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緋色の研究 朝ドラ「スカーレット」:2

承前

 「スカーレット」の前作「なつぞら」は、記念すべき朝ドラ第100作という触れ込みで大々的なPR展開がなされた。放送直後、毎日のようにウェブに上がってくる提灯記事に大手広告代理店の影を見たのはわたしだけではないだろう。
 打って変わって「スカーレット」のときは、まるで広告予算を使い果たしたかのように閑散としていたし、世間の反応も当初はほんとうに薄口だったように記憶している。
 「なつぞら」が北海道の雄大な自然のイメージを背負っていたのに対し、「スカーレット」は山奥で土と炎と汗にまみれる人たちの地味な物語であったというのも大きい。じっさい、物語の大半は窯場のなかで繰り広げられ、画面はほぼ茶色であった。
 キャストを見てみても、「なつぞら」がキラキラオーラの広瀬すず+イケメン勢ぞろいのまばゆいまでのフレッシュさを帯びていたのに対し、妙齢の戸田恵梨香、「ザ・醤油顔」でこの出演まで知名度ゼロに等しかった松下洸平という、これまた天と地ほどの対比がみられる。

 しかしわたしは、「スカーレット」はとてもよいドラマだったと思っている。
 じじつ、「スカーレット」は要所要所で視聴者の好感を得て、徐々にではあるが支持を獲得していった(ように感じられた)のであった。
 子役の熱演が光ったつらい生い立ち、戸田恵梨香へと成長した喜美子が大阪へ出てからの小ネタの利いたテンポのよさ、畳みかけるように登場するアクの強いキャラクターたち、そして信楽に戻ってからの松下洸平演じる十代田(そよだ)八郎との運命の出逢いと恋の成り行き、後半をざわつかせる「アシガール」コンビ……こうして挙げてみても、なかなかに見どころが多い。
 とりわけ瞬間最大風速といえそうなのが、黒島結菜演じる松永美津のくだりであった。はらはら、ひやひや、どきどき、もやもや、もんもん……ここでネタバレを避ける必要のあることがたいへん口惜しいが、ともかくも、憎たらしいまでに天真爛漫な美津は物語中盤の展開をかき回し、視聴者の心を千々に乱れさせた。裏を返せば視聴者はみな、女優・黒島結菜に踊らされたのだ。「ちむどんどん」では主演に回る彼女の力量は折り紙つきである。

 喜美子はこの美津の一件を含めて幾度も大きな困難に見舞われ、そのたびに持ち前の明るさや情熱、あるいは人との縁によって試練を乗り越え、ステップアップしていく。
 こういった筋書きは、朝ドラの普遍的なテーマそのものである。すなわち「逆境に負けず、自立して強く生きる女性の姿」といったもの。パターンとしては旦那を明るく賢く支える良妻賢母タイプのヒロイン像(「ゲゲゲ」や「まんぷく」)もあるが、基本的には仕事をとおして自己実現を果たす「働く女性」路線をとることが多い。
 「スカーレット」もまた「働く女性」の生涯を描いている。それは疑いようのない事実なのだが……ここでわたしが声を大にして言いたいのは、それ以上に「スカーレット」は「ひとりの芸術家の物語である」という点だ。
 「芸術家」の半生を描いた伝記として、わたしは半年間ずっと「スカーレット」を見てきた。(つづく


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