Forever LOVE

時は平成世はバブル。
浮世がそんな浮かれポンチのあの頃に社会人では無かったけれど、ITなんて言葉が浸透してきた新時代到来の空気を漂わせながら、バブルの残香が蔓延する、世間と世界が澱んでいる時空の狭間みたいな時に新卒就職した氷河期世代。

女に学は必要無し。

しかし箔は欲しいと響きだけは綺麗なお嫁さんにうってつけ女子大附属の高校に親に放り投げられ、門限10時を守りながらそれなりに女子大生を楽しんだ女にぶち当たった就職前線異常有り。

自力で探して来た所はことの如く父親から排除され、ある日突然連れて行かれたのは、今はセクシーを謳う某政治家の先代ダンディライオンの関係者。
その頃のダンディライオンは今の様に情報が個人漏洩自由発信では無くマスコミ絶対君主のヒノマルニッポンだったので、それはそれは圧倒的なヒーロー像を作り、世間を狂想曲の様に踊り狂わせていた頃。
地元のビジュアルロックバンドの名曲をBGMに、鼻筋通る画面映えする二枚目役者顔で一言何かを言えば、世の中高年女子を筆頭に歌舞伎役者を追いかける盲目のグルーピーの様に酔狂し、今では考えられぬが某政党党首ポスターがアイドルグループの剥がしに遭う様に偶像崇拝の争奪をしていた時代。
ダンディライオンの関係者は父親の豊かな人の繋がりの一人の様で、その圧倒的な人脈と信頼を使って身元の保証されている清廉なお嬢さん達を企業の有望な男性社員のお嫁さん候補に送り込む、実に合法で表向き両社両家win-winな斡旋業をしていた。
親も手堅い大手で安心。
企業も身元がしっかりした娘で安心。
そこの会社に礼を返したのかあるいは命じられたのか、企業とその口元も安心。縁故という名のナントカ。
そんな縁故屋。


全く目が笑っていない能楽の翁面の様な笑みでこちらを値踏みしてきたのは今思い出しても不思議な感覚になる。不快でももちろん快楽でも無い仮面の様な感情。
バーコードを付けるか、名前を付けて一々作業をしてするか、最短ルートで送り込むか肩書き云々で広げてるか、そんな人を壺か藁でも見ている様な黒目の大きい金縁眼鏡。

金縁は雑談早々こんな条件を出して来た。
一つは希望する方面の会社の履歴書、もう一つは当たり障りの無い柔かく穏やかな履歴書。
少ない光の中を縋る思いで書いた希望する方面は、女子なら憧れる化粧品関係。その思いをつぶさつぶさ華やかに誠実にしたためたラブレター寄りの履歴書。
もう一つは模範的に嫌われない様に当たり障り無い文章の羅列。
今だから分かるが不惑の時間と20過ぎの時間の流れは違う。それが金縁当時70過ぎなのだから、こちらはどれだけジリジリと合否を焦らせていたかも知らず、間を開けて現れた金縁の三日三晩だっただろうの顔を唇噛みながら千夜一夜の夢物語だよと、握り寄りたくなりたがら、それでも微笑み絶やすまいと、ここ一番の笑顔で行く末を聞き甘んじていたら


「履歴書を渡し違えた。」


「化粧品関係者のを私のお勧めの方に行った様で。」


「履歴書を見て先方は君の熱意に打たれたからね。面接してみて。化粧品関係者よりも堅実な企業だし。」


化粧品関係に書いた履歴書のPRの所には化粧と女性美に対する、今でも恥ずかしいけれど誇らしい文章を書き認めていて、化粧品への具体的な提案や自己アピールもしたため、柔らかい履歴書の先とは似ても似つかず、
一方市役所の戸籍関係の書類コーナーで下敷きになっている書き方雛型にありそうな杓子定規な書き方の最低限で清貧な柔らかい履歴書。
1つは某方向へ対して熱力高めで、専門性高い単語を羅列していて、しきりにらそちら方面の具体的PRの銃弾列の書類。
1つは綿菓子の様なただひたすら文字と顔写真がそこそこ整っている熱も冷も無い様な平穏平坦な書類。


さて、あなたはどう思う?


私の就職先に届けられた金縁の履歴書は。
金縁はどの様にしてその履歴書をそこへ?


内定が出て父親とお礼挨拶に伺った時に
「これ今人気らしいけど、いるかな?」


誇らしげに広げれたポスターは件のダンディライオン。
苦笑いと空笑いの狭間と、娘の為に赤べこの様に頭を下げる父親の姿を見て、行く末ならずもここは一興


「魔除けにします。」


21歳の笑顔でそのポスターを恭しく頂戴した就職前線異常有り。


ポスターは1日だけ部屋のドアの内側に貼って寝たら、大きな人間大のスズメバチが部屋の隅にまんじりとこちらを見張っている夢でうなされてから、クルリと巻いて今は実家の素敵な所にあるのだろうと千夜一夜。

ここから私の社会人千夜一夜も始まるプロローグの様な雑文。


それでは皆さま良いお酒を。




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