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愛しているけど、好きじゃない。でも。

なんだか眠れない。
引越しまであと1ヶ月を切った。

私はこの春、生まれ育った大阪を離れて、夫の故郷の三重に移住する。
夫の故郷といっても、実家ではなく、同じ市内の中でも利便性の良い場所へと引っ越す。

大阪を離れるのは実はこれが初めてではない。
高校を卒業後、就職した際に府外にある職場の寮に入った。
実家も故郷も何もかもが嫌になり、半ば逃げるようにして寮付きの職場に就職。
同じ関西とはいえ、微妙なニュアンスや言葉のイントネーションが違う。寮内の厳しいルールと慣れない人間関係も相まって、寂しさが募る。
そんなネガティブな感情に、どうやって対処していけば良いのか、どう自分をケアすれば良いのか、私は全く知らなかったのだ。

さらに大学に進学した友人たちの話を聞いて、自分の環境と比較して落ち込んでしまった。正直、羨ましかった。
バイトも未経験の自分が、一生この仕事をして死んでいくのか。
そんなこと、考えるのが遅すぎだろうと思うのだが、経験も知見も浅く、また青かった。

その後、怪我をしたこともあり、仕事は辞めて大阪に帰ってきた。
みんな応援してくれていたのにな。

あれから20数年。

私は進学、就職、結婚、出産、復帰、退職、起業とジェットコースターのような人生を歩んでいた。
さらに、2年ほど前に三重に移住することが決まってから、怒涛のような日々を過ごしている。

ふと、カレンダーを見るとカウントダウンが始まっている。

「この大阪最後の1年は会いたい人、行きたい場所にどんどん行こう」と、懐かしい人たちに会ったり、夫とまだ行ったことのない場所や昔住んでいた思い出の場所を巡ったりした。
かつて住んでいた町は高速道路や新しい路線が開通し、元はどんな景色だったのかわからなくなっているところがある。
「あ、引っ越すって決めてよかった」と思うような、ネガティブなことも中には起こる。
それでも面影を見つけては、芋づる式にいろんな思い出を夫に話した。

会いたい人たちと約束した時もそうだ。
よく一緒に遊んで、一緒に仕事してたあの頃みたいに、いつも通り話して、いつも通り飲んで笑って、笑顔でまた会う約束をする。
そして、お互い歩んできた道やこれから選ぶ道が違うんだということも、同時に実感する。
そうやって、一つ一つに別れと区切りと、感謝を伝えていっている……
……つもりだった。

「また会おうね」
「大阪に帰ってきたら、あそぼ」
「観光ついでに遊びに行くよ」

みんなとそうやって話して、最後は「またね」とあっさり別れる。
これからもいつでも会える距離にいるかのように。
でもね、きっともう会えない人の方が多いんだよな。

ここまで書いて、私は自分の感情と眠れない理由に気づいた。

私は寂しいんだ。
忙しさで寂しさを感じる暇がなかった。

ここでちゃんと「寂しい」と泣いておかないと、20年前と同じように環境の変化を乗り越えられなくなる気がする。

そう、私は寂しいんだ。

今の大阪は、残念ながら私が大好きだった頃の大阪ではない。
大好きだった場所も、大好きだった頃の場所ではない。
相手が変化したこともあるけど、私の感じ方や考え方も変わったのだ。
友人たちと別れることになっても、大阪を離れることを決意したのは私。

私は愛する夫と子どもと共に、新しい場所で生きていく。

故郷のことは愛しているけど、好きじゃない。
それでも、やっぱり寂しい。

鉱物ちゃんに今の気持ちを話してみた。
今日は何も言わずにそっと私のそばで微笑んでいる。
これでいいんだ。

寂しさの根っこは、また今度探そう。
今は寂しさをしっかり認識する時間。

明日からまた怒涛の日々が始まる。
その前に、この寂しさをしっかり抱きしめて、ちょっと泣いてから眠ろう。

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