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貿易と海上保険とブロックチェーン

私は、bitFlyerに入社する以前、東京海上日動火災保険株式会社という日系損害保険会社で「貨物海上保険」という非常にニッチな保険商品の引受、営業に約9年間携わっていました。この保険は簡単に言えば、輸送される貨物への損害を補償する金融商品であり、貿易が行われる際には重要な存在です。

貿易は、人類が生活をしていくために無くてはならない商行為であることに間違いはないですが、数千個のコンテナを載せて太平洋を航行する大型コンテナ船や、数十億円単位の石油を積載し中東からマラッカ海峡経由で日本に来着するタンカーを目に浮かべると、ロマンに満ちた社会の営みとも捉えることもできると思います。
一方、数百年前から脈々と引き継がれているその実務内容は煩雑であり、世界各国に関係者が複数存在することから、非効率な状況を変える事自体が非常に困難である点も特徴的です。

私がブロックチェーン業界に入る原体験もこのあたりに依拠していることもあり、少し噛み砕いて説明していこうと思います。

そもそも貿易とは

そもそも貿易の定義を広辞苑で調べると以下のような記載をされています。

1. 各地の品物を交換すること。交易。
2. 国際間の財物の交換。商品を輸出入する取引。

商品を外国に対して送り出す取引を輸出、外国から導入する取引を輸入といい、貨物の輸出・輸入には直接かかわらない第三国が、輸出者(海外の事業者)より商品を仕入れ、輸入者と商品売買契約を結び、商品は輸出者から海外の輸入会社へ直接輸出される「三国間貿易(仲介貿易)」のような貿易形態も存在します。

国別貿易額ランキング

国別貿易額ランキング

日本の輸出入額推移

日本の輸出入額推移

私たちの住む日本は、中国、米国、ドイツに継ぎ第4位の貿易金額(約160兆円)を誇り、世界有数の貿易大国です。
1985年から2018年までの約30年間で輸出入額は約2倍になっており、直近で言うと2008年のリーマンショックの影響からか2009年はひどく落ち込んでいますが、その後の原油などの資源価格下落により輸入が相対的に減少したことから貿易黒字への転換基調にあり全体としては堅調に推移している、と言えるでしょう。
主に日本で製造した自動車、半導体などの製品を輸出し、原油、LNG、食料など、足りない資源を輸入して国が成り立っているのです。
日本貿易協会のキッズサイトに非常に分かりやすく詳細な内容が掲載されています)

海上保険とは

では海上保険とは何でしょうか。海上保険は大別すると船に対して付保する保険と、積載された貨物に対して付保する保険があります。

海上保険説明

貿易立国である日本において、海上保険は重要なインフラ機能なのですが、成り立ちを少し見ていこうと思います。

海上保険成り立ちは冒険貸借
海上保険は12~13世紀に始まった冒険貸借が起源であると言われています。冒険貸借とは、船舶と積荷を担保とした金銭貸借であり、そもそも航海から帰って来られなかった場合や、海難事故で担保が全損になった場合には、「借りたお金を返さなくて良いよ」という条件がついた契約でした。このため、航海完遂時の利息は、最大で40%程度の高利であったようです。

ロンドンのコーヒーハウス
そして、海上保険の歴史が広がったのが17世紀の後半です。
エドワード・ロイドという男性がロンドンのテムズ河周辺にコーヒーハウスを作りました。このコーヒーハウスには、航海に出て一発成功を目指す船乗り、大きなリターンを得たい投資家、船を製造している船主などが訪れ、新聞などが未発達な時代の情報交換の場になりました。エドワード・ロイドは航海情報や入出港情報などを集めたリストを作り、コーヒーハウスを訪れる顧客に閲覧させることで繁盛し、結果としてこのコーヒーハウスを本拠地とする海上保険業者が有名になりました。要はギャンブル的な位置づけで始まったものがどんどん保険っぽくなっていったわけです。

海上保険の必要性
かなりさかのぼってしまいましたが、その後輸出入に使われるコンテナの出現や輸送手段の高度化、世界的なグローバリゼーションの拡大に伴う貿易量の増大により、海上保険も発達したと言われています。
輸送する船はパナマックスと言われるパナマ運河をギリギリ通れる世界最大のものから、自動車をそのまま積み込む自動車専用船、マイナス160度程度の温度を継続して保つことができるLNGの専用船など、多くの船舶が開発されました。
また、輸送される貨物も、衣料品、雑貨などコンテナに詰められるもの、冷凍・冷蔵食品など、温度管理が必要なためリーファーコンテナという冷蔵設備を備えたコンテナで運ばれるもの、石油、化学品など、ばら積み貨物と言われ船の船倉にそのまま入れられるものなど多岐に渡ります。
貿易技術は発達しましたが、海の上には様々なリスクがあり、海上輸送には海上保険が必要なのです。

