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実家が微妙なお化け屋敷だった話

 私の実家は畑だった土地を購入した両親が建てた家で、お墓だったとか怖い事件があったなんて言う謂れは全くないはずの場所だった。
 お金がなくて平家を建てた数年後、二階部分を二部屋増築した。私と姉は自分のやっと部屋が持てると喜んだものだった。今にして思えば実家の雰囲気が変わったのはその頃からだったかもしれない。

 部屋が二つあるのだから、私と姉は当然ひとり一部屋ずつあてがってもらえると思っていたが、母親は西側の一部屋を姉妹で使うように言った。
 しかしうちの姉妹は5歳違い。子供部屋で宿題をしたり友達を呼びたかった姉からしたらそばをうろちょろする私の存在は邪魔でしかなかったようだ。いつも子供部屋から追い出される私を見かねて、一時期机も寝る場所も一階の和室に移されていたことがある。
「二階にもう一部屋あるのだから使わせてよ」
と何度も頼んだが、なぜか母親は言葉を濁して使わせてくれなかった。

 私が中学生になったころ、例の東側の部屋の使用許可がおりた。塗壁の色が薄緑で地味、部屋の入り口もドアではなく襖だったたけど、私は自分専用の部屋が持てた喜びでいっぱいだった。すっかり舞い上がっていた私も少し経ってようやくこの部屋の不気味さに気がつくことになった。
 とにかく鳴家がすごかった。天井裏からピシッ!ピシッ!と頻繁に聞こえる。夜中に何度も目が覚めるほどに。両親は「増築したのだから仕方ない」と言っていたが、以前隣の部屋で聞こえた回数より明らかに多かった。
 さらに夜中のいわゆる丑三つ時を迎えたころ、この部屋の雰囲気は一変する。何かが見えるわけでもない。不気味な声が聞こえるわけでもない。でも悪意を持った存在がこの部屋に息を潜めて私のことをじっと見ていると言う確信があった。あまりに怖すぎる時は両親の部屋に逃げ込んだものだった。

 高校生になった姉が彼氏をうちに連れてきたことがある。彼氏が滞在中、二階には一度も足を運ばなかった。ところがである。彼氏が帰った後、姉が猛烈に怒っていた。
「なんで嫌がらせみたいに二階に来るの⁉︎」
「えっ⁉︎行ってないよ、だって遠慮じゃん」
「隣の部屋で暴れてたでしょ。ものすごい足音がしたもの。あんた以外に誰が来るのよ!」
何度も行ってないよと言ったがなかなか信じてもらえなかった。うちには他に私しかいなかったのだから。最後には無理やり納得してもらったけど。

 小さな悪戯のような現象はちょこちょこ起こった。でも心霊漫画に投稿できるようなレベルのものではなく親に話してもわかってもらえず、私が地味に嫌な思いをしただけだった。

 その後、私は結婚し車で10分の距離の隣町に嫁いだ。時々実家に遊びに行くのだが、帰り道の車の中で必ずお腹が痛くなることに気がついた。なんとか駐車場に車を止めて毎回トイレに駆け込む。その頃知り合いになった霊感の強いママさんに聞いてみたら
「あの土地一帯が悪いんだね。それで影響を受けちゃうんだよ。あなたの実家だけの問題じゃないよ」
と言われてしまい、結局解決には繋がらなかった。
 子供を連れて実家に泊まることはあったが相変わらずだった。子供たちは口をそろえて「ばあばのうち、夜中になると一気に雰囲気が悪くなるね」と言った。

 そんな微妙なお化け屋敷はある日突然あっけなく終了した。それはまさかの震災がきっかけで。
 東日本大震災で一階の天井近くまで浸水した実家は元通りに修理され、本が一冊書けそうなくらい色々あった私は子供を連れて実家に出戻ることになった。
 実家の雰囲気はすっかり変わっていた。まるで何もが洗い流されたかのように。もう夜中になっても怖い雰囲気は漂わない。子どもたちは言った。「津波で亡くなった人と一緒によくないものも天に昇ったのかもしれないね」と。



#2000字のホラー

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