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顔なじみの町

この町に住んでもうすぐ2年が経つ。
ぜんぜんなじみがなかった場所や暮らしている人のこと、少しずつ分かってきた。

クリーニング屋のおしゃれマダムは、休みの日は隣町のコーヒーショップに行って、平日はスーパーのお姉さんとおしゃべりする。

メーカー会社は月曜から土曜が出勤日で、朝と昼にサラリーマンたちは非常階段でおしゃべりしたり、ときには携帯電話で大きな声で、「だからといって商売だから」なんて支店とやり取りしたりする。いつも決まったリズムの咳をするおじさんがいる。

このあたりの猫を仕切るのは、茶色の御年寄猫。道を渡るとき、車が来たって堂々としている。黒と白のブチ猫は車の上で日向ぼっこをするのが好きで、三毛猫は招き猫のように玄関前にお行儀よく座る。

大きな犬が二匹住んでいる家があって、二階のベランダからたまにのぞいている。よく毛並みも手入れされていて、散歩する姿は美しい。
亀を二匹飼っている家もある。いつもばたばた競って日に当たろうとしていたのに、最近は冬眠に入ったのか水槽はしんとしている。

コンビニのベテランお姉さんは、新しく入った張り切りすぎるバイトくんに少し辟易していて、それで道の向こうの別のコンビニでかけ持ち仕事をはじめた。

家と店が一体になった古いトンカツ屋さんは、おばあさんが一人でやっていて、夏はクーラーをがんがんにかけている。でもとても美味しい。おばあさんは自転車に乗れる。

ネパールカレー屋さんにはいつも三人がいて、一人は調理、一人は配膳、そして一人は特に何もしない。この中の誰かが「鶏」という漢字をマスターした。

隣の家の子どもはだいぶ大きくなって、よくお父さんと遊びに行く。お父さんはご機嫌になると歌を歌うくせがある。
そのまた隣の家の人は綺麗好きで、落ち葉が廊下にたまるのが気になっている。

私もこの町で、誰かの顔なじみになってるはずだ。いつも赤いバッグの人、と思われてるかもしれないし、考えごとをしながらふらふら歩いている人、と見られてるかもしれないな。

たまに遠くに出かけることもあるけど、来年も私はこの町にいる予定。

#エッセイ


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