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with foods 誰かと、 ときにはひとりで。

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思い出の中には食べ物がある。 そんないくつかの文章を書き散らかしています。
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記事一覧

日曜日の夜の「オリガミ」

先日、亡くなった女性のエッセイを読んで「東京」の街を想った。
そして、午後になってもそのことを考えている。
いろいろな想いや言葉が浮かんできては消えて、また浮かんでくるので、
その断片を集めて、瓶に入れるように、文章を書いておこうと思う。
2016年・11月 土曜日。真っ白な曇り空の夕方。

今、わたしが想い出すのは、
東京に住んでいた日曜日の夜のこと。

わたしは東京の街に住んでいたけれど、

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九月になれば

九月になれば

日中は日射しが強いが、
夕方になれば、吹く風はやわらかで、
「秋が混じっている」と感じる。

もうすぐ九月。
空は澄み渡り、美しい季節。

大相撲の本場所が始まる。
両国国技館。
川から吹く風に、鬢づけ油の甘い香りが混じる。
時刻は昼の12時過ぎ。
JR両国駅に電車が着く。
階段を降りると本場所のポスター。
改札口近く、目を上げれば大きな優勝額から、
歴代の横綱たちが迎えてくれる。
湧き上がる高揚

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卵かけごはんのようなもの

冷蔵庫を開けてしばし考える。
「めんどうくさいな…」
何か作る気分じゃない。でも、おなかは空いている。
しかし、パンの気分でもない。

とりあえず、冷凍していたごはん、ねぎ、卵を取りだし、塩昆布とすりごま、ごま油、しょうゆを用意する。
ねぎは半月の小口に刻み、耐熱の器に入れる。すりごま、塩昆布、そしてごま油少々、卵の白身だけを割り入れて電子レンジで加熱。
卵の白身が、温泉卵ぐらいに白くなったところ

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とんびとの攻防戦

とんび。

風に乗り、高く空を舞い、円を描く。
ときどき、ピーヨロロロと鳴く。

優雅だ。

しかし、しかし、やつらは増長している。
人間の食べるものを奪うことに味をしめている。
カラスのようにゴミを漁るのではなく、とんびは奪う。
マヌケな人間をあざ笑うがごとく。

やつらの主戦場は海岸だ。

砂浜やコンクリートの堤防に腰掛け、雄大な海を見ながら、
「何かを食べたい」という人間の心理をよくわかって

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嗅覚の鋭い男

以前、ティーン向けの雑誌で仕事をしていたことがある。編集部の社員もライターも若く、さらにモデルも中学生、高校生と若く、毎日が文化祭みたいににぎやかな感じで、とても楽しかった。その出版社では、各編集部に二部学生の支援を目的にしたアルバイトを雇っており、そのアルバイトは、結構、待遇が良いらしく、さらに若いスタッフの多い編集部は居心地も良いのか、アルバイト期間が終わってもお手伝いのスタッフやライターとし

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崎陽軒のシウマイ弁当とシュウマイ

先日、ある雑誌の特集が「旅」と「お弁当」で、じっくりと読み込んでしまった。北は北海道から、南は九州まで(沖縄にもきっと美味しいお弁当があるはず)の、地元の食材を利用した美味しそうなお弁当の数々にうっとりとした。ごはんの上にど〜んと乗った大きな牛肉、飾り気がなく頑固一徹といった感じのイカめしや牡蛎ごはん、キレイに整列した穴子弁当、彩りも美しく上品なちらし寿司、老舗のお料理屋さんの昔ながらの折り詰めな

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曜日ごとのごはん

フィンランドでは木曜日は「豆スープ」の日だ。
ブラジルのサンパウロでは、
豆と肉の煮込み料理「フェジョアーダ」を
水曜日と土曜日の昼食に食べる習慣があるという。

デンマークに仕事で行ったときに、ユトランド半島の小さな村に泊まった。
土曜日の朝、地元のおじいさんに食事に誘われて、家にお邪魔した。
そのとき「これは土曜日に食べるケーキ。ミルクといっしょにね」と
甘いケーキをごちそうになった。
それが

