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白い部屋(診断メーカーからの創作)

【あなたに書いてほしい物語】
仔骨さんには
「懐かしい味がした」で始まり、
「大切なものをなくしました」で終わる物語を書いて欲しいです。
できれば11ツイート(1540字程度)でお願いします。
https://shindanmaker.com/801664


懐かしい味がした。

白い部屋の中で管につながれたソイツは、
入口にたたずむワタシをみて少し驚いたように目を瞠(みは)る。

まさか、ワタシがここに来るとは、思いもしなかった。
そんな顔をしていた。

そりゃそうだろう。

口の端がぐいと上がるのがわかる。
ソイツの顔がさらに歪んだ。


懐かしい味がした?
そう、確かにそう思った。

骨と皮だけになって、呼吸さえ自分ではできない。
朽ちるだけのソイツ。

ワタシと会う時はいつも、朽ちる寸前。
以前はそう、自ら朽ちようとしていた。
今は……朽ちることしか選べない。

「ざまぁないなあ」

「なんでワタシなんか、連絡先に書いたんだ?。
 おかげで会いたくもないのに、こんなところまで呼びつけられたじゃないか」

「まさか、まだワタシがオマエを想っているだなんて夢でもみてたのか?」

ワタシに覗きこまれて、ソイツは充血した目をぎょろりと動かす。
人工呼吸器が組み込まれた喉からは、むろん声はでない。

「その口でさんざん嘯(うそぶ)いてきたくせに、いざって時に使えないとは」

ギリと、歯噛みする音がした気がする。

「期待を裏切って申し訳ないが、ワタシはオマエに何の感情もないよ。
ただ、死に損ないの顔を見に来ただけさ」

そう、死に損ない。

自分で毒を煽ったくせに、苦しみが過ぎて救急車を呼んだ、笑い者。

「何年経っていると思う?
こっちはオマエのことなどとっくに忘れていたのに、迷惑なことをしてくれたもんだ」

「宿なしのオマエを拾ってやったのに、恩を仇で返すだけじゃ飽き足らず、
ワタシのこれまでをめちゃくちゃにして、おもしろおかしく生きていたんだろう?
そのまま、笑い者になって終わればよかったものを」

濁った眼が悔しそうにワタシを見る。

ああ、懐かしい。
最初に拾った時も、コイツはそういう目でワタシをみていた。

ゴミ捨て場で残飯をあさって、のたうちまわっていたあの時も、こんな目をしていた。

大丈夫かと聞いただけなのに。

そのくせすぐにしっぽを振って、拾ってやったら我が物顔で人の寝床を占領した。

世間知らず。
甘ったれ。
才能もないのにプライドだけは高くて、何様かと思うことばかり口にする。

ワタシの空間にいる耐えがたい異物。
ワタシの時間を奪うだけの存在。
耐えかねて追い出したワタシを恨んでか、あてつけのように悪い噂を流したヤツ。

赦さない、とあの時は確かに思った。
けれど。

「オマエは口だけは達者だったけど、達者と才能はまた別だということを知らなかった。
だから、またこんなふうに落ちぶれて、ひとりぼっちになったのさ」

「さあ、こんなところまで呼びつけたんだ、さっさと見せてみな?」

「死にざまを、見て欲しかったんだろう?」

にやりと、至近距離で笑ってやる。
オマエが忘れられなかったであろう、この顔で。


「~~~~~~~!!!!!」

「できるじゃないか」


口の端から赤の混じる泡を溢れさせて悶えているソイツを後ろに、病室を出る。
すれちがいにバタバタとなだれ込む白い、人、人、人。

ポケットに手を入れると、カサリと指先で鳴いた紙屑を
開くことなく、ダストボックスに投げ入れた。


  -   ー   -


××様

こんなところをお見せするつもりはありませんでしたが、
これが最後のようなので、お手紙します。

私はあなたが笑顔の裏で苦しんでいたことにも気づかず、
あなたが私を見なくなったことを恨み、
あなたが楽しそうにしていることを妬み、
あなたの周りにあるものを憎んでいました。

あなたからその場所を奪ってやろうと思いました。
できる限りの方法で邪魔をして、あなたが違う道を選ばざるを得なくなった時、
本当にうれしかった。
こんな私でもあなたに爪痕を残せたと。

ばかなことをしました。
子供だったと思っています。
あんなことをしなければ、今頃あなたと笑いあえていたかもしれないのに。

あなたのことが好きでした。


私は、私の劣情で、大切なものを、なく し まし た。


the End
(2022-06-14)

診断メーカーはこちら

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仔骨の読んだ「白い部屋」CASTはこちら


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