韓信海運

出典:コンテナ運搬船安全対策検討委員会 中間報告書

↑2013年にインド洋沖で船舶が2つに折れた事故。当時業界にいた身としては衝撃を受けました。。

貿易実務と海上保険会社の業務

海上保険を引き受ける保険会社の業務とはどんなものなのでしょう。ここでは「貨物保険」を引き受ける保険会社の業務をざっくり考えてみます。

貿易業務の全体像
クライアントからの保険手配要請に応じて、事前に取り決めていた保険条件、保険料率で貨物保険を引き受けます。そして貿易業務上必要になる保険証券の発行を行うのです。

貿易実務_LCなし

上記が通常、輸出側で貨物保険を手配の上、貨物を輸出する一般的なケースです。

「①輸出者と輸入者同士で売買契約」が締結された後、多くのステップを踏みます。まず、輸出者は貨物名、数量、金額、仕向地の場所などの輸送内容詳細を保険会社に伝え、「②保険手配依頼」を行います。その内容を元に、保険会社は「③保険証券の発行」を行います。(この②、③が私が保険会社に勤務していた時に見ていた業務です)

その後、輸出者は「④船積・通関依頼」を運送会社に対して行い、貨物と引き換えに「⑤船荷証券を発行」してもらい、自身の貨物が積載された内容に関する書類を受け取ります。船荷証券は、運送会社が貨物を受け取ったことを示す書類です。輸出者が受け取った「⑥船積書類」は輸入者が貨物を引き取る際に必要となるため、これを輸出者から輸入者へ郵送します。

※通常は航空便で書類を郵送しますが、郵送する書類には、船荷証券の他、貨物のインボイス、パッキングリスト、保険証券、(食品など特定貨物の場合には)輸出国の検疫許可書など複数の書類が必要となります。


運送会社は、輸出者の代理で「⑦通関申請」を行い税関から許可を得て、やっと貨物の輸送(輸出)が実現します。そして貨物が輸出地に到着した後、輸入者は「⑩船荷証券提出」を運送会社へ行い、「⑪貨物受取」がやっと完了するのです。

保険会社で感じた非効率
貿易の一連の実務において、使われているのはほとんどが紙です。
また、これがL/C(Letter of Credit:信用状)を使った取引形態になった場合、以下の図のように更に輸出国、輸入国のそれぞれの銀行がプレイヤーとして増えます。

貿易実務_LCあり

L/Cとは、取引相手が海を越えた貿易取引における「貨物の引き渡し」と「代金決済」にタイムラグがあり、どちらかが実施されないリスクを回避することを目的に、輸出者、輸入者の所在する国の銀行を介した取引を行う際に当該銀行から発行される書類を言います。
銀行に船積書類を買い取ってもらい代金のやりとりをするという性質上、書類を買い取る銀行から書類の正確性が求められるのですが、各国の銀行や銀行と事業者間の取引状況によって、作らなければならない書類が異なります。
保険会社が作成した保険証券の文言もこの厳しい基準が求められる書類に含まれており、証券記載の文言が1文字違うような場合でも、再作成が求められるわけです。
(例えば、仕向地がShanghaiの場合で、Syanghaiなどになっていた場合、読んで明らかに内容は分かりますが、銀行が買い取ってくれないリスクを回避するため訂正が求められます)
FAXやPDFをメール添付などで訂正するやりとりは、荷主(クライアント)⇔保険会社で行います。特にクライアント側がFAXを使っているケースなどは最悪で、手書きで修正依頼をしたFAXが送付されてきて、それを保険会社側が修正してFAXで返送するというようなことを2~3往復繰り返したりすると、解像度が下がってしまい間違っていない文字も見えなくなるなんてことがよくありました・・・。
また、送金を行う際にも、銀行の国際送金網を使うことになるので、送金手数料が数千円/件と発生し、着金までに数日かかるのです。
前職時代、多くのグローバル企業の貿易実務を見てきましたが、同様の業務が普通に行われていましたし、改善しようとした場合でもプレイヤーが多岐に渡るので1社だけでの実現は相当難しかった、というの実態かと思っています。

ブロックチェーンが変えるもの

約9年間、貿易業務の非効率さと、規模の大きさを肌で感じてきましたが、ブロックチェーンと出会いこれを解決できるのではと思ったのがbitFlyerへ入社した1つのきっかけであり、その後bitFlyer Blockchainへと移ってきた原体験が前職での経験です。

ブロックチェーンは、貿易業務を効率化し、物流コストの引き下げ、リードタイムの削減、手続きの簡略化を可能にします。
複数プレイヤーが真正性が必要な書類などを共通の基盤でやりとりをする場合、「改ざんされていない書類であり、正しい情報であること」は必要条件であり、ブロックチェーンの耐改ざん性、透明性や、様々な秘匿化技術が活用できるのです。
また、決済、海上保険、ファイナンスも合わせてブロックチェーンに乗せることで、極めて効率的な世界がやってくると思っています。
需要、受発注、在庫、入出荷の情報などが、複数の企業を跨いでブロックチェーン上で共有され、自動的・自律的な契約執行がされ、エスクロー取引がなされればL/Cのような仕組みは不要になるはずです。

「ブロックチェーンで世界を簡単に。」というコーポレートミッションの下、貿易やサプライチェーンへのブロックチェーン活用についてもガンガン進めていきたいと思っています。

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