ショートストーリー たけのこの土佐煮

味を吸った鰹節までご馳走。
だから、汁に漂う鰹節を最後まで追いかけてしまう。

鍋に残った土佐煮の汁をご飯にかけて食べる。
ねこまんまの最上級版の味に虜になる。
彼女には品がないと叱られてしまう。
そう言いながら彼女も、汁を少し多めに作ってくれるのだから、なんだかんだで許してくれている。

そんな優しい彼女を僕は、怒らせた。
会社の女の子に言い寄られるところを見てしまった。
もちろん誤解で、彼女一筋の僕は必死に弁明をするが、上手くいかず。
話せば話すほど言い訳じみてくるのが、自分でも分かった。
どうしたらいいのか分からない。

そう思って黙った時に、黙り込んだことで怒られ引っ張ったかれた。
あまりの力強さに、僕はノックアウト。
追いかけることもできず、ただただフローリングに座り込んでいた。

呆然とした頭を整理して、急いで彼女を追いかける。
彼女の姿はどこにもなく、あてもなく駆け回る。
小一時間町中を走り回り、絶望感に襲われる。

ああ、もう彼女の作った土佐煮も食べられないのか。
もう土佐煮のねこまんまも許してくれないのか。

いるわけがないと分かりきっていたが、最初に探した公園のベンチに腰掛ける。
公園のライトが孤独感を余計にくすぐる。
独りでいることを隠したくて、体育座りになる。
小さくなった自分が惨めでグズグズ泣いた。

「何してるの?」
顔を上げると、近所のスーパーの袋をぶら下げた彼女が、呆れた顔で僕を見下ろしている。
僕は、ほうけた顔で彼女の名前を呼ぶことしか出来なかった。
「プッ、泣きすぎ。顔どころか、ズボンまでビショビショ」
彼女が笑って、僕の顔を服の裾で拭う。裾はあっという間に、涙で濡れる。
冷たいだろうなと思う。

申し訳なく思い、彼女の服の裾の水分をどうにかしたくて、ポケットからハンカチを出した。
彼女は、あなたの方が重症だと、呆れている。
そう言われれば、膝のあたりがなんだか冷えてきた気がする。
こんなに大泣きしたことが照れくさくて、頬をかく。

彼女が手を差し伸べて、手を繋がせてくれた。
変わりに僕は、彼女の持っていた袋を持つ。
「よく考えたら、あなたが浮気するわけないと思って。ゴメンは苦手だから、土佐煮で許してね。かつお増し増しにするから」

仲直りの印に食べたかつお増し増しの土佐煮は、安心する味だった。

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