね。可愛いポップコーンの容れ物が欲しいけど、恥ずかしいとかなんとか言って。
それを首にかけて、むっとした顔してる君の写真が残ってる。本当は嬉しいくせに。やっぱり君はちょっと面倒くさいね。

ホテルは二人で一部屋を取った。恋人と思われていたらと考えると、少し気持ち悪い。でもそれはないか。こんなに顔が似ているんだから。

夜中、何かの大きな音で君が目を覚まして、何の音?と聞いた。その瞬間、私は小さい頃のよく泣いていた君を思い出す。
泣かせちゃいけないという一心で、私は花火の音、とうそをついた。本当は、私だって何の音か分からないしちょっと不安だったけど。
君は、そう、とだけ答えて再び眠った。

よく考えたら、君はもう何かを怖がって泣くような子どもじゃないのに。姿の見えない暗闇は、ときに人を過去に戻すんだ。

2日目は、世界遺産のお城に行った。

庭園の写真を撮って君に見せる。
仕事に役立つんじゃない?と聞くと、ちょっとジャンル違うけどね、と興味なさそうに君は答えた。
そうか。君の目指すところは、もう私が知らない場所なんだね。

少し残念がってお城に入っていく私の後ろ姿を、いつのまにか写真に撮ってくれたのがなんだか嬉しかった。

お城の中は急な階段で、はあはあと息荒く登る。おねえちゃんは体力をつけた方がいい、と君は私の体をしきりに心配する。自分の心配をしとけばいいのに。

観光のあと、私が好きなコーヒーチェーンでコーヒーをご馳走してあげた。暑いときに熱いものは飲めない、と遠慮も何もない、可愛くないことを言う。さっさと店をあとにして、帰路についた。

あれから時間が経って、君は東京の暮らしにすっかり馴染んで、私は私で赤ちゃんを産んだ。

赤ちゃんを育てていると、君が産まれたときのこと、はじめてハイハイをしたときのこと、留守番して泣いていたことを思い出す。

それなのに、もう君は仕事に悩み上司とやり合ったり、深夜のカフェでiPadを使ったりしているんだ。不思議で仕方ない。

お互いもう忙しくて、それぞれの生活もあって、二人旅しようなんて話にも出ない。あのとき、行っておいてよかったのかもね。

年取ったときにでも、いつかまた、二人旅を。そのとき私はまた窓側の席を譲ってしまうだろうか。君はまだ面倒くさい感じだろうか。
それでもいいよ、だってきょうだいだから。

#エッセイ #旅とわたし

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