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かき氷三景

明治屋の赤いシロップ

夏休み。午後三時。おやつの時間。
母親が手回しのかき氷機を出してダイニングテーブルに乗せる。
アルミの容器で凍らせた、円柱の氷を挟み、
ハンドルをぐるぐると回すと、
しゃっ、しゃっという音とともに白い氷が落ちてくる。
日焼けした肌の子どもたちは椅子に膝立ちになり、
白いレース模様のビニールクロスを敷いたテーブルに身を乗り出し、
かき氷機の下のセットされたガラスの器をくるくる

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ひとり飲みで町をなじませる

生まれて育った町だけれど、
高校を卒業し、大学生、社会人となると生活の中心は
東京となり、大人の視線でこの町を見ることがなかった。

久々にこの町に暮らしてみると、
この町について、まったく知らないことに気がつく。
知っているのは、毎日通った学校までに通学路、
買い物や立ち読みした本屋さんのある駅の周辺、
遊び場だったいくつかのお寺や神社や図書館、あと海。
そんな感じ。

今は、時間があるときに、

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駅で飲む。

日曜日だけれど朝から仕事。東京・恵比寿。
15時過ぎに終了する。
パソコンの入ったバッグを右肩にかけ、
今日の撮影で使用した商品のテスターが入ったバッグを左肩にかける。
重い。
まだ日は高いし、どこかへ行きたい気持ちがあるけれど、
荷物はずっしりと重い。行きたい場所として、
吉祥寺のなじみのカフェや、
飯田橋の香港風のカフェがちらりと頭に浮かぶけれど、
この荷物を持って電車を乗り継いで…と思うと、

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たい焼きと冬の空。

たい焼きは冬の季語。
いや、本当はどうか知らないけれど。
でも夏の暑い日よりも、
ちょっと寒い日のほうが似合うと思う。

乾燥している冬の晴れの日。
空はハチミツを薄く溶かしたような、淡い光で包まれている。
日が暮れれば、イッキに冷え込むだろう。
そんな日こそ、たい焼き日和。

パーカの上にマフラーをぐるぐる巻きして、
ポケットに手を突っ込み、
急ぎ足で、そのたい焼き屋さんを目指す。
並んでいる列

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白いごはんはお皿のかわり。

台湾映画における食事シーン。

純粋に食べるのが好きなひとはきっと「台湾」が好きだと思う。
ひとの生きる強いエネルギーと、どこか怠惰でも許してくれる、
そんな大らかさを感じる国の食べ物は、
やっぱり力強く、やさしくて、そしてシンプルに「美味しい」。
夜市や街の料理店、それに駅弁さえも日常の延長で、
本当に単純に食べること=生きること=幸福という図式を
示してくれるように思う。

台湾映画を見ている

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ねぎ味噌と野蒜味噌

ふだん外食も多いため、おかずを作り置きしたり、
漬物やソース等を作って、ストックしておくという習慣がない。
だけど、ときどき作りたくなるのがねぎ味噌。
白いねぎと青いねぎを細かく刻み、お酒とみりんでのばした味噌と和える。
最後に香りづけにごま油を少々。たったそれだけ。
ちょっとおしゃれ(?)にするなら、大葉を刻んで入れたり、
ガツンと味にパンチを効かせたいならにんにくや唐辛子を入れたりと、
応用も

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ココナッツサブレケーキ。

いとしの「ココナッツサブレ」

トランプみたいな長方形。
端の部分はピンキングばさみでカットしたような
半円がつながった縁取りになっている。
こんがりした優しいきつね色。
乳白っぽいパッケージを開けると、
ずらりときれいに整列している。
表面には砂糖がまぶしてあるのか、ちょっとベタベタ。
子どものときは「ココナッツの味」なんてわからなかったけれど、
優しい甘さとさくさくとした食感が大好きだった。

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